32.レイグラードのありか
「逃げようという俺たちの提案は聞き入れてもらえないのはわかりましたが、じゃあこれだけ教えてください。レイグラードのありかはどこですか?」
「は?」
いきなりの質問に目を丸くするディレーディだが、すぐにその視線を鋭いものに変えて詰問する。
「なぜそんなことを聞く?」
「いやその……俺ちょっと思ったんですけど、もしかしたらあの剣があるから、持っている人間が狙われるんじゃないかと思って」
それに、とルギーレは以前黒ずくめの男たちから頼まれたことをもう一度言っておく。
「その黒ずくめの男たちとの話を、そこにいる騎士団長にしたと思うんですけど、あの黒ずくめの連中はどうやらあの剣を狙っているみたいなんです。さっき渡したそれの通り、そうやってあいつらはこの城の見取り図も持っていたわけですからね」
そう言いながら、ルギーレは黒ずくめの男たちが自分とルディアに頼んできたことを思い返していた。
『城の見取り図だ。お前はここに忍び込んで、没収されたというあの剣を奪い返してくるんだ』
『お、俺にこれをやれってのか?』
『そうだ。顔見知りばかりいるはずだからそんなに難しくはないだろう?』
そんなことは絶対にやるわけがないんだから。
そう言うルギーレに対して、宰相のヴァンイストはかなり疑り深い目を向ける。
「信じられませんね。たとえその時は敵同士だったとしても、その黒ずくめの者たちとつながりがないとは言い切れません。しかも今こうしてこの城に戻ってきて、このようなことを言うとは……」
言葉巧みに私たちを騙して、そのままあの剣を持ち逃げして黒ずくめの男たちに渡そうとしているのではないか?
そんな疑惑の目を向けるヴァンイストに、ザドールも臣下の一人として同調する。
「私もそう思う。そもそもどうして、お前たちがこの城の見取り図を持っているんだ?」
「いや、だからそれはその黒ずくめの奴らから渡されたんですって。俺たちだってそいつらが何で見取り図を持ってんのかわかんなかったし。だからこうして来たんですよ」
そもそもレイグラードを取り戻すんだったら、わざわざこうやってディレーディの前に姿を現さないで、もっとこそこそと闇に紛れて行動するはずだ。
しかもその黒ずくめの連中が操るワイバーンに追撃を受けて、危うく落下死しそうになったのも事実だ。
「なんだったら、私たちを迎えに来てくれた騎士団の二人に聞いてみてください。確かシュヴィスさんとブラヴァールさんでしたっけ? その二人が証人です」
「そうですよ。それにもし俺たちとその黒ずくめの奴らが仲間だったら、そこで騎士団の二人を殺してたはずですし。それに仲間を空中のワイバーンから落としたりなんかしねーですよ」
「うーん、それもそうか……」
だが、もしその黒ずくめの連中とのつながりがないとわかっても、すでにレイグラードは国のものになったので、元所有者だといってもその場所を明かすわけにはいかない。
ディレーディからそう告げられたルギーレとルディアは、とりあえず今夜は城の中に泊めてもらうことにして、翌日の朝にまた出発することにした。
「はぁ~あ、これから俺たちどうなっちまうんだろうなあ」
「考えても仕方がないわよ。今はあの黒ずくめの連中から逃げてこられただけでもラッキーだったわ」
「そりゃそうだけどな」
夕食を摂りながらぼやくルギーレと、そんな彼を慰めるルディア。
ある程度予想していたことだが、予知夢の話は信じてもらえず、黒ずくめの変な奴らに殺されかけ、アーエリヴァに向かう列車も爆破されて予定がすべて狂ってしまった。
勇者パーティーを離脱してこれからは独りで気楽に生きていこうと思っていたのに、あの剣を手に入れてから何かしらよくないことに巻き込まれている気がする。
そんなことを思いながら、今日はもう寝てしまおうと満腹になった腹をさすりながらベッドにもぐりこむルギーレだったが、彼の強化された聴力がその夜に聞いてはいけない音を聞いてしまった。
◇
「……う……」
深夜、尿意を催したルギーレがトイレに行こうと部屋を出たのだが、その廊下にある窓の外からガサガサと葉が擦れる音が聞こえてきた。
「ん?」
風で葉っぱが揺れてるのかな……となんの気無しに窓の外を見るルギーレだったが、それが間違いだと気づくのに時間がかからなかった。
なぜなら、その窓の外ではいつの間にか火の手が上がっていたからだった。
「お……おわおわおわっ!? 火事だ、火事だぞ~っ!!」
ルギーレの大声に、廊下で立ち番の夜勤をしていた騎士団員たちもその火事に気が付いた。
「火事だって!?」
「そうだよほら、あれっ!!」
「本当だ! すぐに人を集めろ!」
消火のために騎士団員たち、それから水の魔術を使える魔術師たちが集められる。
一方のルギーレはルディアを叩き起こし、早く避難するように伝える。
「おい起きろルディア! 火事なんだよ!!」
「え……え?」
「寝ぼけてる場合じゃねえよ! さっさと起きて逃げっぞ!!」
このままでは命が危ないので、まだ寝ぼけ気味のルディアとともにさっさと城の外へと避難しようとするルギーレ。
だが、本当に命が危ないと判明するのはこのすぐ後だった。




