14.
14
「はあ、それで戻ってきたわけだ」
向かいにいる宮本ははじめ期待した顔で俺の話を聞いていたが、話を聞くにつれて、顔は曇り、最後には呆れた顔でため息交じりにそう言った。
「返す言葉もない」
「何やってんだか」
宮本はもう一度、次はわざと呆れたようにため息を吐いた。
ため息をついて、そして手前に置かれたコップを軽く回す。一回、二回と回して、そこでぴたりと動きを止めた。
「とりあえず話をすることはできたんだろ?」
「ああ、謝った」
「謝った、ね」
ふーんと目を細めて、宮本は俺を見る。
「何に対して?」
「何に対して、て。葬式のときに怒鳴らせるような俺の不甲斐なさを」
そう言うと、ほんとに呆れたように三度目のため息を吐いた。
「何にも分かっちゃいなかったか。まあ、ほんとそれで謝られたほうも心の中ごちゃごちゃか、そりゃ逃げるわな」
ひとり納得するようにつぶやいているが、俺としては何の事だか皆目見当もつかない。だけど、宮本の中ではなにか納得のいくことだったのだろう。満足気とは言えないが、彼なりの考えがまとまったような顔をしている。
「やっぱ、お前は馬鹿だな」
納得いった顔で言う。
どやっとした顔でそう言うものだから、こちらは面白くもない。
「どういうだよ?」
喧嘩口調で言うが、宮本はどこ吹く風という様相で意にも介さない。
「それくらい考えろって言いたいところだが、なんとなくお前らはまた勘違いを重ねそうだな。ひとつ聞いて良いか?」
「なんだよ」
「櫻井は怒ってるように見えたか」
言われて、考える。少なくとも怒っているようには見えなかった。どちらかといえば、いきなり俺が現れたことに対して驚いていたように見える。
「まあ、言わなくても分かるわ」
俺の顔からどんなだったのか想像できたのだろう宮本はそんなことを言う。
「櫻井はさ、なんというかお前には嫌われてると思ってたんじゃないか。あいつ自身何食わぬ顔で毒吐くし、葬式のときの事だって、あいつにしてみれば八つ当たりしたみたいに考えてるかもしれんな」
何か言おうと思ったけど、それが形にならないから黙ってそのまま聞く。
「そんな相手と一年も間があった。早いうちにお互いに話していれば、そうも思わなかったかもしれないが、時間が経てば、それだけ話がしづらくなるだろ。あいつにしてみれば本格的に嫌われてると考えるようになったんじゃないか? 一年も間が開いてことが真実味を帯びたわけだ。あいつの事だ、嫌われた奴に構いに行くタイプじゃないだろ。だから、余計俺たちを避けた。っと俺は推測するわけだが、どう思う?」
宮本の話は考えてみれば、そうかもしれないと思う。それだけの説得力がある。
だけど、なんとなく納得いかない。
「納得いかないって顔だな」
「そうだな。そうだ。納得がいってない。それだと、櫻井は俺に怒ってないようじゃないか」
「だから、そうなんだよ」
俺の言葉にすぐさま宮本は返した。
「お前は馬鹿だからって言ったのは、櫻井の言葉に流され過ぎだからだ。葬式のときに許さないとでも言われたんだろう。だからいまだにそれを引きずってる。多分だが、その時の感情で気が付いたら出ちまったその言葉にお前はずっと引きずられてる。過去よりも今のあいつの言葉を信じてやれよ」
静かだが、少しずつ口調が強くなっていく。
「呆れるくらいに馬鹿だなって思う時があるが、今日は特にだな。ほんと、ここまで引きずってるとは思わなかった」
最後に呆れたようにそんな風に言うと、あとは自分で考えなと言って、バッグとコップを持つと帰ってしまった。
俺の前には、誰もいなくなった。残ったは俺が飲んでいた飲み物が少しばかり残ったコップのみ。
中に残ったそれは俺の心と違い、どこまでも透き通って見えた。