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609.地下の追撃戦

『くっ!!』


 魔術防壁では弾ききれない、と自分の本能が警鐘を鳴らしたので、セルフォンは一か八かでその鉄の馬に向かって走り出した。

 ロングソードを構えて抜刀術を繰り出しながらの駆け抜けだったが、鉄の馬も臆することなく突っ込んでくる。

 抜刀術から繰り出された風の魔術も意に介した様子が見られないので、どうやら向こうには効果はないようである。


【くっ、避ける気はなしか!!】


 こうなったら壁を蹴ってあの乗り手を倒すしかなさそうだと考えたセルフォンは、タイミングを見計らって壁に向かって跳躍し、乗り手の位置が上手く自分のロングソードの刃の軌跡に重なるように調整する。


『ぐっ!?』


 だが、その目論見はギィンという甲高い金属音とともに弾かれただけでなく、危うく後輪の回転に身体が巻き込まれてしまうギリギリのところで回避するに終わった。

 振り向きつつ乗り手を見てみると、どうやらショートバトルアックスを持ってこうした攻撃にも耐えられるように手を用意していたらしい。

 自分がドラゴンの化身だというのに、そのドラゴンの力に耐えるなどというのはまさかの出来事であるが、だからといってここで逃げないわけはなかった。


『くっ……!!』


 何か打つ手を考えなければならないと思いつつ、セルフォンは地下通路の狭い中を右へ左へと逃げ回る。

 後ろの鉄製の馬はどう考えても直角の曲がり角を曲がるのに苦労しているらしく、その分直線で追いついてくる。

 しかしこのまま逃げ続けていてもいずれは追い詰められてしまうだけなので、どこかでこの追いかけてくる鉄の馬を倒さなければならない。


【曲がり角を曲がる時に減速するから、その時に何とかならないか……?】


 逃げながらどう立ち向かうかを考えたセルフォンは、早速思いついたその目論見を実行することにした。

 曲がり角を曲がり、先ほどと同じく鉄の馬の乗り手に立ち向かう。だがそのまま突っ込んでしまうとまた防御されて終わりなので、曲がってきた鉄の馬の真正面にある車輪の上……前方を照らし出しているライトの部分を隠すようにしてガップリと全身を使って押さえ込んだ。


『ぐぐ……ぐっ!!』


 その目論見は成功し、今まで逃げ続けるだけだったこの鉄の馬を全身で抑え込んで後ろへとずらしていくセルフォン。やはり鉄でできていて乗り手もいるとはいえ、ドラゴンの力に敵うわけがないのである。

 しかも風属性の魔力を自分の体にまとわせているため、それも手伝って鉄の馬との力比べは確実に自分に分があった。

 ……はずだったのだが。


『む!?』


 後ろから聞こえてくる別の音。

 しかし、この音は今の自分が押さえ込んでいる鉄の馬から聞こえてくる作動音と同じ音……ということは!?


【な……まだいるのか!?】


 そう、鉄の馬はこの一体だけではなかった。

 どうやら異世界から何体もこの車輪のついている馬を移動させてきているらしく、この地下通路の中はそれらが走り回っている無法地帯と化してしまっているようである。

 このままではまず自分が挟み撃ち状態になってしまうので、やむなく力比べをやめることにしてセルフォンは再び逃げ出すしかなくなってしまった。


【くそっ、これじゃあなぶり殺しの状態だ!!】


 こんな時、例えばアサドールであればそれこそ木の枝を張り巡らせて馬をつまずかせて転ばせることもできるだろうが、あいにく自分は風属性のドラゴンであるがゆえにそんなことはできない。

 ならばどうすればいいのだろうか。

 一体から二体に鉄の馬が増えたところで、振り向きながら懸命に逃げるセルフォンだったが、その瞬間あることに気がついた。


【……そうか、普通の馬ではないからあれを倒すには……!!】


 普通の馬は四足歩行だが、後ろの鉄の馬は前後の二つの車輪で体勢を保っている。

 つまりそれは、乗り手の身体の姿勢も関係しているのであろう。

 となれば、その体勢を崩せればこちらにも勝機はあるはずだと考えたセルフォンは、再びロングソードを振るって衝撃波を生み出す。

 ただし今までは鉄の馬に対してそのまま衝撃波をぶつけていたのを、今度は地面に沿ってその地面を抉り取るように撃ち出した。


【これでダメなら……】


 某は終わりだ、と覚悟を決めるセルフォンの視線の先で、地面に沿って進んでいった衝撃波が二体の鉄の馬の車輪を浮かせ、体勢を崩す。

 速度を上げてセルフォンを追いかけまわしていたその鉄の馬たちは、急に止まることもできずに前輪をふわりと浮かせ、操縦不能になってガシャン、ドカン、バリーンと派手な音を響かせながらこの狭い通路でお互いがぶつかり合う形になってようやく停止したのであった。

 その光景を見たセルフォンはふーっと息を吐きだして額の汗を左手で拭い、再び地下通路をあの研究室に向かって進みだしたのだが、研究室ではまた別の出来事が起こっていた。

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