66.たどり着いた場所で
ガシャーン!! と派手な音を立てて倉庫の窓ガラスをぶち破り、中に飛び込んできたのは一匹の動物。
しかし、その動物はあまりにも異形だった。
(な、何……これ!?)
見た目は四足歩行の犬型だが、ルディアの背丈と同じくらいの高さがある。
それからその頭が二つあり、片方が金属化している。
この時点でどう考えても自然に生まれた生物には思えないのだが、尻尾が炎で燃え盛っている上に四本存在している。
極めつけは金属化している頭の方の目が赤く光っており、光線を出して位置を把握しているようだ。
その赤い光線がルディアの身体に当たった瞬間、奇妙な犬型の生物は吠えて襲い掛かってきた。
『ウググ……ギャンギャンッ!!』
「わあっ!?」
何が目的でこんな生物が生まれたのか、そもそもどこからやってきたのかも一切不明の異形の存在の突進攻撃をギリギリで回避したルディアだが、あいにく自分は肉弾戦が得意ではない。
なので距離を取りたいのだが、機動力は完全に向こうが上。
しかも倉庫の内部はお世辞にも広いとは言えない造りになっているので、距離を取ろうとしても一気に詰められてしまう。
『ギャウウウウッ!!』
(くぅ……駄目ね、このままじゃいつか力尽きて食べられちゃうわ!!)
ならばこちらから動くしかない。
相手との間合いをしっかりと把握しなければその鋭い牙に嚙みつかれてしまうか、前足の爪で割かれてしまうか。どちらにしても彼女はお断りだった。
ルディアは片手に溜められるだけの魔力を溜めて、窓から入り込んでくる太陽の光と赤い光線の出所を頼りに犬もどきの動きをよく観察しながら、再びロックオンされる瞬間を待つ。
『グルル……ウウ……ウガアアアアッ!!』
「そこだっ!!」
とびかかってきた犬もどきの下にスライディングで滑り込みながら、すれ違いざまに魔力を溜めた手を上に突き上げる。
その手は犬もどきの喉の部分に直撃し、強烈な衝撃を双方に与える原因となった。
「ぐぅぅっ!?」
『ギャハアアアッ!?』
空中で動きを止められ、そのまま痙攣した犬もどきは地面へと落下した。
だがまだ終わったとは確信できないので、再度魔力を溜めつつこの犬もどきの出方をうかがう。
すると、今まで彼女をロックオンするのに使っていたのであろう赤い光線がスーッと力なく消えていくのが分かった。
どうやら危機は去ったらしい。
(終わった……)
安全だと思っていたこの場所にきて、いきなりこんな得体のしれない魔物に襲われるとは思いもしなかったルディアは、改めてその息絶えた犬もどきを観察してみる。
(恐ろしい魔力の量を有している……普通の生物だったらここまで魔力を体内に溜められないから、多分これは誰かが意図的に生み出したものとしか思えないわね)
これは彼女の勝手な推測にしか過ぎないが、この犬もどきはおそらく改造生物の類なのだろう。
しかし、その生み出したのはいったい誰なのか?
今までの話の流れからして、真っ先に思い付いたのはやはりあの黒ずくめの集団だった。
(ウィタカーって言ってたかしら? あの中年男が率いている黒ずくめの集団がこういうものを生み出しているのだとしたら、もしかしすると私たちが思っている以上に恐ろしい技術力や資金力などがあるのかも……)
最初は少人数で、しかも世界征服をするなどと連れ去ってきた人間に高らかに宣言するなんて、バカにもほどがあると心の中で盛大に侮っていた。
だが、もしこの犬もどきを生み出したのが彼らだったとしたら。
そして犬もどき以外にも、何か別の生物兵器を生み出せるだけの力があるのだとしたら、その世界征服とやらの話も急に現実的な話となってきてしまう。
(と……とにかくルギーレにもう一回通信してみて……後それからエスヴェテレスにもこのことを伝えておかなきゃ……)
少なくとも、先ほどルギーレに通信を試みたときは向こうは反応をしてくれなかった。
しかし、時間を置いた今であればもしかしたら通じるかもしれない。
そしてこの倉庫の中にとどまり続けるのも危険みたいなので、ルディアは出ていくかどうか迷いながらルギーレに通信をしてみる。
すると……出た!!
『なっ、何だよ!?』
「あ、ルギーレ!? こっちは町に着いたんだけど、今その町が黒ずくめの連中と……それから魔物の集団に襲われているのよ!!」
だから至急応援に来てほしいと頼んだルディアだが、石の向こうから聞こえてきたルギーレの返答は絶望的なものだった。
『いや、こっちもやべえんだよ!!』
「えっ?」
『そっちと同じ状況なんだよ! ちょっと手が離せねえ……ああっ、うわっ!!』
「ちょ、ちょっとルギーレ!? ルギーレ!!」
カランカランと音がした後にそのまま通信が切れてしまったことから、ルギーレは石を落としてしまったらしい。
そう、ルギーレも大変な状況に陥っている真っ最中だったのだ。




