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49 鐘楼

 勇一が走る。

 石畳を蹴って、ダーヴァの街を走り抜ける。


 何処だ? 何処にいる?

 いったい"奴ら"は、何処にいるんだ?


 走りながら首を巡らし、周りを見る。

 石造りの建物が両側から迫る、狭い裏通りには、あまり人通りはない。


 いた!

 建物と建物の隙間のような横道。視界の角に"奴ら"の後ろ姿を僅かに見つける。

 すぐさま、勇一はレーザー小銃(ゴーク)を構えて狙いをつける。

 だが、"奴ら"はすぐに角を曲がり横にある路地に入っていってしまい、その後ろ姿は視界から消えてしまった。

 どうやら"奴ら"は、逃げる時の定石どうりに、角をジグザグに曲がりながら逃げているようだ。


 くそ!

 勇一は、また走りだす。

 元々、運動系の部活に所属していたし、足はかなり速いほうだった。

 それに対して"奴ら"は女性を数人、誘拐している。女性を抱きかかえて走る者を中心にして、他の者はその周りを守るように輪を作りながら逃亡していた。その為、女性を抱きかかえて走る者の速さに合わせて逃げる必要があり、全体の移動速度は遅い。

 細かい事をいえば、"奴ら"は、それなりに重量があり走るときにも邪魔になる革の鎧を身に着けているのに対して、勇一は防具類は殆ど身に着けず、条件としては、かなり有利なはずだ。


 それでも、なかなか追いつけない。

 ジリジリと引き離されていく。

 

 畜生!

 元体育会系部活でいびり倒されて、ゲロ吐きながら走らされてた俺をなめんなよ!


 勇一は、走り方を変えた。

 レーザー小銃(ゴーク)を邪魔にならないように完全に背中側に回す。

 前かがみ気味になっていた背筋を伸ばし、体を前傾させる。握っていた拳を開け指先をピンと伸ばして、腕を縦に大きく振る。腿を引き上げるように上げ、一歩の歩幅(スライド)を大きくして、地面を蹴る。

 それは、陸上部との合同練習の時に習った、止まる事やターンする事を無視して直線の加速だけを意識した走り方だった。

 体がグンと引っ張られるかのように、一気に加速する。

 "奴ら"を追って街の中を、勇一が疾走する。


 横道のあまり無い比較的長い直線に出た。

 そこで"奴ら"の背中を、視界に捉えた。


 よし! もらった!

 レーザー小銃(ゴーク)を構える狙いを付けると同時に引き金を引く。

 だが、光の筋(レーザー)は、"奴ら"の一人の肩をかすっただけで、外れてしまった。

 走りながら、撃つ射撃など、それほど当たるものではない。

 すぐさま狙いを定めなおし、追撃しようとする。


 だが、その時。

 "奴ら"が飛んだ。

 空を飛翔した訳ではない。大きくジャンプして、建物の屋根の上に飛び乗ったのだ。女性を抱きかかえている者も、軽々と空中へ飛びあがり、屋根の上へと飛び乗っている。

 そして、そのまま屋根伝いに逃亡を続ける。


「くそっ!」

 勇一は、もちろん屋根の上に飛び上がったりなど出来ない。

 地面から、その姿を見上げるだけだ。


「御主人様、待ってて下さい。わたしが追ってきます!」

 後ろから追いついてきたニエスが、勇一を追い越す。と、同時に地面と蹴り飛び上がり、屋根の上に音も無く着地する。

 そのまま屋根伝いに走り、"奴ら"を追いかけていった。


 その後姿を見つめつつ、勇一はちょっと落ち込む。

 亜人で、半猫人のニエスに身体能力で負けるのは仕方ないとして、"奴ら"を追うことすら出来ないことに少なからずショックを受けていた。

 "奴ら"は、魔法か何かで体力を増加したりしてるのか? 

 それとも俺と異世界人の間には、根本的に体力の差がありすぎるのか?


「ユーイチ!」

 ニエスと共に追いついてきたディケーネが声をかけてきた。

 その声で、ハッと我に返る。勇一が、自分の思いに囚われていたのは、ほんの一瞬だ。


「私達はどうする? 逃げる先を予測して先回りするか?」

 そうだ、くだらない思いに囚われている暇はない。

 馬鹿正直に追っても追いつけないないなら、先回りするなり頭を使うなり、自分のできる事をやればいいだけだ。


 さあ、どうする?

 

「先回りするなら、"奴ら"が街を出るときを狙うのが良いかもしれん。街を出るには、どこかの門を使う必要があるからな。一番近い門なら、こっちの方向になるぞ」

 ディケーネが、門のある方角を指差している。


 だが勇一は、門のある方向には興味を示さず、何かを探して周りを見回した。

 そして、何かに目をつける。

 あれだ!


「こっちだ、ディケーネ」

 門の方向とは別の方角へと勇一は走り出した。


「どこへ行くんだ?!」

 ディケーネが慌てて、後を追う。


 勇一が目指す先。それは、教会だった。

 教会へ入り、礼拝室を通り抜けて、奥にある扉を開け、中へと飛び込む。

 後ろから傍若無人な侵入者である勇一達に向かって、教会関係者が何か叫んでいるのが聞こえるが、とりあえず無視をする。

 奥の扉の向こう側には長い長い石造りの螺旋階段があった。そこを駆け上がっていく。

 螺旋階段は、狭く暗く、そして長い。上へ上へと、ただ、ひたすらに黙々と膝をあげ、地面をけり、駆け上がっていく。

 ディケーネも、勇一を信じているのか、もう何も言わずにその後を追って、やはり黙々と階段を駆け上がる。


 螺旋階段を登りきると、急に目の前が開けた。

 其処は鐘楼だった。

 真ん中に巨大な時を告げる鐘がぶら下がっている。そして、周りを見廻すと、ダーヴァの街が一望できた。


 強い風が、二人と吹き飛ばすかのように吹き付けてくる。

 勇一をその風を無視して、鐘楼の端まで寄って、眼下のダーヴァの街に目をこらす。

「あそこに、"奴ら"がいるぞ!」

 ディケーネが指差す方向に眼をやると、かなり離れた場所に、蟻のように小さく"奴ら"が見える。

 屋根伝いに移動しているその後ろ姿は、勇一達がいる鐘楼からは丸見えだ。

 少し遅れた後ろを追っている、ニエスの姿も見える。

 

 勇一は暗視ゴーグルを装着する。

 自衛隊のシェルターで装備を整えた時から胸に掛けっぱなしで、全然使っていなかった暗視ゴーグルだ。見た目はスキーやスノーボードで使うようなゴーグルにそっくりだが、暗視だけでなく、熱反応探知(サーモスキャン)や録画機能、そして”望遠機能”があった。


 ゴーグルの望遠機能をONにすると、自動でレーザー小銃(ゴーク)と連動する。

 ゴーグルに映し出される拡大映像の中に、赤い点が一つ浮かび上がる。レーザー小銃(ゴーク)仮想電子照準的バーチャルドットサイトが、着弾予想地点を赤い点で表示しているのだ。

 レーザー光線を使ってで標的に対して、実際に赤い点を、投影する一般的な光線式標準機(レーザードットサイト)とは違って、ゴーグルの中の映像だけに赤い点が表示されている。


 レーザー小銃(ゴーク)は、スイッチを操作して、バーストモードから短射モードに変更した。

 短射モードは他の射撃モードに比べて、レーザーの集積率が良く、長距離射撃に向いている。


 肩膝を地面につき、安定できる格好で狙いを定める。

 短射モードでは、非常に遠距離まで安定してレーザーを射出できるかわりに、目標への攻撃面が『点』になってしまう。

 一撃で、"奴ら"の動きを止めるには、頭を打ち抜く(ヘッドショット)しか、無いだろう。

 "奴ら"の中で、女性を抱きかかえている者の一人、その頭に仮想電子照準的バーチャルドットサイトの赤い点を重ねようと狙いを定めるが、なかなか重ならない。

 距離の遠さよりも、標的が動き続けている事のほうが、狙いを付ける上で障害となっている。


 改めて、精神集中を行う。肺の中の空気をすべて吐き出す。

 体中の全神経がレーザー小銃(ゴーク)へと繋がり、さらに一本の光の筋となって伸びていき、対象の頭を貫くイメージを、心の中で、リアルに構成する。

 仮想電子照準的バーチャルドットサイトの赤い点が、標的の頭に重なった瞬間。

 銃身を揺らさないように、静かに引き金(トリガー)を引く。


 一筋のレーザーが、ダーヴァの街の空を、切り裂くように奔る。


 殆ど音も無く光の筋(レーザー)が、標的の頭を貫いた。

 女性を抱きかかえている者が、ふいに糸が切れた人形のように、その場にストンと崩れ落ちる。

 周りの"奴ら"の動きが止まった。

 どこから、どんな攻撃を、受けたのか、まったく理解できていない。明らかに動揺しているのが、遠目にもわかる。

 攻撃を警戒しているのだろう。"奴ら"が女性を抱きかかえた数人の者を中心に、周りの攻撃から守るような形で円陣を組んだ。

 

 勇一が更に、別の女性を抱きかかえた者に狙いを付ける。

 高所から見下ろす勇一に対して、敵が組んだ円陣はさほど障害にならない。逆に、円陣を組む事によって速度を落とした"奴ら"は、絶好の的だった。

 息を吐き出し精神を集中して、電子想定照準的(レーザードットサイト)の赤い点が、標的の頭に重なった瞬間。

 銃身を揺らぬため撫でるようにして、引き金を引く。


 また一筋のレーザーが、ダーヴァの街の空に奔る。


 レーザー光線が、標的の頭を撃ちぬく。女性を抱えた標的は、やはり糸が切れた人形のように、その場にストンと崩れ落ちた。

 周りにいる"奴ら"も、今度は警戒していた事もあって、光の筋(レーザー)の攻撃を眼に捉えたようだ。何人かが、此方の方向を振り返って指さしているのが見える。

 だが、反撃を試みようにも距離が遠すぎて、向こうからは何もできない状態だ。

 逆に、こちらに攻撃に気付いて此方の方向を気にするがゆえに、逃亡の速度が更に落ちてしまっている。

 まさに、勇一にとっては好都合だった。

 更に息を吐き出し、精神を集中して、ゆっくりと引き金を引く。

 

 光の筋(レーザー)が、ダーヴァの街の上に奔る。


 "奴ら"の一人が、盾となるベく、勇一と女性を抱きかかえている者の射線に割ってはいった。

 だが、光の筋(レーザー)は、無慈悲に、その者の体を貫通し、標的の頭を貫く。


 反撃も出来ず、防御も出来ない。

 その事を理解した"奴ら"は、改めて逃亡を開始しようとする。

 抱きかかえていた者が頭を打ちぬかれたせいで、誘拐した女性達が屋根の上へと放り出された状態になっている。

 他の者が、誘拐した女性を抱きかかえ、持ち上げようとする。

 だが、その者の、体が真っ二つに切り裂かれた。


 ヒュンヒュンと音をたて、光の剣が空を切り裂く。

 "奴ら"に、追いついたニエスが、懐に飛び込んでレーザー拳銃(レイニー)を振り回す。

 混乱が"奴ら"を支配した。

 腰の短剣を抜いて反撃にでるものの、組織だった反抗は、すでに出来ない。

 反撃を試みる者は次々とニエスの光の剣の餌食になり、逃亡を図るものは遠距離から勇一に頭を打ち抜かれていく。


 最初の一撃から、僅か十秒程。

 その僅かな間で、誘拐実行犯である"奴ら"を全滅したのだった。

お待たせ致しました。異世界スクワッド 三章の始まりとなります。


この章から、やっと本格的に、そして大きく物語が動き出すこととなります。

あの敵や、あの人も、この章から活躍していきます。

これからも是非、ご愛読頂けますようお願いいたします。



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