13.あわや腐海
講義や研究とかぶらない朝の時間に、少女と勉強会をすることになった。
そう伝えると、サカイとキシは、意味が分からない、という顔をした。
「えっなんで? 成り行きでそんなことになる?」
怪訝な顔のまま、キシは机に肘をついた。
勉強会は、二人が来る前の時間に行う。
なるべく迷惑にならないようにするよ、と言うと、そういうこと聞きたいんじゃないよ、と言われた。
バン! と、突然鳴り響いた強い音に、びくり、肩が震える。
音のした方を見ると、サカイが机に両手をついて、わなわなと震えていた。
「つまり女の子が来るってこと?」
聞いたこともないような低い声に、思わず気圧される。
スイの性別が、何の問題になるのだろうか。
「……ああ、まあ」
先程の強い音は、サカイが机を叩いた音らしかった。
俯いたままのサカイからは表情は見えないのに、殺気すら感じる。
「ゼン、片付けろ」
「えっ」
言われた意味がよくわからず戸惑っていると、サカイは勢いよく立ち上がった。
そのまま俺の机の、エナドリ缶タワーに手を伸ばす。
「こんな腐海一歩手前みたいな場所に女の子を呼べるか。頼むからゼン、片付けろ」
「別に良くないか……?」
「お前バカか! 不潔が一番嫌われるぞ」
積みあがった空き缶、紙類はみるみるうちに撤去された。
ついでに我関せずと作業を続けるナグモ女史のデスク周辺にも手が入り、「待て邪魔だ! 計算に集中できない!」「計算やめてこっち見ろって言ってんですよ! プロテインシェイカーは毎日洗えって言ってますよね、くっせえ、捨てますからね!」ととんでもないやり取りが繰り広げられている。
最近の異臭の正体はそこだったのか、納得した。
その流れで、どうこすっても落ちない床の染みや、広範囲に繁茂したカビ類が発見され、一朝一夕ではこの部屋はどうにもできないということがわかった。
結果、俺とスイの勉強会には、研究室と実験室の間の部屋、準備室があてがわれることになった。




