612.立ち向かう二名
『こっちだ、急げっ!!』
『すまない!!』
セルフォンがルディアの治療をしている間に一旦戻ってきたアサドールが、ディルクの意識がルギーレに向いている間にタリヴァルたちをなるべくディルクから遠ざけておく。
だが、疲弊している他のメンバーと違ってイークヴェスだけはまだまだ戦えそうなので、戦いやすい状況を作るべく人間の姿になってルギーレとともに再びディルクに立ち向かう。
「……相当手強そうだな」
『ああ、見ての通りだ。余たちが全員束になっても敵わないなんて、異世界からやってきた人間と武器の組み合わせというものはそんなに脅威なのか……?』
ドラゴンたちのリーダーとして、この世界の看視の全てを司っているイークヴェスを持ってしても、異世界の武器と人間の組み合わせに非常に舌を巻いている状態であった。
いや、イークヴェスだからといった方が正しいのかもしれない。
彼はディルクとレイグラードがやってきた別の世界に行ってきたということもあり、そちらの世界の技術力の進歩には驚かされていたからである。
だからこそ、この世界を護り切れるかどうかというのがわからなくなっていた……ここにエターナルソードを携えたルギーレが来るまでは。
『……もしかして魔力を消したのか?』
「どうやらそうらしい。これであいつに勝てるはずだとは思うんだがな……」
そう言いながらエターナルソードを構えたルギーレは、レイグラードを構えるディルクの元へとジリジリ近づいていく。
そんなルギーレの姿を見て、ふんっと鼻を鳴らしたディルクが口を開いた。
「何を小細工してきたのかは知らないけど、そんなもので僕に敵うと思われていたら心外だね」
「そんなのやってみなきゃわからねえじゃねえかよ」
「ほう、大した自信じゃないか。それではかかってくるがいい。その代わり僕も本気でいかせてもらうとするからね」
ディルクの挑発を受けて、ならばとその言葉通りルギーレはディルクに斬りかかっていく。
上段からの振り下ろし、突き、薙ぎ払い、回転斬りなどなど様々な攻撃を繰り出していく。
しかしディルクの方もなかなかの使い手らしく、ルギーレの攻撃をひらりひらりと回避して反撃してくるので一筋縄ではいかない相手である。
(俺の方も身体能力強化をしているとはいえ、かなりの使い手だぜ……)
そこにイークヴェスの援護も入ってくる。
何としてもディルクを仕留めるべく、彼の頭上に向かって虹色の光線を降り注がせるべくルギーレに向かって大声を出した。
『ルギーレ、そいつから離れろっ!!』
「っ!?」
いきなりの命令に一瞬驚きはしたものの、それでも彼の声の通りに素早く身体を動かしてルギーレは後ろへ飛んだ。
次の瞬間、ディルクの頭上の空から現れた無数の虹色の光線が彼に向かって一直線に降り注いでいく。
「やったか……?」
『あいつがこれぐらいでやられるとは到底思えんがな……』
その結果はイークヴェスの呟きの方が正しかったらしく、地面に深い穴を開けてしまうほどの威力のある光線を無数に浴びたはずのディルクは、土煙と黒煙の上がっている中から何事もなかったかのように一気に飛び出してきたからであった。
「おりゃあああっ!!」
(こっ、こいつ……ダメージを受けるどころか無傷だし、煙を逆に利用して……!!)
焦ったルギーレはとっさに振り下ろしをエターナルソードで受け止めるが、勢いがついたその振り下ろしはエターナルソードごとルギーレを押し込んでいく。
それを見たイークヴェスは、ルギーレと鍔迫り合い状態になっているディルクの左側面の死角から回り込み、一気に仕留めるべく自分のロングソードを振りかざす……が。
「甘いんだよ!!」
『くっ!?』
ディルクが鍔迫り合いのまま、左手だけをブンッとイークヴェスの方に向けたその途端、強烈な炎が突風となってイークヴェスに襲いかかっていく。
もちろん黒髪黒眼の青年の姿になったイークヴェスもその程度でやられるわけがなく、魔術防壁でしっかりとその魔術を防いだ……つもりだったのだが。
『ぐっ!?』
「えっ?」
イークヴェスが後ろにたたらを踏んだ。
どうやらその炎は、魔術防壁を突き抜ける特性を持っているらしいと顔を焼く熱さに耐えながらイークヴェスは分析したが、実際のところは少々事情が違っていたらしい。
「ふふふ、レイグラードは使用者の意思に共鳴することもあるんだ。この剣自体が意思を持っているからね。だから魔術防壁も何も関係ない魔術だって発動できるんだよ。そもそも僕はこの世界の人間じゃないしねえっ!!」




