615.治療の結果
「うっ……」
『あ、よかった!! 少しずつ回復してきてるよ!!』
『よし、それならもうひと踏ん張りだな!!』
一方、自分たちも傷ついていながらもルディアを手当てしていた他のメンバーたちは、彼女が徐々に回復してきているのを感じ取っていた。
もちろん自分たちの傷の治療もしているのだが、何よりも一番優先しなければならないことはルディアの治療と回復である。
ディルクと戦いを繰り広げているルギーレたちの方にも気を配りつつ、彼女が少しでも早く回復してくれるのを願ってそれぞれが回復魔術をかけ続けていた。
『しかし……向こうではどうやら私たちの理解を超えた戦いが繰り広げられているようだな……』
『ああ。もう少しルディアが良くなったら、俺様たちも加勢しにいこうじゃねえの』
そう言いながらグラルバルトとエルヴェダーが見つめる先には、恐ろしい気迫を生み出しているディルクと対峙するルギーレたちの姿があった。
タリヴァルとイークヴェスはそれぞれ人間の姿から本来のドラゴンの姿へと戻り、ルギーレと戦っているディルクに対して魔術を中心に援護している。
しかし、この世界で最強と呼ばれているはずのイークヴェスの魔術を持ってしても、どうやらディルクには全くといっていいほどに効き目がない様子である。
『ねえ……あれって大丈夫じゃないよね?』
『そーだな……劣勢中の劣勢だぜ』
だから自分たちも加勢するべきなのだが、下手に加勢して足を引っ張るのもどうかと思ってしまう。
それに、先ほど自分たちが束になってかかってもディルクには敵わなかったのを考えると、今はここで魔術による仲間内での回復を最優先に考えるべきだとシュヴィリスもエルヴェダーも意見が一致する。
アサドールの木々による拘束はいとも簡単に全てを切断されてしまい、エルヴェダーの灼熱のブレスもシュヴィリスの氷点下のブレスもディルクとレイグラードの前では無に帰されてしまった。
『まさかこれほどとは……!?』
『何なのこいつ!! 火も氷もダメじゃん!!』
『くっ、これじゃ倒しようがねえぜ!!』
ならばとセルフォンが竜巻を起こして吹っ飛ばそうとするが、ディルクは魔術で身体の姿勢を維持しているのか、逆にその竜巻に乗って空中から高威力の魔術を連発されてしまった。
だったら接近戦で勝負だと考え、人間の姿になったグラルバルトがディルクに羽交締めをかけようとしたものの、動体視力も上がっているようで蹴りも拳も関節技も投げ技も全く当たらない。
挙げ句の果てには、蹴りを空振ってしまった隙を突かれて逆にレイグラードの斬撃を受けてしまい、彼もまた回復魔術の世話になることになってしまった。
『私が手も足も出ないとは……』
『それは我輩だって他のメンバーたちだって一緒だろう』
『それはそうだが……ん?』
その時、見下ろしていた視線の先で動くものがあった。
それは今まで閉じっぱなしの状態であった、ルディアのまぶたである。
「うう……」
『おっしゃ、目が開いたぜ!!』
「よし……俺たちがわかるか、ルディア?」
セバクターがルディアの顔を覗き込んで声をかけてみるが、次の瞬間ルディアの目がカッと一気に見開かれる。
「あ……うっ!?」
「ど、どうしたの?」
「何だか凄い魔力を感じるんですけどど……何なんですかこれ?」
自分を懸命に治療してくれていたメンバーたちへの感謝の言葉よりも先に、ルディアの口から出てきたのは周囲への警戒心であった。
それは十中八九、今の状況で必死に戦っているルギーレたちの相手であるディルクが生み出している魔力のことだろう。
それをエリアスが手短かに説明すると、彼女は納得したようにうなずいた。
「ルギーレたちが戦っている……私はその間、ずっとここで倒れていただけなんですか!?」
「そうだよ。君を助けるために僕たち総動員で回復魔術をかけ続けたんだよ」
「そうですか……ありがとうございます。でもまだ戦いは終わっていません。ルギーレたちを助けないと!!」
彼女の固い意志はわかるのだが、何か手があるのだろうか?
その疑問がルディア以外の全員に浮かんだところで、メンバーたちの元にタリヴァルが全力で駆け寄ってきた。
『おい、ルディアはどうなった!?』
『タリヴァル!! 彼女ならたった今目を覚ましたところだぞ』
『そうか……』
グラルバルトからそう告げられたタリヴァルは安心した表情を見せるが、すぐにその表情を険しいものに戻してこう告げた。
『病み上がりで申し訳ないが、お前の力が必要だ。いや……正確にいえばお前たちの力だ!!』




