26 顔合わせ
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ユウゴ達が依頼を受けてから三日後。
いよいよ魔王討伐任務のため、今回の作戦に参加するそれぞれの組織の代表が顔を合わせる事になった。
相手が王族ということもあり、はじめは城にでも呼ばれるのかと思っていたのだが、彼等が赴いたのは王都に隣接された、例の『神人類』が団長を勤めるという白の騎士団の駐屯地である。
「へぇ、立派なもんだな」
学校の校庭を思わせる外部訓練所には、白の騎士団の紋章を付けた騎士達が、今も気合いの入った訓練を行っている。
感心して眺めていたユウゴ達に、案内をしてくれている騎士の一人が満足そうに解説をしてくれた。
「我々、白の騎士団は、主に国防を受け持っています。そのため常に士気は高く、訓練と言えども実戦さながらの激しさをもって行っているのです」
「ほほう……」
確かに、いくつかの部隊に分かれて模擬戦を行っている騎士達は、凄まじく気合いが入っており、怒号が飛び交っている。
ここに来るまでの間に、【騎士団】の事について基本的な事は頭に入れてあった。
ユウゴ達が、現在訪ねてきている「白の騎士団」は、国の防衛を担当しており、貴族階級の団員が多い。
逆に、遠征や最前線での戦いを担当するのがもう一つの「黒の騎士団」だ。
そちらは一部を除いて平民からの志願兵や、【ギルド】の傭兵部等からの兵士で構成されている。
盾たる白の騎士団には栄誉を。
剣たる黒の騎士団には報償を。
ザクスン王国の【騎士団】は、そうした二本柱で成り立っていた。
「団長が王族と聞いていたから、貴族のお飾り的な物かと思ってたけど、そんなことはないようですね」
案内役の騎士に、ユウゴは率直な意見をぶつける。
「いやいや、元はそういう意図があった事も確かです。ですが、団長は実力主義の方でして、使える人材であれば地位や身分を問わず重用してくれるんですよ」
「なるほど……」
この騎士の態度、そして団長へ対する信頼感から、ユウゴは白の騎士団を統べる『神人類』の手強さを感じ取っていた。
(王族ながらなに実直で質実剛健か……厄介だな)
いっそ、権力を笠に着たバカなボンボンの方が扱い易かったかもしれない。
魔王戦の際には、前に出さすぎないように気を付けなければと、ユウゴは気を引き締めた。
外部訓練所を通りすぎ、白の騎士団の駐屯所となる建物へとユウゴ達は通される。
これまた学校の校舎を思わせる、三階建ての巨大建物は、一階が室内訓練所、二階が当直の騎士達の休憩所、そして三階が団長を始めとする小隊長達の部屋となっていた。
数名の騎士とすれ違いながら、三階へと昇っていき、最奥にある大きな部屋のドアを案内の騎士がノックする。
「どうぞ」
中から声がかかり、ユウゴ達は騎士に続いて室内へと入っていった。
中にいたのは、金髪の凛とした雰囲気の女性と、きらびやかに見えながらも派手すぎない、上品な法衣を纏った女性の二人。
リラックスした服装の金髪女性が、おそらく騎士団の団長なのだろう。
「【ギルド】より出向なされてまいりました、チーム『氷刃』の方々をお連れいたしました!」
ビシッと敬礼しながら告げる部下に「ご苦労様」と声をかけて、団長室の主は下がるよう指示を出す。
案内の騎士が退出し、部屋の中には今回の作戦の当事者達だけが残った。
部屋の真ん中にある来客用のソファを薦めながら、団長のエリエスはユウゴ達をこっそり値踏みする。
(ふうん……中年の戦士に隻腕のエルフ、あとは氷雪系魔術師が二人ね……)
普通に見ればいまいちバランスの悪いパーティに見えるだろう。
しかし、エリエスが下した評価は、超攻撃型のチームというものだった。
(見た所、斥候役のエルフが遠間から敵を発見して、魔術師二人が遠距離の攻撃、混乱に乗じて戦士が突っ込むといった戦法が得意そうね……)
相手のチーム編成から、自分がどう活用すればこの作戦で有効に使えるかを瞬時に分析したエリエスは、にっこりと微笑みながら自己紹介をする。
「すでにご存じだとは思いますが、私が白の騎士団、団長のエリエス・カロ・エルザクスンです」
「そして私は【教会】代表の大司祭の一人、リネッサ・ルド・エルザクスンと申します」
エリエスに続き、椅子から立ち上がったリネッサが名を告げて軽く頭を下げた。
「ああ、どうも。チーム『氷刃』のユウゴです」
ペコリと頭を下げて返答したユウゴに続いて、ヒサメ達もそれぞれの名を告げながら挨拶を返す。
「先の『ゴースト・ヒョウリンマール』の事件では、迅速な対応に感謝いたします。本来なら、国を護る我々が出るべきだったのですが……」
そう言って、エリエスは自重気味に笑う。
「私の部下達には、貴族階級に身を置く者が多いのです。もちろん、私が鍛えた精鋭であり、いつでも命をかける覚悟はできていたのですが、上からの介入があった為に、動くことが出来ませんでした」
地位や身分が絡んでくる以上、本人がよくても家の一族がそれを許さない事はよくある事だ。
名誉ある戦いに殉じるならともかく、たかがアンテッド退治で万が一の事があるかもしれないと考えた時、面子わー重んじる貴族がそれを阻止する事があってもおかしくはないだろう。
「【教会】も同じような理由です。神に仕える者が、死霊に不覚をとることがあってはならないと……」
ただのアンテッドならば、そこまで神経質にはなるまい。
しかし、敵は世界最強の氷雪魔法の使い手ヒョウリンマールの亡霊。
リネッサが『神人類』だとはいえ、一歩間違えば結果がどうなるかはわからないのだから、大事を取るのも無理らしからぬ事ではあった。
だが、この二人はそんなしがらみを理解してはいたが、納得できてはいないようだった。
自らの立場で果たさねばならぬ事を、成せなかった無念が言葉の端に感じられる。
「……だからこそ、この魔王討伐は成さねばならない。再びヒョウリンマール事件のような事を起こさせない為に!」
拳を握り、決意を新たにするエリエスとリネッサ。
その事件と魔王がまるで関係のない事を知っているユウゴ達は、なんとも微妙な表情で薄ら笑いを浮かべるのだった。
「さて……それでは今作戦において、君達には私の指揮下に入ってもらう」
「はぁ?」
当たり前のように言うエリエスに、ユウゴ達が不平の声を漏らす。
「……少数とはいえ、部隊を率いるのに騎士団の団長である私が、もっとも適任だと思うのだが?」
その言い分もあってはいるだろう。しかし、今回の依頼では誰は一人死ぬことは許されないのだ。
そうなると、いざとなればその身を犠牲にしてまで戦う騎に主導権を握られるのはよろしくない。
「悪いが、そうは思いませんね。俺達は、あんたの訓練を受けてきた訳じゃない。あんたが想定する働きができるとは思いませんな」
「十全を期待してはいないわ。それでも、指揮する者とされる者がいないと、部隊としてのパフォーマンスは発揮できないでしょう?」
「それはあるかもな。だけど、想定外の事が起きた時に素早く対応する事ができるのは、俺達の方だと断言できるぜ」
「大多数でと戦いならばオヌシの指揮下に入るのが正しいのじゃろう。だが、常に少数での戦いやトラブルにも慣れているワシらの方が、此度の作戦つつがなく遂行できると思うぞ」
ユウゴに続いてフェルリアも戦闘スタイルの違いなどをもって説明してみるが、エリエスもリネッサも頑として譲らない。
「それなら、互いに実力で相手をねじ伏せればいいんじゃないかな?」
結局は同じ戦うもの同士、肉体言語に勝る会話はないだろうと、ヒサメが提案を口にする。
「……そうですね、実力主義は戦士の根幹。ならば力ずくで指揮下に置くのもやぶさかではありません」
「……ふむ、それじゃあひとつ、お手合わせといきますか」
互いにこれ以上の議論は無用と悟ったようだ。
そうして、ユウゴとエリエスは一階の室内訓練所で、どちらがチームを仕切るかを決めるための模擬戦を行う事となった。
流れでこうなってしまいはしたが、この模擬戦においてユウゴが得ておかなくてはならない物が、二つある。
一つは作戦の主導権。
そしてもう一つは『神人類』の実力である。
(フォルノの時とは違って、実戦形式で『神人類』とやりあえるのはありがたい。牛鬼の力がどこまで有効か、試させてもらおう)
いずれ戦う事になるだろう他の『神人類』の力を推測するために、ユウゴのみならず、ヒサメ達もこの模擬戦を熱く見守るのであった。




