51.連行
「で? 何があったん」
抵抗をやめて大人しく歩いていると、カサマツが静かに尋ねてきた。
さきほどよりは幾分か、声のトーンが柔らかい。
いつものカサマツに戻ったような、そんな感覚。
「……だから、知らないって」
「まだとぼけるんか。ええから説明しろ」
説明しろと言われても、本当に知らない。
軍に捕らえられるようなことは、何もしていない。
さっきカサマツは、俺が立ち入り禁止の内部に入ったと言っていたが、一体なんのことだ——と、そこまで考えて、気づく。
「地下……?」
確かに、地下に入った。構内図に載っていない地下空間。
立ち入り禁止というのは、もしかして。
「工学部の校舎の下に地下空間があって、……調査のために、入った」
カサマツは視線を上にそらして、考え込むようなそぶりをみせた。
そして少しの間のあとに、ああ、と短く言う。
「あそこか……1階から降りるところに、立ち入り禁止って書いてあったやろ。気づかんかったんか」
「まったく……」
真っ暗なあの空間で、モンスターの痕跡を探すことに集中していた。立ち入り禁止の看板なんて、まったく気が付かなかった。俺の言葉に、カサマツはもう一度、深くため息をつく。
「何やらかしたんかと思ったけど……そんな程度のことなら、ちゃんと謝れば許してもらえるやろ、さすがに。どれくらい聞いてもらえるか分からんけど、俺からも言っておくわ。……なに、地下通路まで行ったんか?」
「……行った。地下通路と、その先の……部屋まで」
「……」
カサマツが急に立ち止まるのに合わせて、俺も歩みを止める。
急にどうしたんだろうか。カサマツの表情がこわばった。
そして数秒の間をあけて、低く言った。
「お前、それ、マジでまずいかもしれん」
「え?」
マジでまずい、との言葉に、心臓が大きく鳴りだす。
「俺は地下があること自体、大学の復旧作業中に初めて知った。その先に扉があるんは、その時に見たから知ってる。内部の被害を見ようと思ったけど、そもそも生体認証になってて開かんかった。その先に何があるんかは知らんけど、軍人であっても立ち入れん時点で、よっぽど重要な場所なんやろ」
「……」
そうだ。普通に考えて、そうだろう。
この国の根幹たる、エネルギー産業の基幹部なんて、公開しているほうがおかしい。
機密情報以外の何物でもないのだから。
想定していたよりも悪い事態に、冷たい汗が額に浮かぶ。
「カサマツ、悪いが、やっぱり俺は捕まるわけにいかない。見逃してくれないか」
「無理やって。俺やって仕事や」
「そこをなんとか!」
「無理やって!」
押し問答になる。架せられた手錠をガチャガチャと引っ張るが、当然、外れるわけがなかった。
そんな俺の手を再び、カサマツが掴む。
「マズイところに入ったんなら、正面から謝って、知らんかったんですって言うしかないやろ! 大人しく着いてこい!」
「いや、無理だ! 多分、そんなんじゃ許されない」
おそらく、イズミノ陸将が最も隠したい真実。
エネルギー産業の根幹、そして少女を搾取している証拠。
当然、知らなかったでは済まないだろう。
「なんやねんそれ! 一体何を見たんや、お前!」
「言っていいのか!? 共犯になるぞお前も」
「さっきからまどろっこしいねん、なんやねんお前、はよ言え!」
完全に、売り言葉に買い言葉だ。半ば喧嘩のようになりながら言い合いをする。
カサマツ、本当にいいんだな。お前が言ったんだからな。
冷静ではない脳みそから言葉が溢れる。
「あそこには、生命維持装置に繋がれた人間がいる」
俺の腕を引くカサマツの、動きが止まる。
「……は? 誰なん、……それ」
「イズミノ陸将の娘だ」
「……」
俺が示した真実に、カサマツは絶句した。
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