618.最期
ルディアとルギーレの予想通り、咳き込みながらもディルクが起き上がってくる。
だが、これ以上の戦いに意味がないことは二人にもわかっていた。
「もうあきらめろ、それ以上やったら死ぬぞ!!」
「そうよ! 今のあなたはもう限界よ!!」
ディルクの身体はすでに全員からの攻撃によってボロボロになっているだけでなく、レイグラードの影響によって身体が蝕まれているのがルギーレにはわかった。
しかし、ルディアにはレイグラードの影響以上にディルクに起こっている異変に薄々気がつき始めていた。
「僕はこんなところで諦めるわけにはいかないんだ!! せっかくレイグラードだって手に入れたっていうのに、こんな……うぐっ、とこ、あっ……ろでっ!!」
「お、おい……」
突然、話し方が不安定になり始めたディルク。
そんな彼を見て、やっぱり身体が限界じゃねえかと考えるルギーレの横で、ルディアが魔術師としての観点から今現在のディルクの状態について冷静に述べ始める。
「あれは多分……魔術の使いすぎだと思うわ」
「使いすぎ?」
「うん。魔術っていうのは確かに便利なものだけど、その反面身体には負担がかかるものだからね。しかもディルクは強大な魔術の使い手だからこそ、その反動は全て自分の身体に跳ね返ってきていたってことよ」
魔術を使って身体を酷使しすぎた結果、ついに限界が訪れてしまったディルク。
しかも魔術だけならまだ良かったのかもしれないが、そこに「あの」レイグラードがついていたのが更なる身体への負担をかけることに繋がってしまっていた。
それは、前のレイグラードの所有者であるルギーレが一番よくわかっていることでもあった。
「その魔術の負担に、レイグラードの加護によって更に負担をかけりゃああなっちまうってのも無理はねえってことか」
「そうね。だからこそ、私たちが直接手を下さなくてもいずれ……」
最後まで言い切らずにそこで言葉を止めたルディアの視線の先では、もはや立っていることもかなわずガクリと膝をつき、地面に倒れ込むディルクの姿が見える。
血反吐を吐き、腹や胸を抑えて苦しみながら徐々に弱っていくのがわかるのだが、今までのことを考えると絶対に助ける気にはなれないのもまた事実だった。
これが、魔剣を追い求めた人間の末路ということになる。
しかし、このままではまたレイグラードが新たな主人を求めて暴走する可能性があるので、この後に二人がやることはすでに決まっていた。
「……ルディア、レイグラードを」
「うん」
ルギーレが何をしたいのかを察したルディアは、すでに動かなくなってしまったディルクの手から離れたレイグラードを拾い上げ、ルギーレと向かい合わせになった状態で両手でしっかりと握る。
ルギーレが叩き斬りやすいようにだ。
それを見て、ルギーレはエターナルソードを構えて慎重に位置を調整しながら駆け出した。
(さらばだ……魔剣レイグラード!!)
今までの冒険の中で、様々な場面で活躍してくれたレイグラード。
自分の命を何度も救ってくれたレイグラード。
そして自分の身体を壊し、最終的に違う主人の手によって牙を剥いてきた魔剣レイグラード。
それが今、自分の手によって斬られるのをルギーレは実感していた。
「う……おおおおおおおおおおっ!!」
ガキィン、と激しい音とともに感じる確かな手応え。
一瞬遅れて、魔剣が上から下に走る軌跡によって真っ二つに切断され、ルディアの手の中で崩れ落ちていった。
「……終わったのね」
「ああ、これで……全てが本当に終わった」
そう言いながらエターナルソードを下ろしたルギーレは、すでに事切れて動かなくなってしまっているディルクの元へとゆっくり歩み寄り、その身体を足で転がして小突きながら呟いた。
「あばよ、闇の魔術師」
今までにディルクがこの世界に対してやらかしてきたことを考えれば、寛大すぎるルギーレのその行動を最後に、これで全てが終わったのだった。
だが、そのディルクを追いかけてこの世界に来てしまったセバクターとエリアスはこれから果たしてどうなるのか?
「そーいや、まだ俺たちにはやらなきゃならねえことがいっぱいあるんだよな」
「そうよね……これからが問題よね」
それはこれから考えなければならないのだが、とにかく今は全ての元凶がなくなったことを喜んでもいいだろう。
そう考えながら、二人はその光景を遠巻きに見ていた他のメンバーたちの元へと合流するために歩き出した。




