82.「あの日」7
目覚めたのは、ヘリコプターの中だった。
プロペラの振動が背中を揺さぶっている。
視線をあげると、怖い顔をしながら、おとうさんがわたしを睨みつけていた。
「……スイ」
唸るような低い声。状況がわからずに、ゆっくりと、あたりを見回す。
重だるい頭でぼんやりと、怒られる、そう思った。
勝手に地下室を出たこと。
それが見つかったら怒られてしまうことは、出る前から分かりきっていたことだ。
「……おかあさんは」
それでも、お説教の前に、それだけは知りたかった。おかあさんは、ここにはいないの?
おとうさんは苦しそうな顔をして、絞り出すみたいに言った。
「……死んだよ」
死んだって、なんだろう。そう思って、きょろりとあたりを見回す。
「立ちなさい」
おとうさんの声に、身体は動かない。
まだ頭が重たくて、このままもう一度眠りたい。
「早く!」
びくり、突然の大声に肩が震えて、わたしはあわてて立ち上がった。
よろり、よろめいたわたしの襟首をおとうさんが掴んで、ヘリコプターの窓のところに立たせた。
ガラス窓から、町を見下ろす。
眼前に広がる景色に、ひゅん、息を呑んだ。
赤、赤、灰色の煙、赤。そして地面に横たわる、大きな、黒い塊。未知の獣。
何が起きているかはわからない。
それでも、大変なことが起きた、そう本能的に理解する。
「お母さんは、——真由は、死んだ。もう二度と戻らない」
二度と戻らない。もう二度と、会えない。死ぬこととはそういうことだ。
理解を拒むわたしを置き去りにして、吐き出すように、おとうさんは続ける。
「真由だけじゃない。この町には7000人の人間が住んでいる。この規模の火災では、間違いなく数千人規模で死者が出るだろう」
どん、どん、左の胸のところが、強く皮膚を打っていた。
びりびりと頭の奥がしびれて、足先がつめたくなっていく。
「お前が犯した罪だ」
この言葉は、ずっとわたしの中にある。
あの日、わたしは罪を背負った。
贖罪以外に、生きていてはいけなくなった。
どんなに償ったって、償いきれないほど大きな罪。
超巨大モンスター・カグツチの襲来によって、幾多の暮らしが壊された。
全町民、約7000人。死者・行方不明者 6280人。
瑞白大災害。
あの日。
わたしは、6280人を殺しました。




