幕間 三人《後編》
暗い暗い、森の中。
片手の女が疾走する。
道をはずれ、更に暗い森の中をどれだけ走っただろうか。
マリーリェが走りながら、後ろを振り向いた。
私を追ってきたのは五人、いや 六人か。
これくらいの人数なら、
まあ……、相手してやるか。
マリーリェは、足を止めた。
そして、上着を脱ぎ始める。
革鎧を外し、シャツを脱ぎ、上半身裸になった。
体は綺麗に引き締まっていて細く、それでいて、豊かで形の良い乳房が丸見えになる。
男性経験も豊富なその体は、淫猥な雰囲気を漂わせていた。
その格好のままで、森の中の、やや開けた場所に歩みでる。
「なんだ?!」「オっ オッパイだぁ!」「観念したのか?」「うへへへぇ 良い体してんじゃねーか」
「ああ、観念したよ。ちょっとこの左手を見てくれ」
そう言って、彼女は肘から先のない左手を挙げて見せる。
「私は最近、冒険の途中で左手を失ってしまってな。冒険者としては、もう駄目で、もう引退して"女"として生きていくつもりだったんだよ。
だから……、ちゃんと、相手する。だから、頼むよ。顔や体に傷をつけないでくれ」
それから、右手にもっていた長剣を、地面に投げ捨ててみせた。
「いい心がけじゃねーか」「オッパイだぁあ オッパイだぁあああ」「そうそう、女は女らしくすりゃあいいんだよ」
「げへへへへ」「傷つけないかどうかは、お前のサービスしだいだな」
「ああ、口でも手でも、体中すべて使って、たっぷりサービスしてやるさ。
だから、まずはズボンを脱いであそこを出してくれよ」
マリーリェの言葉に、期待に眼を輝かせて四人の男がいそいそとズボンを脱ぎ始めた。
残りの二人はとりあえず一歩下がって、周りを警戒しつつ、此方を見てる。
ズボンを脱いだ4人は、そそり立ったモノを見せ付けるように並べてみせた。
男達のモノはこの先行われるであろうサービスを想像し、期待にそそり立ち、すでに、ねっとりと嫌な光を放っている。
男って、本当に阿呆だな。
彼女は、腰の後ろから、体に隠すように縛り付けてあった巨大なナイフを引き抜く。
それは、刃が途中で"くの字"に折れ曲がる独特な形状で、重心が極端に刃の先の方にある為、片手でも敵を切断可能なナイフ。
ククリナイフだった。
マリーリェが、そのククリナイフを、横に薙ぐ。
ひと薙ぎで、4本のあそこが、一気に刈り落とされた。
ぎぃやぁああああああああああああぁぁぁあああああああああああ
鼓膜を破るような絶叫が、森の中に鳴り響く。
四人の男が地面にのたうち回る。
残り二人の盗賊が、慌てて襲い掛かってきた。
だが、彼女はむき出しの乳房を揺らしながら横に転がり、軽々と交わす。
地面に転がる彼女に向かって、剣を振り下ろそうと盗賊が、一歩ふみこんだ。
その足首を、地面に転がったまま、狩る。
ぐあああああぁあああああ
足首から先をなくした盗賊が、呻き声を挙げて、地面へと転げ落ちた。
「なっ なんだこの女ぁああああ!」
最後の一人が叫びながら襲いくる。
剣をかわし、その首を、マリーリェが、あっさりと掻っ切る。
その後に、あそこや足首を切られ転げまわっている盗賊達の首を、冷淡に狩っていった。
彼女は、速く、鋭く、そして圧倒的に強くなっていた。
グルキュフの隙を突いたにもかかわらず、余りの実力差に傷一つ付けることができず、そのうえ、リィとルゥ双子の魔法使いに邪魔をされ、グルキュフの前から逃げ出さねばならなかった、あの雨の日。
あれ日以来、毎晩、自分の肉体を苛めぬき破壊するかのような過酷なトレーニングを積んできていた。
さらに、心の中では常にグルキュフと対峙した時の事を思い描き、何度も戦い続けている。
すでに彼女は、そこら辺の並みの剣士など相手にならない程の腕前になりつつあった。
そのうえ、普段は用心深く、自分の強さを外に見せず隠しとおしている。
最近、会得したククリナイフは人前では、一切、使わない。
ドーン商隊の採用試験を受けた時も、普通の片手剣を使い、さらにギリギリで合格できる程度に手をぬいていた。
彼女の行動の目的は、ただ一つだけ。
それは、もちろん、グルキュフを殺すことだ。
――――――
キアラは、そこそこ剣の腕は立ち、盗賊相手なら一対一で、遅れをとることは無い。
しかし、自分の目の前にいる盗賊は五人。さすがに1対5では、とても敵うはずがない。
だが、盗賊達も、手をこまねいていた。
「おい、殺すなよ」「久しぶりの女だからな、生け捕りだぞ 生け捕り!」「顔に傷つけんなよ」「くそ、厄介だな!」
さっさと殺してしまうなら、さほど苦にもならない。
だが、必死に剣を振り回す者を、生け捕りにするのは難しい。
キアラは、近づこうとする盗賊に対し剣を振りながら、後退し続けた。
どちらも決めてがない。
このままじゃ、いつか体力切れで追いつめらる。
なんとかしないと!
内心で、キアラが焦りを募らせる。
その時、体が大きく揺れて、地面に転がってしまう。
な? 何が?!
すぐに理解できた。
大きく周りこんだ盗賊に、後ろから腰にタックルされたのだ。
地面に組み伏せられてしまう。
「ナイス!」「よくやった!」「ひゃっほうおおおう!」
地面に倒れたキアラに、次々の盗賊達の、手が伸びてくる。
まず手に持っていた剣を奪われ、それから、手を押さえつけられ、足も押さえつけられる。
「止めろ! 離せ ぐ……」
叫ぼうとする口もふさがれる。
そして、無理矢理に服が破らた。
まだ、膨らみきっていない成長途中のキアラの胸が丸出しになる。
「動くと怪我するぜぇえええ」
剣先で、ベルトが切られ、ズボンが引きずり降ろされる。
三角の布と紐だけで構成された質素な下着だけの姿になってしまう。
暗い森の中、僅かな木漏れ日を浴びて、キアラの白い裸体が浮かび上がった。
「綺麗だなあ、こりゃ処女かぁ? へへへへっへ …… へぇ?」
不意に男の動きが止まる。
いや、周りの盗賊達、手をおさえつけていた盗賊も、足を押さえつけていた盗賊も、すべての動きが止まる。
一拍おいて。
ドサドサドサ、と、音をたてて、男達の首が地面に落ちた。
切られた首の断面から、大量の血が噴出し、キアラの白い裸体を真紅に染める。
生暖かい血をその白い裸体に浴びながら、キアラは何があったのか理解できず呆然としていた。
そんな彼女を、首を切られた男達の背後から見下ろす影がある。
そこには、見たことも無い形状のナイフを持つマリーリェが、悠然と立っていた。
――――――
ヒュン
風を切る音と共に、一人の盗賊の頭を、矢が撃ちぬく。
盗賊は声も無く、その場に崩れ落ちた。
「うわ、やられたぞ!」「あっちから飛んできたぞ」「くそ、まじか」「気をつけろ!」「どこだ?!」
左へと逃げたウノは、少し走っただけで、すぐに逃げるのを止めてしまっていた。
どうせ、私の体力じゃ逃げ切れない。
迎え撃つ!
マリーリェの言葉にのって、すぐに二人と別れウノ。
だが、彼女は足が遅い自分のせいで、他の二人を危険に巻き込みたくないという思いから、別れたのだった。
見つかって、距離を詰められたら終わりだ。
そう解っているウノは、矢を放つと同時に、こそこそと隠れるように移動する。
回りこんでから、また、別の盗賊に向けて矢を放つ。
盗賊の一人が、また、声もなく崩れる落ちた。
「まただ!」「散らばれ!」「見つけたら、ぶっ殺してやる!」「どこだ くそ!」
ふう。
これで、何とか三人を倒した。残るは、四人。
体力が切れてきていて、手が震えている。集中力も切れそうになる。
それでも、すぐさま移動をしないと見つかってしまう。
移動しようと体を動かした時に、草に足を取られ体のバランスを崩し転倒しそうになってしまった。
「みーつけた」
不意に、後ろから声をかけられた。
しまった。
ふりむくと同時に、頭を強打をされる。
鈍器で後頭部をなぐられたようだ。視界がゆれ、意識が揺らぐ。
「殺すなよ!」「うるせー こいつは俺の弟を撃ち殺しやがったんだぞ!」
「やることやったら好きに殺させてやるから、待てって!」「黙れ しるか! 殺す!」「こら止めろ! 殺すな!」
意識が薄れる中で、頭の上で、そんな内輪揉めをする会話が聞こえてきた。
た、立ち上がらなきゃ、酷い目に合っちゃう。
そう思っても、体に力が入らない。
……
ウノの意識が更に薄れ、闇に落ちていく。
……
光の筋が、森を切り裂いた。
盗賊の一人が、光の筋に打ち抜かれ、転倒する。
竜殺しユーイチ。
彼女が恋焦がれる相手が、馬なし馬車に乗って、駆けつけてくれたのだ。
「これを使え!」
勇一がレーザー小銃を投げ渡す。
ウノが、そのレーザー小銃を受け取ると同時に、周りに向けて掃射する。
普段から、弓を扱っている彼女と、レーザー小銃は相性がいい。
一瞬で、周りの盗賊をすべて撃ち殺した。
「大丈夫だったか?」
ユーイチが、駆け寄ってきてくれる。
「はい、だ、大丈夫です。
あ、あの、私の事……、お、覚えていてくれてますか?」
ウノの言葉に、ユーイチはニッコリと微笑む。
「もちろんですよ。久しぶりですね。ウノ・パウさん」
ああああ、ユーイチ様!
ウノは感情が抑えきれなくなって思わず叫んでしまう。
「私、じ、実は、ま、前から、あ、貴方を愛しちゃっています!!」
ああ、ウノ! 実は俺もウノを愛しているよ!ユーイチは、そう言うと同時に、ウノを抱きしめた。
ゆーーいち゛ぃざまぁあああああぁぁぁあああああ!! あぁぁあああぁああああああ!!!!
強く抱き合い、舌をからめ、貪るように、熱いキスをかわす。それから二人は手を取り合って、冒険へと旅立った。王国を救い、宝を見つけ、魔王を倒し、世界を平和にする。英雄 "竜殺し"ユーイチの、その横には常に、妻のウノが肩を並べている。そして、二人は年を取り引退して、田舎で三人の子供を作る。子供達はスクスクと育ち、やがて結婚し、それぞれの家庭を作り家を出て行った。年老いて、また二人っきりになったユーイチとウノは、しわくちゃの顔でみつめあい、そして、お互いを労わるように優しく抱きしめあった。そして、映画がラストシーンを迎えるように、二人を照らすスポットライトは光を落とし、ゆっくりと暗くなっていく。
彼女の思い描く、幸せな幻想は、そこでぷつりと途切れた。
最初から
それは 幸せな幻想でしかない。
……
そして、
すべてが……
闇になる。
……
……
「あーあ。いきなり殺しちまいやがった」「やる前に殺しちまって、どうすんだよ!」「待てって言ったのに、この単細胞馬鹿が」「うるせぇな。くそ、くそ、この小娘が! 弟の頭を撃ちぬきやがったんだぞ! 頭つぶしても、まだ気が収まらねえよ!」「まあ、いい、やるかな」「ええ? 頭が潰れた死体相手にかよ?」「やれるやれる、突っ込めば一緒だってぇえ……ぇぇえいぇえ???」
ゴトリ と、音をたてて、盗賊の首が落ちる。
な?! なんだぁ?!
不意を突かれた盗賊が、反撃の姿勢を整える前に、次々とその首が狩られていく。
首を狩る者。
それは当然マリーリェだった。
「ウノさん! 大丈夫ですか!」
後ろからキアラが飛び出して、倒れているウノを抱きしめる。
「ウノさん! ウノさん! しっかりしてください!」
キアラが必死に呼びかけるが、反応は無い。
すでにウノは、こと切れていた。
ちっ。
マリーリェが、舌打ちをする。
間に合わなかったか。
いっそ無理に反抗せず、強姦いれば、命だけは助けてやれたかもしれないのにな。
ウノ・パウ。
彼女がもうほんの少しだけ勇気をだして勇一に声をかけていれば、運命は変わり、千年語られる伝説の中に彼女も登場し、本当に活躍していたかも知れない。
だが、もう遅い。
彼女は、暗い森の中、勇一がまったく知らぬ所で
幻想の中で、一人、静かに息をひきとったのだった。




