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600.イークヴェスの事情

 そのルギーレの考えはどうやら当たっていたようであることが、この先で判明する流れとなった。

 まずイークヴェスの話によれば、ニルスは慌てた様子で屋上までやってきてそのまま何も言わずにいきなり魔術で空中に裂け目を作った。

 その裂け目はエンヴィルーク・アンフェレイア側へと通じるものであり、何をするつもりなのかとイークヴェスが聞いても彼はそれに答えることをせず、空中浮遊の魔術を使って裂け目の向こうに消えて行ってしまったのだという。

 だが、そんな世界を自由に行き来するなどということは世界の監視をしている伝説のドラゴンたちにとっては到底看過できるものではない。

 それもそのドラゴンたちのリーダーであるイークヴェスが、そんな裂け目を目の前で見ているというのに止めなかったのも問題があるのだとドラゴンたちは指摘する。


『なぜ止めなかったんだ? お前は我らドラゴンたちのリーダーだろう?』

『……』

『答えないってことは、俺様たちに話せねえ何らかの理由があるってことだよな?』

『……』

『黙ってないで何とか言ったらどうなのさ? 僕たちの役割はこの世界の看視をして、秩序を保つことでしょ?』

『……今は無理だ』


 イークヴェスからやっとのことでひねり出された言葉がそれだった。

 しかしその一言で他のドラゴンたちが納得するはずもない。

 イークヴェスはそれを見越してか、ドラゴンたちからの反応が返ってくる前に自分が今置かれている状況を簡潔に説明する。


『余は……力が制限されている』

『どういうことなんだよ?』

『ここから動けなくなってしまっているんだ。余の四つの足全てに大きな枷がつけられてしまっていて、魔力がどんどん吸い取られてしまっているんだ』


 そういえば、イークヴェスは屋上の自分がいる場所からルギーレたちに向かって話しかけてはくるものの、そこから一歩も動いていない。

 それが「動かない」のではなく「動けない」のであれば話はわかるのだが、どうしてそんなことになってしまったのだろうか?


『端的に言えば、余はニルスとディルクに騙された。あいつらにとって余は異世界エンヴィルーク・アンフェレイアとの道を繋ぐために上手く利用されただけだったんだ』

「利用された?」

『そうだ。余は元々そのエンヴィルーク・アンフェレイアとこのヘルヴァナールが一つだったことを知っていたんだが、そこにあの二人がつけこんできた。空間を割いて世界を超えてきた人間だからな』


 最初は突然、ニルスとディルクがこの大木城で生活していた自分の目の前に現れた。

 それも違う世界から来たとか言い始めたのでもちろん信じられるはずもなかったのだが、ニルスとディルクが空中の何もないはずの空間をいきなり両手で縦に裂き始めて、その信じられないという気持ちが疑惑のものから驚きのものへと変わるまでにさほど時間はかからなかった。


『そして余は、ニルスに連れられる形でエンヴィルーク・アンフェレイアへと向かった。こちらの世界にはいつでも戻ってこられるから、という理由でな』

「あ、だからあなたはずっと行方不明だったんですか?」

『そうだ。向こうの世界を見て回っていたのだからな』


 だとしたら確かに、この黒いドラゴンの行方がずっとわからなくなってしまっていたのもうなずける話である。

 だが、それがどうして一体全体ニルスのこんな暴走を許すことになってしまったのだろうか?

 それについてイークヴェスはこう語る。


『あの男は向こうの世界を余と一回りした後、余にこういった。向こうの世界ではこちらの世界と昔一つの世界だったことを知る者は多い。それについてよくない感情を持っている者もいる。だから万が一の時に備え、ここで地下の魔力砲に魔力を充填しておいて、いざというときに撃てるようにしよう……とな』


 しかし、その実態は向こうの世界に撃つのではなくこちらの世界をニルスが掌握するための手段の一つとして、イークヴェスを上手く丸め込んでこうして屋上に固定し、効率的に魔力を充填させていたらしいのだ。


『だがその魔力砲とはまた別に、この世界にあるという魔剣もニルスとディルクは求めていた。それがお前の腰にぶら下がっているレイグラードだ』

「これか……」


 ルギーレは腰に下げている二本の聖剣の内、魔剣とも呼ばれている紅いロングソードの柄を撫でた。


「そしてそれが俺の手に渡って、その俺がここに来るのを待っていた……と?」

『その通りだ。だがどうやらあの男の計算も狂ったらしく、今あの男は向こうの世界に兵器を取りに向かった』

「……兵器?」


 まさか向こうの世界特有の兵器なのだろうか? とエルガーが問いかければ黒いドラゴンは大きくうなずいた。


『ああ。そして余は動けないままだから、勝機があるとすれば今まで溜めに溜めた魔力を使った魔力砲の一撃で何とかするしかない』

「そう言われても、どんな兵器を持ってくるつもりなんだ?」


 そもそもあいつが向こうの世界から戻ってこられないようにしてしまえば、この世界の問題もここで解決するんじゃないのかとルギーレが問いかけたその時、その兵器を引っ提げて空中の何もない空間が切り裂かれ、ニルスが戻ってきてしまったのであった。

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