幕間 三者三様の思い
レヴィ殿下はとても素敵な人だ。
この前頂いた贈り物も、私が以前「綺麗」と何気なく呟いた品だった。気にかけて下さっているのが非常によく分かる。
でも、贈り物はあれど最近お会いする機会がめっきり減ってしまった。よく三人で出かけたカフェテリアは、今ではアルト様と二人で行った回数のほうが多い。
そして今日。アルト様から好意を告げられた。
王妃として支え、国を愛していくのか。それとも一人の女として、一人だけを愛するのか……。今まで何度も考えたこと。とうとう覚悟を決めるときがきた。
私は――
***********************
急にウェンディから「アルトと婚約することにした、友人としてこれからも仲良くしてほしい」と言われてしまった。
なぜだ。
確かに明確に婚約などの話はしていなかったが、恋人のように過ごしていたし、私はそのつもりだった。
卒業と同時に婚約を申し込むつもりだったし、今後のお互いについての話も幾度もした。そのたびにウェンディは支えてくれると言ったのに。
なぜ、どうして。それしか浮かばない。
卒業までに婚約者が決められなければ、政略にとって一番適当な子女が選ばれる。このままいけばコルネリア公爵の長女、カティア嬢となるだろう。
ウェンディ、君とずっといられると信じていたのに。なぜアベルの手を取った?私の何が劣っていたんだ……?
その後、私は予想通りカティア嬢と婚姻した。ウェンディへの思いをなかなか断ち切れない。紛らわすように執務に没頭し、気絶するように寝てしまう。カティアとは初夜以降触れ合えていない。彼女には落ち度はないのに、肩身の狭い思いをさせてしまっている。早く子を、と思えば思うほどウェンディの姿がよぎる。ああ、君の子どもは可愛いのだろうな。
即位をするころにはカティアのことを妻として愛せるようになり、ウェンディへの恋心は穏やかな思い出とすることができた。カティアが支えてくれたおかげであり、感謝してもしきれない。そして、カティアはまた嬉しい知らせを運んでくれた!私たちの子ができたという!
男だろうか、女だろうか。どちらでもいい!楽しみだ。
立派な父になれるよう、執務を一層頑張らなければ。
**********************
侯爵家のウェンディ様と殿下の熱愛は学院に通うものなら知っている事実だ。
私自身幼い頃より殿下に恋心を抱いていたものの、一人の男性として優しい眼差しをウェンディ様に注ぐ姿を一度でも見れば割り込む余地はないと思われた。
なのに。
ウェンディ様が選んだのは殿下ではなかった。慣例に従い、私と殿下の婚約が結ばれた。
婚姻、即位……目まぐるしく変わる環境と仕事に反比例し、変わらない私たちの距離感。
私はその距離を詰めようと躍起になった。
即位されたあたりから、侯爵夫妻との交流が再開された。
パーティーで楽しそうに話す姿に心が痛む。私が一生懸命陛下を支えていたのに!
意味がなかったの?やはり、ウェンディ様が良いの??ああ、あの優しい目。まだあの女を愛しているの……?
思考が黒く塗りつぶされる。嫉妬なんてしたくないのに、止まらない。
やった、やったわ!
王子を、世継ぎを生んだ!
これで私の立場は確立された!女しか産めなかったあの女とは違う!
……なんですって?あの女の娘をシリルの婚約者に、ですって……?
なにを考えているの!?そこまでしてあの女と縁を繋ぎたいわけ!?
そういえば、あの娘。どことなく陛下に似ている……?まさか……。
自分の娘だからそばに置きたい、とか……?
問い詰めようにも執務執務執務!!
ふふふ、馬鹿みたい。今では私が愛されている、というのは幻想なのね。
ねぇ、シリル。よく聞いて。リリスティアに心を許しては駄目よ。
あの子はね――
該当の乙女ゲームをしたことがない人への補足
某大手有名乙女ゲームには、逆転告白エンドというのがあります。
2番手が本命にとってかわるのですが、これがまたえぐい。
クリスマスにキスまでしておいて、別の人とくっつくわけですから。
これ、かっさらわれた方は立ち直るの辛いよなぁ……と思い、そこを掘ってみました。
これが、リリスティアが最初生きていた世界の親世代の話です。