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第十四話 地脈精霊信仰の遺跡

 



 ……どれぐらい戦い続けた?

 陽が落ちて昇るのを二度ほど確認できたが、その後は戦いに集中し過ぎてよく分からん。



「はぁ、はぁ、……と、とにかく俺の勝ちって事で良いだろ?」


 《……グゥゥゥゥ》



 なんだ悔しいのか?

 そりゃそうだろうとも。

 人を見下しておいて自分が先にヘバったんだからそりゃ悔しいに決まってるよな?



「とは言え、正直こんな泥試合になるとは思わなかったが……」



 一応これで決着はついたが、まさか体力勝負になるとは思いもしなかった。


 俺も巨狼も血の一滴すら流していない。

 決定打の無いまま延々と戦い続け体力切れで勝負がついた。


 俺が今使っている剣はその辺で売っている安物の剣だ。

 俺の魔力では頑丈には出来ても切れ味までは変えられないので目の前でヘバっている巨狼に一度もダメージを与えられていない。


 どんだけ硬い毛に覆われてるんだって話だ。



「はあ、最初は毛皮を剥いでやろうかと思ったがなんかどうでも良くなった。というか久しぶりに疲れた……」


 《ガウッ!!!》


「おわっ!?……何急に吠えてんだ………って、そういやお前以外にも沢山居たんだったな。すっかり忘れてた」



 巨狼の一吠えで俺を観察していた全ての魔獣?が目の前に現れた。

 見た目はバラバラで熊やら虎やらよく分からん獣の勢揃いだ。


 魔力のデカさからいってこの群れで一番強いのが巨狼っぽいが、コイツより弱いといってもこの数は流石に無理だ。


 まさか第二ランウドがあるとは思っていなかったからこの数を相手に戦う余力なんて残していない……


 参ったな。

 此処で終わりか?


 まさか自分の最後が魔獣?の餌だとは夢にも思わなかったな。



「……悪いが俺は見た通りそこまで喰いでのある大きさじゃ無いんでな、全員分とまではいかんが腹の足しにしてくれ」



 他の魔獣?がどうかは分からんが、巨狼は間違いなく俺の言葉を理解しているので遺言代わりの皮肉を言ってやる。


 脳裏にヨルム・ヒロイットの顔が浮かび、何となくそれが未練なのかもと思ってしまう。


 彼女の内面を知ることが出来なかったのは残念だ。

 ああ、とても残念だな……



 《アオーーーッン!!!!!》


「ダァッ!! うるさいなっ! 人がしんみり終わろうとしてるんだから空気読めよっ!!」



 って、何だ?

 気付けば俺の周囲にいた魔獣?が全て伏せている……



「リーダーのお前が負けたから群れとして従うってコトか?」


 《ガーウ》



 ……違うのか。

 変な鳴き声と共に首を横に振るなんて随分と人の仕草を理解している様だし益々コイツらが魔獣?とは思えなくなって来た。


 変な仕草をした後、巨狼はある程度回復したらしく立ち上がりアゴを使って『ついて来い』と示してから歩き出す。

 やはり人を理解していると思って間違いないな。


 他の魔獣?達も俺を置き去りにして巨狼について行ってるし、此処は大人しくついて行くか。



 …………………

 ……………



 巨狼の後を追ってついて行きながら道無き道を歩き崖を越えながら俺はモヤモヤとした既視感を抱えていた。


 なんだこの感覚は?

 懐かしいと感じなくも無いが、どちらかというと憂鬱だと感じる気持ちの方が強い。


 この感じは……まるでバンディットの屋敷に帰る時の気分だ。


 あの不毛の大地とは真逆の生命に満ちた森の奥だというのに、この景色から俺が感じる印象はとても似ている。



「おい、狼! 一体どこまで俺を連れて行く気だ?」



 個人的な意見としてはあまり進みたく無い。

 バンディットを飛び出した身としてはこの里帰りの様な雰囲気は居心地が悪すぎる。


 そもそも俺は【地脈精霊信仰】の遺跡を探しているのだからこんな寄り道をしている場合じゃ無かった。



 《ガーウ、ガーウ》


「……もうすぐだって言いたいのか?」



 なら、まぁ仕方ない。

 もう少しだけ付き合ってやるか……





 ………………………

 …………………



 ……結局あれから更に丸一日も歩かされたんだが?


『もうすぐ』って時間の感覚は種族によって異なるってのがオチなのか?

 なんとなく巨狼を邪険に扱いたく無いと思っていたあの時の俺をぶっ飛ばしてやりたいっ!!



「……とはいえ、まさか案内された先が【地脈精霊信仰】の遺跡だったのは僥倖だったな」



 生い茂る草木を掻き分け抜けた先には、高さはそれ程でも無いがやたらと横に広い古びた石造りの建造物が静かに佇んでいた。


 こんな未踏領域に建っている建造物なら間違いなく【地脈精霊信仰】発祥の地に関連する何かだろう。



「それにしても時代も定かじゃない大昔の建造物にしては原形が綺麗に残り過ぎているな」



 なんだったら今すぐにでも人が住めそうだ。


 少し詳しく調べてみるかと思って数歩進むと一日前に感じていた憂鬱な気分が蘇って来た。



「ぐっ? これは憂鬱な気分どころじゃ無い……血が身体から逃げ出すんじゃないかってぐらいの忌避感だ」



 言葉では上手く言えないが、とにかく血がザワつく。

 しかも滅茶苦茶気分が悪い。


 ふと横を見ると俺について来ていた巨狼も険しい顔をしている。

 どうやら俺と同じ状態らしいな。

 他の魔獣もどき達は茂みの向こうで待機しているから奴等もこの遺跡には近づきたくないようだ。



「おい巨狼、お前は俺に何をさせたいんだ?」


 《ガウッ!》



 そろそろ本当に意識が遠のきそうなレベルで気分が悪くなり始めたし、これ以上は遺跡に近づけないんだが?


 俺は自分の限界を感じて足を止めるが、巨狼はもう一歩だけ歩みを進めその場で前足を振り上げ何かを引っ掻く素振りを見せた。


 次の瞬間。

 何も無い空間から『ガリッ』と引っ掻いた様な音がした。



 《ギャンッ!!》



 俺と戦っている時ですらあげなかった悲鳴と共に数歩飛び退き引っ掻いた前足を庇う仕草をして蹲る。



「なっ! どうした急に!? ……って、どうなってんだ?」



 俺が安物の剣とはいえ本気で斬りつけても傷一つ与えれなかった巨狼の前足はズタズタに切り裂かれていた。


 まさかあのなんでもない動作でここまで傷ついたのか?

 後ろを振り返り何も無い空間を見ると、水面の波紋の様な揺らぎが見えた。

 これは結界か何かか?

 流石は【地脈精霊信仰】の遺跡なだけはあるな。



「ちょっと待ってろ。お前に効くかどうかは分からんがバンディットの回復薬を参考にした俺特性の回復薬を……何だ?何が言いたい?」



 俺の治療を拒みながら巨狼は目で訴えてきた。

『あの結界を破れ』と、『本気のお前ならなんとか出来るのではないか?』と。



「……一体お前は俺に何をさせたいんだ? というかお前達は何だ? 魔獣じゃ無いよな?」


 《ガーウ》



 俺の問いには答えず、俺を遺跡へと差し向ける巨狼の目には強い意志を感じる。



「何がなんだか訳が分からない。なんで俺はお前を邪険に扱えないんだ? なんでこんなにも忌避感を感じる遺跡が気になるんだ? 本当に訳が分からん」



 いつもならこうまで理解不能な状況だと撤退するのが俺の選択なのに巨狼の意志を汲んでやりたいと思ってしまう。



「……はぁ、……一応安物とは言ってもそれなりに愛着はあったんだけどな。悪いが今日でお別れだ相棒」



 バンディットから出て行く際に足がつきそうな装備は全て屋敷に置いてきた。

 今使っている剣は初めて自分で買った剣だったが仕方がない。



「まぁ、此処なら誰かに見られる心配も無いし全力の本気を出しても問題ないか……それと一応言っておくがお前達もこれから見ることは誰にも言うなよ?」



 巨狼を含めた魔獣もどき達に無意味な念押しをして剣を構える。


 俺はバンディットの出来損ないだ。

 一族の誰もが特殊な才能や超絶な力を持ち全ての面で一般の人間を遥かに上回るのに、俺は魔力はあっても大した魔法を使えない事やその他の面でもバンディットの求める水準を満たせていない。


 そんな俺の本気とは魔力を全て注ぎ込んだ全力の【身体強化】から繰り出す単純な斬撃だ。

 より硬く、より早く、より強靭に。

 全ての動作を正確に一寸の狂いなく繰り出す理想の斬撃。


 だが、その理想の斬撃を繰り出すその一瞬。

 ほんの僅かな刹那の時だけ俺の斬撃は全てを斬り裂く。


 音も、光も、魔法だろうが物質だろうが全ての一切合切を理屈をすっ飛ばして絶対に斬り裂く。



「お前らはちょっと下がってろ。この技の余波はそれなりに派手だからな」



 魔力を練り上げ身体の隅々まで行き渡らせ、一切の澱みなく循環させる。

 魔力という栄養を糧に活性化を繰り返し、あらゆる身体的能力を相乗効果で底上げ。


 この一振りで間違いなく剣は砕けるが代わりに巨狼の前足をズタズタにした結界も消し飛ぶだろう。

 この一振りに過去の俺は『技名』まで考えていたが、今では黒歴史でしかないのでこの場では割愛。


 全ての準備が整い、一つ息を吸って間合いを測り俺は理想の軌跡を描いて剣を振り下ろした。






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