13.
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走って、走って、走って。あいつがどこにいるのかも分からないまま走って。
「み、見つけた」
「……何よ」
そいつをようやく見つけた。
訝しげにこちらを見るその姿は、久しぶりに会ったが、前と変わらないまま。一人、研究室近くのベンチに座っていた。
長いスカートにきりっとした眼鏡。これでもかというくらい優等生というものを突き詰めたような姿。その姿は時々見かけることはあっても、口をきくことが一切なくなっていた女性。
櫻井は相も変わらずだった。
「ほんと変わらないな」
「……何が」
「いや、こっちの話。気にしなくていい」
ちっとも俺に対しての態度が変わらないままなのでどこか拍子抜けした。
「それで、見つけたってなに? 何か話でもあるの? 時間ないんだから手短にね」
ぶっきらぼうにそう言う姿も変わらないままで、どこか安心した。その姿に懐かしさを感じながら、要件を言おうとした。
「ついでに、いまさら私に謝るってことならやめてよね。宮本君に諭されてきたのか知らないけど、私に謝られても困るもの。私自身あの時は何も考えられなくなっていたから、あなたに感情をぶつけてしまったしね。本当に謝るべき相手がいたでしょ。私なんかより。そっちに土下座してきなさい」
話そうとしたところを遮られる。
どうやら、俺がどうしてここに来たのかも既に察していたようだ。
彼女の中では、あの話は終わったことになっている。掘り返したくない過去の事なのだろう。だけど、なんというか、俺はそのままにしておきたくなかった。
「それでも、言うよ。ごめん。君の大切な友達を奪ったのは俺だ。それは変わらない事実だし、櫻井が言うように、俺が遅れていったことがすべての原因だ。許してくれとは言わない。それでも、君に謝らないと気が済まない」
「いまさら、ね……」
今更だってことも知ってるし、これが謝罪だってことよりも、自己満足でしかないことも分かっている。
こうやって、謝って、自分の気が済めばいいとどこかで考えている。
こちらを向いていた櫻井は、呆れたとばかりに溜息をつく。
「ほんと、自己満足が好きみたいね。だから、あなたとこの一年距離を置いたのよ。それも、一年経ってから謝罪ね。ほんと、今更よね。それも友達に押されてってことですか。自発的でもないと、最悪ね」
一言、一言が俺自身の行動のつけを指摘する。今更過ぎると、あなたは自分勝手だなと。
その全てが事実であることが余計に自分のダメさを理解させる。まあ、最初から分かっていたことだし、それ以上に目的は謝ることだけじゃない。
ジッと俺を観察しながら、冷めた目を伏せた。
自嘲気味にため息を吐いた。
「っと、今更になってあなた自身がした行動に関しての感想はこんなものだけど、本当のところ謝るべきなのは私だものね。あの時感情に任せてあなたをなじった。それは本当の事だし、それは私がすべきことではなかったことくらいは今の私なら分かる。それに対しては私の方があなたに謝るべきね」
「櫻井が謝ることじゃない。ああやって怒鳴られなかったら俺はたぶん未だに被害者面しているだけだった」
「被害者面してていいじゃない。実際あなたは被害者みたいなものなんだから。突然恋人が亡くなり、その上、ヒステリックな同級生に怒鳴られる。これが被害者じゃないなら誰が被害者よ」
櫻井は首を振って否定した。
「だから、あなたの謝罪も受け入れるわ。ホント今更だけどね」
それは和解の言葉だった。
「え?」
「なに、鳩が豆鉄砲を食ったような顔しているのよ。あなたは自己満足として謝ってきたっていう私の推測が正しいわけ? まあ、正かろうが、正しくなかろうがどうでもいいのだけど。それ以上に大切なことがあるでしょ?」
正しいも何も、本当に今更の事だが。
「ああ、もうなにボケってしているの? 話は? もう何もないのなら行くわよ」
そう言うとさっさとどこかへと行ってしまった
言おうと思っていたことはたくさんあったはずなのに、何も言うこともできずに、「はい、それじゃあ」と終わってしまった。
拍子抜けしてしまったまま、俺は立ち尽くすしかなかった。




