607.牙を剥くレイグラード
この最終局面に来て、レイグラードの所有者がルギーレではなくディルクに変わってしまった。
そしてそのレイグラードの試し斬りの相手が自分たち?
冗談は顔だけにしてほしいものだと思いつつ、いまだに回復の見込みがないルギーレの介抱はセルフォンに任せて、残りのメンバーはそれぞれ武器を構える。
……ただ一名を除いて。
『……おいアサドール、そなたも構えろ!!』
『吾輩はやるべきことがある。お主にも手伝ってほしいことがな』
『何だと?』
『ルギーレを復活させるための話だ。これから地下に向かうぞ!!』
そのアサドールの説明だけではいまいちピンとこないので、とりあえずルギーレを背負って一緒に地下へと向かいながら説明してもらうことにしたセルフォン。
一方で新たなレイグラードの所有者となったディルクは、早速その魔剣の威力に驚きと喜びを隠せない状況を作り出しており、灰色と緑のドラゴンたちの行動には気づいていなかった。
「がはっ……ぐっ……」
『く……ああああっ!!』
『くそっ、くそ……!!』
引き裂かれるような全身の痛みが、たった一人の魔剣使いによってもたらされる。
ルギーレが所有者だった時はその圧倒的な力に何度も助けられていたわけだが、いざこうしてレイグラードが敵に回ってみると、改めてそれが魔剣だといわれるだけの実力を有していることがわかった。
(馬鹿なっ、僕のアディラードがこんなにあっけなく……!!)
地下ではその天井の高さや広さの問題があり、召喚することができなかったエリアスの頼れる召喚獣であるアディラード。
それを召喚してディルクに向かわせたのだが、それを見てもディルクはまるでハエを追い払うかのような仕草でレイグラードを一振り。
その瞬間、ルギーレの時には見られなかった種類の衝撃波……炎を纏う巨大な衝撃波が繰り出され、やがて業火となってアディラードに巻きついたのである。
そのままアディラードは燃え尽くされてしまい、これで召喚獣もいなくなってしまった……。
「あ、アディラードが……!!」
「そんな!?」
セバクターとルディアも絶句してしまうが、紛れもなくこれは現実の出来事である。
しかもレイグラードの異常な性能のみならず、それを使うディルクもただの魔術師ではないようである。
一般的に魔術師といえば体力や身体能力に自信がなく、戦士として適性がない者がなるものというのがこの世界では一般的な認識の職業である。
実際にルディアもそれに当てはまるし、魔術が盛んなシュアとヴィーンラディの人間たちも、騎士団員たちは魔術を一通り使えるがより高度な魔術は魔術師たちの専門となっている。
しかし、目の前でレイグラードを振るっているディルクは武芸にもそこそこ精通しているようであり、何とか近づいて攻撃を仕掛けるセバクターとタリヴァルを同時に相手にしても、上手く立ち回って退けているのであった。
【余たちの魔術もまるで意に介していないようだし、レイグラードというのはそんなに恐ろしい武器だったのかっ!!】
この世界を看視するドラゴンたちの頂点に君臨しているイークヴェスも、ディルクとレイグラードという異世界の生まれの組み合わせに舌を巻いていた。
元々は一つの世界だったはずなのに、向こうの世界はそこまで強力な武器を生み出すことに成功していたというのか。
闇属性の強大な魔術を持ってしても、ディルクのレイグラードの一振りや魔術の前にはまったくといっていいほどに効果がないようで、イークヴェスは自分が産まれてから味わったことがないぐらいの絶望感を覚えていた。
(レイグラードで身体能力とか反射神経が向上しているとはいえ、ドラゴンたちを含めた多数の敵を一人で相手にして引けを取らないなんて、あの人はかなり強いわよ!!)
こうした戦いの知識については素人に近いルディアでさえも、今のディルクは別格であると感じさせるだけの光景がそこに広がっていた。
さすがにニルスの師匠だというだけのことはあるらしいが、だからといって負けるわけにはいかない。
だからこそ全員でかかっていかなければならないほどに厄介な相手なのだが、こんな時に限ってアサドールとセルフォンの姿が見当たらないことに気がつくルディア。
(あれ……そういえばセルフォンさんとアサドールさんは!?)
こんな時にどこ行っちゃったのよ……とぼやきを隠せないルディアだが、そのドラゴンたちは人間の姿で大事なことをしていたのである。
それはルギーレの昏睡状態を解除するだけでなく、レイグラードとともに大暴れして無双状態になっているディルクを止めるために必要な作業だったのだ。




