テンプ・・・あれ?
遅れてしまい申し訳ありませんm(__)m
食事をとっている俺達に向かって来る一団。それは屈強な冒険者達だった。それをみて一斉に警戒する面々。
「おい小僧」
その中の一等強そうな男が俺に声をかけてくる。片目に傷があり、なるほど歴戦の猛者といった感じだ。猛者の表情はどこか硬い。一瞬目線が俺じゃなく、後ろの皆さんをみた。
これは・・・いわゆる「よう兄ちゃん。綺麗所を揃えてるね~?俺らにも分けてくれよ?」とか、「新米ごときがその方と食事とはいい度胸じゃねぇか」みたいないちゃもんつけられて絡まれる、テンプレというやつではないかね?
フフフ。だが甘いな、こっちにいるのは帝国騎士団の部隊の副隊長であるレティに、ギルドの受付嬢のリースさんがいる。しかも、エルフのサーシャさんにダークエルフのラムさんもいる。いくらなんでもこの布陣に喧嘩を売るなんてことは意味のないことなのだよ!
えっ?俺はどうなのかって?・・・他力本願っていい言葉だよね?皆もそう思うだろ?
すると、猛者の人が一歩踏み込んで来る。目線はまっすぐ俺だ。これはいよいよヤバいか?逃げる準備として足に力を込める。
「その料理を作ったのが小僧というのは本当か?」
・・・はい?
「えっ?ええまあ。そうですがそれがどうしました?」
「そうか・・・」
猛者の人が目を瞑る。俺の足にも力がはいるが、猛者の人は俺の予想を裏切りカバっと頭を下げてくる。
「頼む!俺達にもその料理を食わせてくれ!」
・・・・・・あ、あれ?テンプレは?新人である俺が先輩に絡まれるテンプレは?つか、いくらなんでも頭を下げるって、どんだけ食べたいんだ。って、よくみたら後ろの奴等も「お願いします!」とかいってどんどん頭を下げていくのはなにかおかしい。
頭が混乱してきたので、ちょっと整理しよう。うまそうな見たこともない食べ物を、目の前で食べられていたので、食べたくなったから頼みに来たってことでいいんかね?
「えっとまあ、料金をきちんと払ってくれるなら構いませんが?」
「本当か?!恩にきる!!」
猛者さんを筆頭に歓声が上がる。しかし、なんだろうな。俺にはとことん王道という道が当てはまらないらしいな。異世界テンプレはどこに行ってしまったのだろうか?
そう思いながらも、俺は厨房に入って行く。そして、この行動こそが俺の今後を大きく決めつける行動となってしまった。
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「3番テーブル、オーダー入りました!追加でまた唐揚げだそうです!」
女給さんからの声が厨房に響く。
「あぁ!?またかい!さっきもやったろうに!そのテーブルは後だ!先に注文してた5番と9番とこだ!ほい!できた!たのんます!」
出来上がった唐揚げを女給さんに渡す。女給さんはそれを受け取り、テーブルに走る。
俺はまだまだ山積みになっているオーダーの紙をみる。それは全部唐揚げの注文だ。どうやら、唐揚げはよほどこちらの人達の口に合ったらしく、追加注文の山が出来あがっていた。1料理人としては嬉しいが、どうしてこうなった!?
「って、嘆いてる場合じゃにぃ!うおぉぉ!ラディカル!グッド〇ピード!!」
身体能力強化を使い、調理スピードをあげる。かなり忙しいが、実はちょっと楽しかったりする。身体能力強化のお陰で、まるでアニメのような調理光景になっているからだ。包丁二本持って、シューをダダダダ……とするのは楽しいもんだ。
それに、もうひとつ発見もあった。レナスさんの話の中に、魔術とはイメージである。という言葉があったのを思いだし、《バレット》の弾丸を平たく棒状のものをイメージし、ボウルに入れて回転乃力を使って回転させ撹拌するというミキサーまがいのことが出来るようになったことだ。お陰でマヨネーズを作るのがかなり楽になったのは助かった。
だが、それでも足りない。こちらが作る速度よりも追加注文の速度のが早いのだ。それに、俺の魔力もそろそろそこを尽きそうだ。
「2番3番追加オーダーです!」
女給さんの無慈悲な追撃が炸裂。
「くそ!またかいな!そろそろ俺のっ!?」
突然強烈な目眩がして力が抜け、片膝をつく。
「オーヴァンさん!?大丈夫ですか!?」
そんな俺の様子を見て女給さんが駆け寄ってくる。女給さんに肩を借りてなんとか立ち上がる。一人でろくに立ち上がることもできなくなるとは。これが魔力欠乏という状態か。魔力を使い切ると意識を保つのも辛いと聞いていたが、なるほどこれは確かにつらい。
注文はさっきからひっきりなしだ。だというのにこの体たらく。くそが!
だが、まだだ。まだ終わらんよ!魔力がなくたって調理はできるはずだ!元の世界では魔力なんてものはなかった!ならできるはずだ!力が入らないからなんだ!命を燃やせぇぇ!!
“スキル〈HP変換〉を手に入れました”
なんだ!?スキル入手だと!?
急に頭に響いた世界の言葉におどろく。急いで入手したスキルを確認する。
HP変換:HPをMPに変換するスキル。変換効率はHP1でMP5。
おお!?まさに今の俺に必要なスキルではないか!感謝するぞ世界!!
俺は早速スキルを使い、魔力を補充する。
フハハハハ!これで我が軍はあと10年は闘える!!
女給さんに大丈夫と伝えてすぐに調理に戻り、追加オーダーをさばく。
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~女給さん目線~
オーヴァンさんという新米冒険者が唐揚げという料理を作り始めて早3時間。ひっきりなしの注文を彼はたった一人でさばいている。身体能力強化も使っているのだろうけど、よくこなすわね。
だけど、流石に魔力が切れたのか、もう何度目かわからない追加注文を伝えに行くと、彼が片膝をついた。やはりもう限界のようだわ。肩を貸して立ち上がらせると彼は息を荒くしていた。明らかに魔力欠乏を起こしていた。
これは流石に止めるべきね。リースさんに言えばなんとかなるでしょうし、もう休ませてあげましょ。
そう思って声をかけようとしたが、突然驚いたような表情をして、しばし思案したあと急に立ち上がった。立ち上がった彼に魔力欠乏の様子は見てとれなくなっていた。
えっ!?ちょっとどういうこと!?
彼はもう大丈夫といって、また調理に戻ってしまった。彼がまだ頑張っているのなら私が怠ける訳にもいかないので、仕事に戻るしかない。大丈夫かしら彼?
それからしばらく続いていた注文も、材料切れという結果で止まる。彼が持っていた材料だけでは足りず、ギルドにあった材料まで使ったのにだ。いろんな人が来て食べていたのだから仕方ないとはいえ、とんでもない量をさばいたものだ。
私は最後の唐揚げをテーブルに持っていった。周りはまだ食べたそうにしているのはどうかと思う。確かにすごく美味しかったから気持ちもわからなくないが。
すると、まだ食べ足りない何人かの冒険者が、材料を買ってくるから食べさせてほしいと言ってくる。流石にそれはどうだろう。彼に相談するから待ってほしいと言ってその場を後にし、厨房に戻ると、彼が最後の唐揚げを私に渡した場所で倒れているのを見つけた。
「えっ!?ちょっと!?オーヴァン君!!オーヴァン君!!」
すぐに駆け寄って揺すって見るがまるで反応がなかった。まさかと最悪の予想がよぎった私は彼の首に手をあて脈を測る。
かなり弱々しいけど脈はある!とにかく、リースさんを呼んで対象しなきゃ!
私はリースさんを呼び彼を見せる。いつもポヤポとした雰囲気はどこへやら、真剣な表情で彼の身体に触る。リースさんは多少医学の知識があるはずだから、リースさんに任せておけば大丈夫。
自分にそう言い聞かせ、落ち着かせる。すると、リースさんは彼にポーションを飲ませる。意識がないから口移しであるが。
リースさんはこれでよし。と呟くと、ほかの職員に彼を仮眠室で休ませるようにいった。リースさん曰く、結構ヤバい状態だったみたい。HPが一桁切っていたと言っていた。なにをしたら調理でそんなことになるんだろうか?
そう思っていると辺りが一気に寒くなる。これはよく知っている。リースさんが怒っているときになる現象だ。
そう。元Aランク冒険者〈氷海女帝〉と呼ばれたリースさんが怒っている証拠だ。リースさんはそのまま厨房から出ていき、冒険者達の所に向かう。
その後は、リースさんの怒号と冒険者達の悲鳴が聞こえるだけだった。
仕事と風邪でダウンしていたらこんなに経ってしまったorz
誠に申し訳ございません。