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第二十九話 有能な狙撃手

 



 後少しだけ、後少しだけ俺に心が折れない強さを!!


 そんな決意と共に最後の仕上げへと歩みを進める。



 ……改めて思うが俺はなんでこんな苦労をしてるんだろうな?


 確かに将来的な計画に騎士団の懐柔案はあった。

 だがそれはもっとこのヒロイット領に溶け込み此処で暮らす領民達と、それなりの繋がりが出来てからの筈だった。


 領民を味方につける事で数の暴力を手に入れてから騎士団の心をへし折る予定だったのに……


『そんな顔を見たら少しだけ本気で助けたくなる』……


 不意に脳裏で響くこれまた俺らしくない台詞。


 コレだ。


 あの時の俺は何故かそんな事を思ってしまい、あのアライア如きの為にこんな苦労をしているんだった。


 ………………


 ……いや、やると決めたのは俺自身だ。

 アライアに責任転嫁するのはスジが通らないか。

 これは俺が原因で俺が苦労をしているだけの話だな。


 これは至極当然の成り行きなんだ。


 ……そう思って割り切ろう。



「はぁ……よし、切り替えた! さてと、アンタがラウンド騎士団長だな? 少し矢が刺さった位で戦線を離脱して随分と楽をしていたもんだな」


「貴様如き冒険者が我々騎士団をとやかく言う資格など無い!」



 俺が軽く投げた矢でぶっ倒れてたくせに、傷が治った途端に随分と強気だな?

 アライアの話だとそこそこ有能っぽい感じの印象だったが、実際に話してみると小物臭が漂ってるぞ。



「とやかく言うことに資格なんて必要ないさ。駄目なものは駄目だという事が罪だとでも?」


「ふんっ、減らず口だな。少し腕が立つからといって傲慢になる様では、やはり冒険者にはこのヒロイット領から出て行って貰う他にないっ!!」



 聞く耳を持たないラウンドから妙な自信を感じた瞬間、死角から例の毒矢が飛んで来る気配を感じた。



「フハハハッ!! その矢に塗ってある毒は大型の魔獣ですら掠っただけで致命傷よ! 貴様の敗因はその傲慢さだとあの世で後悔するがいい!」



 高笑いしている所を悪いが、この程度の速度で矢が飛んで来たとしても俺に当たる事は無い。



「ほっ、と。……で? アンタの策はまだあるのか? あまり出し惜しみしていると策を打つ前に終わらせるぞ?」


「……な、何故、あの完全な死角からの矢を掴める……」



 俺の気配察知を潜り抜けるとは大した隠密能力だが、不意打ちに飛び道具を選んだのは選択ミスだったな。

 そこだけを除けば随分と優秀な狙撃手だ。


 まぁ狙撃手だからこその飛び道具とも言えるが。



「おっさんも少し固まってる様だし、先に狙撃手の方に対応するか……今度は逃さん」


 “……っ!!ま、拙いっ!!”



 少しだけ脅し程度の殺気を飛ばすと、直ぐに気配が漏れた。

 優秀でも場数は足りてない様だな。


 魔力による身体強化で脚力を上げ漏れた気配の場所へ素早く移動すると、ちょうど逃げようとしていた軽装の兵士がそこに居た。



「お前か、人に毒矢をポンポン放っていたのは……って、女か。……やれやれ、少し痛い目に合わせようかとも思ったが流石に女相手にってのはなぁ」



 よく男だらけの騎士団に女が配属されてるもんだな。

 別に差別する訳じゃないが一人だけってのは違うと思うんだが?

 配属するなら複数人同時に採用するぐらいの配慮をだな……



「き、貴様もわたしを女だとバカにするのかっ!!」


「ん? 別に馬鹿にしているんじゃ無くて、俺は配慮をしているだけなんだが?」


「戯言をっ!」


「おっと!……狙撃の腕は良いが近接はお粗末だな」



 突然激昂して短剣で斬りかかって来てもその腕前じゃあ無理だ。

 そんな腕では魔獣を駆除するのも一苦労だぞ?



「ところでお前は身体強化の魔法は使えるのか?」


「くっ! 離せっ!! 使えたらどうだと言うんだっ!!」



 随分と素直に答えたな。

 ジル以外の他の奴等もこれぐらい素直だと良かったのに。



「それじゃあ限界まで身体強化をしろ。今からその狙撃の腕を称賛してお前には空の旅をさせてやる。せいぜい楽しんで来いっ!!」


「な、何をっ!! ……キャッ………………ァァァァァァァァ……」



 暴力で心を折るのも気が引けるので狙撃手の女には恐怖で心を折ることにした。

 天高く舞い上がった狙撃手は豆粒程の高さまで上がったが、もし高所恐怖症だったら勘弁な?




 ……そろそろ落ちてくるか?



「……ァァァァァァ……ッ!い、いやァァあっ!…っぐぇっ!?」


「おう、お帰り。空の旅は楽しめたか?」


「きゅ、きゅう〜〜〜〜〜〜」



 ちょっとした悪戯心のつもりで地面スレスレでキャッチしたら気を失ってしまった様だ。



「……まぁこれに懲りたら迂闊に気配を漏らさないよう訓練するんだ………まぁその、なんだ、漏らすのは良くないぞ?」



 まぁ今後は漏らさない為の胆力を鍛えてくれ。

 度胸を付けたいならいつでも協力ぐらいはしてやる。



 ……さて、俺は何も見てないし、気を取り直してラウンドの心をへし折るとするか!


…………………



「……さて、逃げなかったのは関心するが、顔色が悪いぞ?」


「な、なんだあのデタラメな力は……貴様は本当に冒険者か?……いや、そもそも本当に人間か?」



 デタラメな力?

 ……ああ、さっきのヤツか。



「なんだ、アンタも空の旅がしたいのか?」


「ふ、巫山戯るなっ!!」


「さっきのは三割程度の力で投げたがアンタは特別に五割ぐらいの力で打ち上げてやる」


「あ、あれで三割……だと? ば、馬鹿な」


「いやいや、こんな事で嘘をつく意味なんてないだろ? 大体、俺が本気で投げたらその力にあの女が耐えきれず空中で爆散するんじゃないか?」



 本人が三割だと言っているのになんで他人から否定されるんだ。


 ……もしかしてハッタリだと思われてるのか?


 人が色々と加減してやってるのに随分と舐めた事を言うおっさんだな。

 だったらそこそこの本気を見せてやろうじゃないか。

 コッチだってそろそろ我慢の限界なんだ。


 この辺でパァっとやって鬱憤を晴らしたい。





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