594.偽者の手がかり
戦いで散らかってしまった機材室を簡単に整理しつつ、今度は誰の邪魔もなく部品を回収したグラルバルトとアサドールだったが、セバクターとセルフォンのことを考えるとまだまだ油断はできない。
シーンと静まり返った地下を探索していると、まるで自分たちだけしかいないような錯覚に襲われるのだが、それが同時にどこから敵が襲ってくるかわからない不安感も煽ってくるのでタチが悪い。
その不安感を振り払うかのように、グラルバルトは魔晶石を使って地下五階のメンバーたちと通信を繋ぎっぱなしにしながら進んでいた。
その繋がっているメンバーたちの内、エリアスがここを拠点にしている内の一名であるアサドールにこんな話題を振ってみる。
『な、なあアサドール』
『何だ?』
『このゼッザオって、この大木城を中心にして人間たちとドラゴンたちが共存している国だったんだろう? だったら君が看視しているヴィーンラディとかみたいに、人間たちしかいない地域でも今後は共存できたりするかな?』
『それについては私も思っているな』
エリアスに同意して、もしかしたらこの事件をきっかけにして人間たちとドラゴンたちとの共存ができるかもしれない時代が来るかもしれない……とうっすら考えているグラルバルト。
だが、アサドールは険しい表情でその質問に答える。
『まあ……遠い未来なら可能かもな。だが今は無理だろう。ルギーレを始めとした人間たちが、吾輩たちドラゴンを始めとした色々な生物たちを魔物だとして討伐している限りはな』
それは向こうの世界で冒険者家業をしているお主ならわかるだろう、とアサドールに問いかけられたエリアスは、それもそうかと魔晶石の向こうで納得する。
しかしいつまでもゼッザオがこうして霧を張っているわけにもいかないだろうし、異世界からの侵入者がいるというのであればその裂け目をこれから塞いでいくのか、それとも異世界と交流を始めるのかを考えなければならない事態になっているのもまた事実である。
だから自分たちの身の振り方をこれから考えていかなければならないだろう、とアサドールに言うグラルバルトだったが、その時不意に彼の耳が奇妙な音を捉えた。
『……ん?』
『どうした?』
『いや……気のせいかな。今コツコツと誰かがブーツで歩いているような音が聞こえた気がする』
『何だと?』
まさかまた新しい敵が現れたのだろうかと身構えるアサドールだが、もしかしたら本当に気のせいだったかもしれないので、グラルバルトはキョロキョロと周囲を見渡して警戒する。
そして足を止めて耳を澄ましても何も聞こえなければ、特に人の気配も感じない。
『……やっぱり気のせいだったかもしれないな』
『それならいいんだが、一応探査魔術を展開してみよう』
もし気のせいではなかった場合、それこそ気配を上手く殺して近づいてくる相手のようなので用心に用心を重ねることは大切である。
そしてその用心が、グラルバルトとアサドールにとって危機一髪の結果を呼び寄せることになった。
魔力の残滓を辿ってくれているアサドールの先導により、その残滓を感じられる場所にペンで黒く線を引いてもらった地図も併用しつつ、この地下全体の魔力の集まっている場所を探ってみる。
すると、ある一点にアサドールの意識が集中する。
『む? 何だこれは?』
『どうした?』
『地下一階部分の外れに、大量の魔力が集まっている場所がある。地下の敵は全て殲滅したはずだから、もしかしたら上に行ったルギーレたちが下に降りてきたのか……?』
だが、グラルバルトにとって気になるのは自分が聞いたかもしれない音の正体だった。
『それも気になるのだが、私の聞いた音の正体がこの近くになかったりしないか?』
『……んん? ちょっと待て。近くでウロウロと動き回っている魔力の塊があるぞ』
『それか?』
というわけでその魔力の塊を追いかけていってみると、黄色いコートを着込んで茶色いブーツでコツコツと足音を立てながら進んでいる、顔見知りの茶髪の男の姿があった。
幸いにも、曲がり角の先を歩いているためグラルバルトとアサドールには気がついていないらしいが、それはどう見てもセバクターとセルフォンが遭遇したルギーレの偽者らしい。
『あいつか……』
『とりあえず下に協力要請だ。それから残滓のある場所を示しているこの地図を辿ると、先ほど見つけた魔力が集まっている場所にたどり着くのも気になる』
というわけでグラルバルトとアサドールはエリアスたちに連絡を入れつつ、地下一階の外れへと向かって何が起こっているのかを確かめる。
その結果、地下一階にある非常用の昇降機が稼働していることに気がついただけでなく、そこに大勢のルギーレの偽者たちが集まっていることがわかった。
『……こちらグラルバルト。地下一階の外れでルギーレの偽者が大量に発生しているのを確認した。討伐作戦を開始したいから、総員戦闘準備を頼むぞ』




