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魔導学校の悪魔使い  作者: ヒロ
第二章
15/42

『2』

 午後の授業も終わり、俺は織城先輩と共に部室でグータラとしていた。いつものように依頼者を待つ時が今始まる。


「……暇ですね」

「……そうだな」


 織城先輩は専用のレザーチェアに座り、デスクに突っ伏している。もう寝そうだ。非常に可愛い。


 一方、俺はというとカウチェアに横たわりながら、必死に眠気を我慢していた。

 万が一依頼者が来た時に、部員二人とも寝てましたなんてことがあったら、この『対悪魔特務機関』は即刻廃部だ。


「それにしても暇だな」


 やることがない。ここで優秀な結衣とかなら魔導書を読み込んで詠唱を覚えたりするんだろうが、俺はそんなことはしたくない。

 だって記憶力が悪いから。

 この間の詠唱の書き取りテストなんて、百点中八点で見事に最下位をキープしてしまった。


『我が主は詠唱を唱えることがないに等しいからのう』


 リリスの声が響く。

 聞いていたのかよ。深層心理に住み着かれるというのも困ったものだな。


(戦闘するときは基本リリスが詠唱を唱えてくれるからな)


『基本というか全てじゃな』


(…………)


 リリスさん。ちょっと今の一言はチクリと来ましたよ。


『まあ我が主じゃからいいんじゃがのう』


 そんな言い方されると、自分が母性溢れた彼女に支えられて辛うじて生きてられるニートみたいに思えてくる。


(これからは詠唱を覚えるよ。お前に迷惑をかけないためにな)


 そろそろ基礎魔法くらいは使えるようになってやるさ。


『それは無理じゃと思うがのう。そもそも我が主の魔力保有量は微量にもほどがある』


 うちの悪魔は契約者のことを邪魔したいのかな。一気にやる気がなくなってきた。


 そんなことを思っていると、どこからかスースーと音が耳に入る。


「ったく、織城先輩は」


 どうやらロリ先輩は睡眠モードに突入してしまったらしい。この人、部長の自覚あるのかな。


(リリス。毛布とか作れたりするか?)


『そんなもの、我が主がどれだけ余命を使おうとも妾は作らぬぞ!』


 急にキレられた。なぜだ。


『今から妾も寝ることにする。邪魔する出ないぞ我が主』


 一方的に言葉を放つと、それからリリスの声は聞こえなくなってしまった。


 なんだよ。せっかく織城先輩に毛布を掛けるというイケメンなことをしようと思ったのに。


「……スースー」


 よく寝てるな。部活中なのに。

 こんな時にもし依頼者が来たら一体どうするんだ――。


「依頼者を連れてきたよ」

「っ! なんだと!」


 織城先輩が起き上がった瞬間、彼女の後頭部が傍にあった俺の顔面に直撃。

 尋常じゃないくらい痛い。


「いてて」


 頭部の後ろを押さえる織城先輩。

 対して、俺の鼻からは血がブーブー出ている。こんなのゴブリン事件以来だ。


「蓮人くん! 大丈夫!?」

「そんな大きな声を出すなよ。大丈夫だ。昼に言った通り、人間には自然治癒というものがあってだな……やっぱこれヤバいわ。治癒魔法頼める?」


 鼻腔から血液が止まることなく出てくる。そのせいでブラウスの一部が真っ赤になっていた。


「う、うん。わかった」


 その後、結衣に治癒魔法をかけてもらうと、鼻血は一瞬で止まった。


 やっぱり自然治癒は魔法には勝てなかったか。改めてそう感じた俺でした。





「それで依頼者ってのはこの人のことか?」


 俺が視線を送る先には二十代前半と思われる女性。ただし、普通の若い女じゃない。


 メイドだ。

 ゴスロリのメイド服を着ている。


「よろしくお願いします」


 その女性はエプロンドレスを揺らしながら、行儀よくお辞儀をする。


「……お前は一体なんだ?」


 指定席のレザーチェアに座っている織城先輩からド直球な質問が投げられる。


「私はべティーナ・ダルデンヌ。エレナお嬢様専属の使用人をしております」


 メイド服の使用人。

 まさかこの世に実在するとは。正直、大人のビデオだけの世界だと思ってた。

 しかし、エレナってどっかで聞いたような気が……!


「……まさか王女様のメイドなのか?」


 こくりと頷くメイド。

 まじか。あの王女様に使用人なんているのかよ。いつも一人でいるから全く想像つかなかった。


「それで、ベルギー王国の次期王女の使用人が私たちに何か用か?」


 レーザーチェアの背もたれに身体をぐったりとさせながら訊ねる。態度悪いなこの人。

 でも可愛いから許す。


「もちろんあなた方に依頼をしに来ました」

「依頼だと?」


 織城先輩の問いにメイドは「はい」と返す。


「ちなみにどんな依頼なのでしょうか?」


 結衣が訊ねると、メイドは一つ咳払いをしたのち、話し始めた。


「私のお願いしたい依頼というのは、エレナお嬢様の護衛です」

「護衛……だと」

「えぇ」


 このメイドは一体何を言ってるんだ。

 一国の王の娘の護衛。それはお前らがすることだろ。なのにそれを人任せにする?

 そんなことをしているから王女様はあんな目に遭うんだ。

 そもそもこいつらは王女様が死にかけたことを知っているのか?


「期間はどのくらいだ?」

「そうですね……一か月くらいでしょうか」


 織城先輩の質問にメイドが答える。


「……わかった。その依頼を受けよう」

「ありがとうございます」


 そう言ってメイドは腰を深く折る。


「ちょっと待て」


 俺が声を上げると、三人の視線が一気にこっちに集中する。


「あんたに聞きたいんだが、何故俺たちに次期王女の護衛なんて依頼をする? 本来ならそれはそっちの仕事だろ?」

「申し訳ありません。それは諸事情によりお答えできません」


 頭を下げるメイド。

 このメイドは何でも謝れば済むと思っているのか。腹立たしい。


「蓮人。相手は国の王の娘なんだぞ。色々と訳があるのだろう。余余計ことはな聞くな」


 ロリっ子に怒られた。正しいことを言っているのは俺のはずなんだがな。


「時にメイド。お前は前金のことは知っているか?」

「織城先輩!」


 悪い笑みを浮かべる織城先輩に対し、結衣がやや怒り気味に彼女の名を呼んだ。


「今回こそだめですよ。お金は寄付するものです」

「結衣。私はメイドに聞いているのだ」


 それから織城先輩がメイドに視線を移すと、


「はい。お金の方は十分に用意させていただいています。ざっとこのくらいでしょうか?」


 メイドが立てた指は全部で七本ほど。


「七万か?」

「いえ、七千万です」


 空気が凍った。


 七千万。魔導武器が一体何個買えるんだ。下手したら、いや下手しなくても店ごと買い占められるくらいの額だ。


「ちょ、ちょっと待て」

「……もしかして足りなかったでしょうか。それなら――」

「ストップ! それ以上は言うな」


 織城先輩に手で制され、メイドは口を閉じる。たぶんこの先の言葉は学生の俺たちにはまだ早い。

 あと知ってしまう。一国の王様がどれだけ金を持っているかを。


「……七十万で結構だ」

「そんな額でよろしいのですか?」


 不思議そうに訊いてくるメイド。空気が読めない人だ。察しろよ。


「あぁ。それで我々は次期王女様の護衛を引き受けよう」

「わかりました。ありがとうございます」


 最後までつつましく振る舞うと、結衣の案内でメイドは部室から出ていった。





 メイドが退出して間もなく、俺も適当な理由をつけて部室を出た。


「まだ間に合うか?」


 長い廊下を駆けること数分。エプロンドレスの背中が見えてきた。


「おい! 待ってくれ!」


 俺の声に気づいたのか、メイドは足を止めくるりと身体を後ろに回す。


「なんですか?」


 息を切らして膝に手をついている俺に、メイドが質す。


 それに俺は一旦呼吸を整えた後、答えた。


「あんたに聞きたいことがあるんだ」

「聞きたいこと……ですか?」


 俺は首を縦に振った。


「あぁ。ちなみにあんた、本当に王女様の使用人なんだよな?」

「はいそうです。といっても証明できる物は何もありませんが。どうしても確かめたいのでしたら王女様に直接聞けばわかりますよ」

「いや、今の言葉で十分だ」


 ここまで言い切るんだ。きっと本物なんだろう。


「じゃあ本題に入るが、あんた王女様が襲われたことは知っているか?」

「えぇ。知っていますよ」

「っ!」


 こいつあっさりと言いやがった。

 だが、これが本当だとすると重大な問題があるぞ。


「なぜ王女様には護衛がいない。それとも護衛はいるがサボっているのか? どちらにしろそのせいで王女様は殺されかけたんだぞ!」


 憤怒すると、それに対してメイドは言い返すでもなく、怯むでもなく、呆れたように深く溜息をついた。


「……はぁ。うるさいですね。そもそもあなたには私に対してそんなことが言えるような資格はないはずですが」


 突然、メイドの雰囲気が変わった。

 先ほどまで品のあった彼女の姿はそこにはなく、どこか不気味な空気を纏わせている。


「……どういうことだ?」


 今しがたのメイドの言葉に問い返すと、彼女は冷淡な目つきで俺を見据える。


「……だって、あなたは悪魔使いなのでしょう?」


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