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28 出動、チーム『氷刃』

『神人類』でもある団長を退けたユウゴ達は、部下の騎士達に取り囲まれていた。とは言っても険悪なものではなく、むしろ凄い事をやってのけた彼を尊敬する意味で集まって来ていた。

ユウゴには手合わせや武術の指南を求める者達が殺到し、ヒサメとマールの美人姉妹の前には、なぜか握手とサインを求める者が列を作っている。

そしてフェルリアは、一部の変わった性癖な連中(ケモナー)からのねっとりした視線から逃れる事に腐心していた。

そんなこんなで、飛び出していったエリエス達を追うことも出来ず、結局その日は騎士達の宿舎に泊まらせてもらう事になった。エリエス達と再び顔を合わせたのは、翌朝の事である。


「おはようございます、ユウゴ()

朝の挨拶と共に、様付けでユウゴを呼ぶエリエスに、一同は呆気にとられた。

「え……あ? さ、様ってなんです?」

「昨日、私は貴方に敗北しました……なので、約束通り貴方の指示に従います。なればこそ、上下関係はハッキリとさせておかなければなりません」

つまりは、体育会系な発想と決意からの「様付け」なのだろう。

それにしても、昨日の高圧的な態度からの変わり身が早すぎる。

「あー、そこまで堅苦しくしなくていいですよ。俺達の作戦にも耳を傾けてくれれば……」

「いいえ! 組織の長として曖昧なのはいけません! ですから、ユウゴ様も私を仲間の方々と同じように扱ってください」

他人行儀な言葉使いもやめてくださいね……エリエスはそう言いながら、熱のこもった瞳でユウゴに詰め寄ってきた。

(もしかして……昨日、ちゃんと支えたつもりだったけど、実は頭を打ってたんだろうか)

明らかに普通ではない様子のエリエスをジッと見つめると、それに気づいた彼女は頬を染めて視線を反らす。

そんな彼女を、危機感と敵愾心のこもった目でフェルリアが睨んでいた。


「……不本意ですが、お姉さまと同じように私も扱っていただいて結構です」

エリエスと共にユウゴ達の元を訪れたリネッサが、不機嫌を隠そともせずにそう告げる。

「あ、ああ……よろしくな」

戸惑いながらユウゴが右手を差し出すと、露骨に顔をしかめながら一瞬だけ握手を交わした。

「もう! いい加減にしなさい、リネッサ! 色々と不満はあるかも知れないけど、これから力を合わせなきゃならないのよ!」

「そんな事はわかっています。ですが、お姉さまこそ、浮かれ過ぎではありませんか」

「う、浮かれてなどいません! 私はいつも通りよ!?」

「おいおい、その辺にしておけよ」

何やら揉めそうな二人の間にユウゴが割って入ると、エリエスは「はい!」と返事をして素直に引き下がり、リネッサはさらに敵意を込めて睨み付けてくる。

そんな対照的な二人にため息を吐きつつ、朝食の後で魔王討伐の作戦会議を行う事でひとまずこの場を収めるのだった。


作戦を練るというより、事の最終確認をするために会議室に移動した一行は、机を取り囲んで地図を広げた。

「この島が魔王ゲイバラーの根城となっています」

ザクスン王国の北、海を隔てた小島を指さしながらエリエスが告げる。

「この島に住む魔族達は、ときどき大陸に渡って来ては略奪行為などを行っています。しかし、その被害は軽微で、人的被害も少ない事から、ほぼスルーされてきました」

損害が少ないなら、わざわざ藪を突く事もないという判断だろう。

しかし、それでも被害があるのは事実であるわけだから、今回の二組織の権威回復のための口実には、もってこいといった所だろうか。


「魔王ゲイバラーは鋼のような肉体を持ち、三人の魔王の中ではもっとも身体能力に優れていると言われています。並の者では、傷一つ付ける事はできないでしょう」

ユウゴ達を侮ってからの言葉ではなく、事実として出た言葉だった。

しかし、ユウゴの脳裏を過るのは、この世界に召喚されて初めて出会った幼女のような魔王の姿。

顔面を鷲掴みにされて粗相をしてしまう、あの魔王を基準にすると、あれより凄いと言われてもいまいち脅威に思えなかった。

(いや……油断は禁物だな)

もしかしたら、ロリ魔王の肉体的強さが「1」だとしても、ゲイバラーの肉体的強さは「1000」かもしれない。

最弱と最強にどれだけ差があるのか分からない以上、憶測で油断などしていいはずがなかった。

気を引き閉め直すユウゴだったが、その隣にエリエスがにじり寄る。


「安心してください、ユウゴ様! 私と貴方様の力を合わせれば、必ずや勝利できます!」

「お、おう……」

ぐいぐいと迫るエリエスに、やや腰が引けるユウゴ。

そんな二人の姿に、不機嫌そうなフェルリアが口を開いた。

「ワシらはチームで動いておるんじゃ。あまりうちの前衛を困らせんでほしいのぅ」

トゲのあるその物言いに、エリエスも反撃する。

「あら、私もユウゴ様と同じ前衛ですもの。親密になることで一行に貢献できると思いますけど?」

「ユウゴはワシの……んんっ、ワシらの要じゃ! ポッと出に我が物顔で戦列を乱されては、フォローしきれん」

「なるほど、では気を付けますので、心ゆくまで私とユウゴ様(・・・・・・)をフォローしてください」

「っの……」

パチパチと火花を散らすフェルリアとエリエス。


「うう……あのお姉さまが、こんな醜態を晒しているなんて……」

それもこれも貴様のせいだと言わんばかりに、ユウゴを睨み付けるリネッサ。


「いやぁ、モテモテだねユウゴ」

「モテモテですぅ」

明らかに状況を楽しんでニヤニヤしているヒサメとマール。


「なんか……えらいことになってきやがったな」

大仕事を前に、和の乱れまくるパーティを率いなければならないユウゴ(リーダー)は、シクシク痛む胃を押さえながらもバン!と机を叩いて注目を集めた。


「つまらん意地の張り合いはそこまでだ。元々、臨機応変にフォーメーションを組んでたんだから、前衛だのなんだのにこだわる必要はない!」

これ以上は有無を言わせんと無言で威圧するユウゴの姿に、全員がしぶしぶと従う。

「よし! それじゃ、いよいよ出発するか。目標は……」

ユウゴは地図に記された、大陸の北にあるもっとも海に近い村を指差した。

「大陸の最北端にあるこの町を目指す。そこで一泊してから、魔王の島に乗り込むとしよう」

なにか他に提案があるかと皆の意見を問うが、特に反対意見は出てこない。

作戦が決まれば、後は行動あるのみである。

ユウゴは「ヨシ!」と頷き、指さし確認をすると、自分の荷物の入ったバックパックを背負った。

それにならって、皆が武器を確認し自分の荷を担いで、準備は万端である事を告げる。


「それじゃあ、チーム『氷刃』及び、助っ人二名による魔王討伐作戦をこれより開始する!」

各自から返事があり、ユウゴを先頭にして会議室から外へと出る。

そのまま彼らが建物から出ると、いつの間にか集まっていた白の騎士団の団員達が、整然と隊列を組みながらユウゴ達に敬礼した。


「団長がお留守の間に何かあれば、我々が王都を死守いたします! どうぞ、ご安心ください!」

幹部クラスの騎士が宣言すると、それに同意するように声が上がる!

それを受けて、前に出たエリエスは、剣を抜き放って天にかざした。

「我々は必ずや魔王ゲイバラーを討ち倒し、脅威を取り払って見せる! その時を刮目せよ、我が団員達よ!」

再び怒濤のような歓声が空気を震わせる。

次いで、エリエスに呼ばれたリネッサが【教会】代表としての決意を語り、場を盛り上げていた。

まるで舞台の一部を思わせる、エリエス達と白の騎士団のやり取りに、ユウゴ達は少し圧倒される。


そんな光景を見て、先程までユウゴ達をニヤニヤしながら見物していたヒサメが、スッと真面目な顔つきになりポツリと呟く。

「まぁ……【騎士団】と【教会】の宣伝なんだから、派手にやるのはいいんだけれど……」

沸き上がる彼女らとは対称的に、ヒサメは冷たく現場を眺めながら、誰に言うでもなく小さく言葉を漏らした。


「こんな風に浮わついていると、死ぬかもしれないね……彼女達」


まるで自分達は伝説の主人公であり、偉業をなし遂げ続けていく事を確信しているかのような言動を繰り返す『神人類』達。

そんな彼女達の姿に、不吉な予言の如くヒサメの口から溢れた言葉は、近くにいたユウゴ達以外に耳にする者はいなかった。

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