31.逃げよう!
「……で、我も避難をした方がよいと?」
「はい、ですからこうして提案しました」
なんとかトークスとウィタカーの追撃をかわして帝都へ舞い戻ることに成功したルギーレとルディアだったが、予知夢の内容が当たらないとも限らない。
なので万が一に備えてディレーディに提案をしたルギーレだったが、それよりも先に口を開いたのはこの国の宰相であるヴァンイストであった。
「なりません。そんな夢の話を信じるなど、陛下に対して失礼だとは思いませんか?」
「それは確かにそうかもしれませんけど、でも……彼女の予知夢は当たるんですよ」
「バカバカしいにもほどがありますね」
それよりも今は、列車爆破事件の話や黒ずくめの男たちの話をもっとするべきだというヴァンイストに対して、ディレーディが神妙な顔つきで口を開いた。
「ここには我ら五人しかいないから、この際に聞いておきたいんだがな」
「何ですか?」
「単刀直入に聞こう。もしかしてお前は……ルディアは、ヴィーンラディの預言者ではないのか?」
本来であれば謁見の間で行われるはずの謁見が、もろもろの事情によって皇帝陛下の執務室で行われている今の状況で、ストレートにその質問をぶつけてくるこの部屋の主。
自分と宰相のヴァンイスト、それからルギーレにルディア、そして騎士団長のザドールしかいない状況だからこそディレーディはその質問をぶつけたのだが、ぶつけられた方の出方はというと……。
「……はい、そうです。私はそう呼ばれていました」
「え……ヴィーンラディの預言者ってまさか、予言をすることで有名なあの……?」
目を丸くする若き宰相に向かって、ルディアはハッキリとうなずいた。
「そうです。でも、言えたのがここで良かったです」
「確かにこちらとしても良かったです。あなたのうわさはこちらにも届いていますが、できれば何があってこの国に来たのかを教えてもらえますか?」
「……口外しないのであればいいですけど……」
「約束しましょう」
宰相と約束をしたルディアは、王都のトラブルやそれに関する過激派に追われていることなどを話した。
「……なるほど。しかし、行く当てはあるのですか?」
「いいえ、今はこうして放浪の旅に出ていますのでどこにもありませんね」
「ふむ、そうですか。しかしこちらとしてもあの有名なヴィーンラディの預言者をかくまうというのはリスクが高いんですよね……。それに最初に申し上げましたが、こちらも当たるかわからないその予知夢だけで、陛下を外に出すわけにもいきません」
ディレーディと予知夢の話はさておき、他国からいきなりやってきた、それも国の重要人物を無断でかくまっていたとなれば国際問題に発展する。
ひとまずここはヴィーンラディに連絡を取り、それからこの先のことを考えようというヴァンイストだが、ルギーレが「それどころじゃない!」といきなり叫び声をあげた。
「俺たちは黒ずくめの二人に追われてたし、騎士団の団員と一緒にいるのを見られたからこの帝都の方に向かったのバレても仕方ないし、何か悪い予感がするから早く逃げたほうがいいですって、本当に!!」
「しかしなあ……」
切羽詰まった表情でディレーディにそう言うルギーレだが、言われている方の人物はこの国の皇帝なだけあり、民を置いて逃げることはできないと渋る。
それに、今までの話をじっと聞いていたザドールもその意見には同意らしい。
「何度も言っているが、その夢の話だけで陛下は動けないだろう。実際に事が起こらない限りはな」
「いやいやいや、夢の話の部分は置いといて、追われていたのは事実ですよ!! だからやばいって言ってるじゃないですか!」
「じゃあせめて、陛下の身の回りの警備を増やすのはいかがでしょう? それで少しでもリスクを回避できるかと思いますけど」
せめてもの妥協案として、ルギーレの話にルディアがプラスする形でそう言ってみると、意外にもそれはすんなりと受け入れられた。
「まあ、それぐらいだったらいいでしょう。というわけでサイヴェル団長、陛下の身辺警護の強化をお願いします」
「はっ、かしこまりました」
だが警備を強化されただけでは、あの炎に囲まれるディレーディの光景がいまだに頭から離れないルディア。
そもそも、あの黒ずくめの連中がディレーディを狙うよりももっと別の目的があるのではないか?
(例えば私とルギーレが狙われた理由が、あの剣にまつわることだったようにこのディレーディ陛下を狙う理由が……単に世界征服ってだけで終わらない気がする何かがあるはず……)
まだ敵の実態も全然つかめていないので、世界征服できるだけの人数があの黒ずくめの連中にあるのかどうかすらもわからないし、そもそもそんな事態になったら勇者パーティーも黙っていないはずである。
腐ってもあの連中は勇者なのだから。
そう考えているルディアの横に立つルギーレはルギーレで、気になっていることがあるらしくディレーディにこんな質問をぶつけていた。




