表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/69

52.相反


「……えーっと、つまり。そもそもモンスターを引き寄せる体質の人間がいて、その子の身体が、あの地下室にあるんやな?  で、その子の存在自体が機密情報やと。そういうことやな?」


「ああ」


「…………」


 カサマツは頭を抱えた。俯いていて、表情は見えない。


 俺はカサマツにすべてを話した。


 モンスターが穂積市に突如として出現し、そして今に至るまで湧き続けていること。

 それが一人の少女の体質によって引き起こされていること。

 少女は幼少期を地下室で過ごし、今では機械化人間として戦っていること。


 低く唸って、混乱したまま、カサマツは顔を上げた。


「……俺は何も、聞かんかったことにする。ええな」



 その言葉に、どうして、と疑問が浮かぶ。

 軍人としての立場があるから? 豊かな暮らしに身を置いているから?


 そして、その疑問は少しずつ怒りへと変わり、脳の奥がちりちりと痛んだ。


「……見て見ぬふりをするのか?」


「は?」


 思ったより、低い声が出た。カサマツは呆けたような顔をして俺を見る。



「あの子は、……スイは今でも、社会のために消費されている」


「……」


「それを見て見ぬふりなんて、俺にはできない」



 HETによって救われた人は大勢いる。この社会はHETなしでは成り立たない。

 そんなことは分かっている。


 それでも、こんなのは間違っている。


 誰かひとりを犠牲にして回る社会なんてクソだと、断言できる。

 ——あのとき、スイの前でも、そう言わなければいけなかった。



 カサマツは呆れたような顔で続けた。


「……機械の身体で生きられるのならええやろ。何があかんの」


 本当に、なんでもないことみたいに、その言葉はこぼれた。


 カサマツの本心からの疑問だ。

 機械化人間であるカサマツにとって、機械の身体で生きていくのは当たり前。

 HETシステムの一部として、モンスターと戦うのも日常だ。

 

「確かにその子は可哀想や。ただな、何も、一生外に出られへんわけやない。機械の身体で出歩けるのなら、それでええやろ」


 悪意なんてない。ただカサマツは心から、そう思っているのだ。


「俺はHETに生かされている。やから、俺はHETを否定せえへん」


 病気治療の一環で、機械化手術を受けたカサマツ。

 彼の人生を否定するつもりなんてない。


 それでも、それでも。

 この社会を、許してはいけない。


 俺は腹の底から叫んだ。


「あの子が犠牲になるのはいいのか!?」


 それでもカサマツは表情を変えずに、そのままのトーンで言い放った。


「俺はその程度、犠牲とも思わんわ」



 瞬間、腹の底が煮えくり返る。


「『その程度』……!?」


 スイのことを何も知らずに、よくもそんなことが言えるな。

 怒りのまま叫ぶ。


「お前はいいよ、機械の身体で救われたんだ。それは認める、理解してる! それでもあの子は嫌がってるんだ、死にたいとまで言っているんだ。それが全てだろ!」


「何億もする高性能のガワで何が嫌なんや。俺からしたら、わがままにしか聞こえんわ」


「ふざけるな!」


 これは金の問題ではない。ボディの性能の話でもない。


 感情に任せて、握った拳を振り上げた。

 それを振り下ろす寸前で、カサマツの表情が見えた。

 冷めたように、見下すように、シリコンの瞼が細められる。


「やめろ。……俺は殴り返すぞ、ゼン」


 ぐ、と歯を食いしばって、俺は拳を降ろす。

 殴り合いの喧嘩の経験はないが、勝てる相手ではないことは容易に想像がついた。

 軍人であるカサマツにとって、俺を挫くことは簡単なことだろう。


 カサマツは押し殺した声で言った。


「俺のこと理解してる?  適当抜かすなや。……今日食うもんとか、明日生きるんだけで精一杯な奴の気持ちなんか、お前みたいなエリートに一生かかっても分からんわ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ