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魔導学校の悪魔使い  作者: ヒロ
第一章
11/42

『10』

『久しぶりじゃのうレミ』


 リリスが銀髪ロリに言った。


「そうですねリリス。百年ぶりくらいでしょうか」

『そうじゃのう。あの時は楽しかったのう』


 リリスが懐かしそうに遠くを眺める。いきなりどしたのこの子。


「お前、あの銀髪ロリと知り合いなのか?」

『そうじゃ。百年前あやつと殺し合いをした。まあ妾の圧勝じゃったがな』

「……そ、そうか」


 殺し合い=楽しかった。

 人間にはない感性だな。こいつと心を通わせるころができるのは世紀の殺人鬼くらいだ。


『時に我が主。妾はそろそろ殺したいのじゃが、いいじゃろうか?』

「わかってるよ。そう急かすな」


 そう言うと、リリスはムッと反抗的な目を向ける。ちょっと早めの反抗期に入った小学生みたいだな。


「あらリリス。それは私たちのことですか?」


 今しがたのリリスの言葉が引っ掛ったのか、若干苛ついた口調で訊ねる。


『もちろんそうじゃが。何か文句でも?』

「大アリですよ。なにせあなたが私を殺す前に私があなたを殺しますから」


 バチバチと二人の間に閃光のようなものが走る。

 二人とも殺しが大好きなのね。嫌なロリたちだ。


「ガッガッガ!! 面白れぇな!! まさか同じ悪魔使いとやれるとはよぉ!!」


 ロリ悪魔たちに煽られたのか、ビルドの方もやる気になってしまっている。

 困ったハゲゴリラさんだ。


「シェイル! 補助魔法を頼む!!」

「えぇクソゴリラ」


 ビルドの言葉にそう返すと、銀髪ロリは詠唱を始めた。っていうか、クソゴリラが普段の呼び方なのね。


「我が穢れの力を以て――」


 通常魔法を使う際の詠唱の第一節は『我が魔の力を以て』で始まるが、悪魔は違う。


『我が穢れの力を以て』


 これが悪魔の詠唱の第一節だ。理由は不明だが、悪魔の魔力は人とは根本的に異なっているからかもしれない、という説もある。


「我が契約者に、闇をも凌駕する速力を与え給え――《暗速(ダークアウト)》」


 唱えた瞬間、ビルドの足元に二つの小さな魔法陣。両方とも丁度足に収まるように設置されている。


「いくぜ!!」


 魔法陣が輝いた刹那、ビルドは思い切り地を蹴り出してこちらとの距離を詰める。その間わずか数コンマ。


「死ねぇ!」


 そう叫んだビルドは一回目の攻撃と同じように、大剣を振り下ろす。

 すると、それは俺の左腕を骨ごと切り落とした。


「んだよ。同じ悪魔使いと聞いて期待しちまったが、ただの雑魚か」


 大量の血を流しながら俯けで倒れている俺を眺めながらつまらなそうにするビルド。


「終わりましたね」

「あぁ。オレの圧勝だったぜ」

「……あなた一体何を言ってるのですか?」


 怪訝な表情を向ける銀髪ロリ。


「なにって……お前が何言ってんだよ」


 ビルドは困惑していると、ふとあることに気づく。


 目線がおかしいのだ。銀髪ロリは自分よりも遥かに身長が小さくて先ほどまでは見下ろしているはずなのに、今は彼女と同じ目線に変わっている。


「……まさか」


 恐る恐る足元に視線を移す。


 ……両足がなくなっていた。


「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」


 恐怖と痛みに支配された叫び、ビルドは狂乱していた。おそらく悪魔の力でどんな敵でも倒せた彼は、今までにこんな経験はなかったのだろう。


「ったく、うるさいゴリラだな」


 俺が声を上げた場所は最初にビルドが座っていた観客席。

 やられた方は魔力で作った身代わりだ。


「っ! てめぇ! 一体何しやがった!! オレの足を返しやがれ!!」


 悪魔の魔力がかかっているからか、もう死んでもいいくらい出血しているはずなのにまだまだ元気だ。健康なゴリラだな。


「そんなに怒鳴るなよ。お前の両足ならそこにあるだろ?」


 俺が示した先はビルドのすぐ隣、そこには両足が綺麗に立てられている。

 肌色の長靴みたいにも見えるし、一種のオブジェのようにも見える。我ながら良いセンスだ。


「チッ、シェイル! 頼む!」


 足のないゴリラは銀髪ロリを呼ぶ。


「私はいいですが、今日の分はもうありませんよ。代償は?」

「オレの命三年だ!!」

「……わかりました。いいでしょう」


 ビルドの言葉に一つ頷くと、銀髪ロリは詠唱に入る。


「我が穢れの力を以て、我が契約者に、闇の加護を与え給え――《闇癒(ダーク・ヒール)》」


 詠唱が終わると、ビルドの両足がモゴモゴと動き出す。そしてそれはビルドの切り口にピタリと合わさった瞬間、出血は止まりビルドの両足は元の状態に戻った。


「なるほど。これがさっき王女様に焼かれたときに使った魔法か」

『そうなようじゃのう』


 隣に座っているリリスも同じ見立てのようだ。


『じゃが、やつはもうあの魔法は使えんじゃろう』

「契約か?」


 訊ねると、リリスはパチンと指を鳴らす。


『大当たりじゃ』


 契約。それは悪魔との協調関係を結び、保つために絶対的に必要なことだ。

 そしてそれが致し方ない理由で守れない場合、契約者は代償を払わなくてはならない。


 例えば、悪魔と三か月限定の契約を交わしたのにも関わらず、契約の延長をしたいと契約者が願い出たとき、契約者は契約違反の代償――この場合、契約者の寿命半年分くらいを払う必要がある。


 そして今のビルドもこれと同様だ。


 おそらく銀髪ロリの治癒魔法には回数制限があったのだろう。しかし、それを超えてしまったのでビルドは自らの寿命を削って悪魔の治癒魔法を使用したのだ。


「このクソガキ! よくもやってくれたな!」

「そんなに怒んなよ。くっついたんだからいいじゃん」

「そのせいでオレの寿命減っちまったじゃねぇか!」


 ビルドの足元にさっきと同じ魔法陣が出現。

 いつの間にか銀髪ロリが詠唱を唱えていたようだ。


「クソガキ! ぜってぇ殺す!!」


 どうやらまた俺との距離を詰めて近接戦に持ち込もうとしているよう。


『学ばぬやつじゃのう』


 リリスは呆れるように溜息をつく。


「リリス。もう一度頼む」

『わかっておるよ。我が主』


 そう返すとリリスは詠唱を唱えだす。


『我が穢れを以て、我が主へ、血の華を咲かせる(つるぎ)を与えよ――《殺華剣(カラドボルグ)》』


 唱え終えた瞬間、俺の目前に一本の剣が現れる。

 それは剣先から柄まで黒で統一され、長さは身長の半分ほど。

 スタンダートな片手剣だ。


「殺すぞクソガキ!!」


 ビルドが地面を蹴りだすと、一回目と同様瞬時に俺の目の前に着く。


「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 猛獣の咆哮のような叫びを上げる。

 しかし、彼はまた気づいていないのだ。


「……あれ?」


 目線が俺と合っていないこと、剣が振り下ろせないこと、

 そして、胴体がもうなくなっていること。


「……な……なぜだ……」


 そう言い残し頭部だけになったそれは息絶えた。


『あーあ。今回もつまらなかったのう』


 リリスがあくび混じりに言った。


「あのな人を殺すことに面白いとかつまらないとかないんだよ」

『それは人間の考えじゃろう。妾にはあるのじゃよ』

「そうかよ。悪魔の考えることは本当によく分からないな」

『レディーには秘密が多いのじゃよ』


 片目をウインクして見せるリリス。ロリっ子がそういうことをしないで欲しい。可愛いから。


「で、あの悪魔はどこ行ったんだ?」


 辺りを見回すが銀髪ロリの姿が見えない。


『おそらく逃げたのじゃろう。あやつは負けが濃厚になるとすぐに逃げる癖があるからのう』

「そうなのか」


 もったいない。あのロリとも契約してやろうかと思ったのに。


『言っておくが我が主。二人の悪魔と契約するのはやめておいた方がいいぞ』


 突然のリリスからの忠告。

 どうやら俺の考えは見透かされていたようだ。


「なんでだよ。別に契約違反じゃないだろ?」

『それはそうじゃが妾は許さん。我が主の契約者は妾のみで十分じゃ。もし我が主が他の悪魔と契約しようものなら妾はそやつを殺すぞ』


 赤い眼をギラギラと光らせて怒りをあらわにする。そんなに他の悪魔が増えるのが嫌なのか。


「はいはいわかったよ。俺の悪魔はリリスだけだ」

『うむ。それでよろしい』


 こくこくと何回も頷くリリス。

 どうやらご機嫌になってくれたようだ


「そういやあいつのこと忘れてたな」


 観客席から飛び降りると、俺は倒れている王女様の元へ向かう。


「……まだ死んではいないみたいだな」

『じゃがこのまま放っておくと確実に死ぬぞ』


 リリスの言った通りだ。出血が多く、このままだと失血死で百パーセント王女様は死ぬ。


『まあこれも運命じゃな。一国の王の娘というのに護衛の一つもつけてないこやつのせいじゃ』


 確かに。なぜ彼女にはボディーガードがいないんだ。


『我が主。ここはもう離れた方がよいぞ。じゃのうとこんなところ誰かに見つかったら、我が主が殺人の疑いをかけられてしまうからのう』


 リリスは悪魔らしい冷徹なセリフを言うと、スタスタと出口へと向かう。


「なあリリス」

『なんじゃ? 我が主』

「お前、さっきの銀髪ロリが使っていた治癒魔法使えるか?」


 そう訊ねると急に空気が変わった。


『……我が主。まさか妾との契約を忘れたわけではあるまいな?』

「忘れてねぇよ。リリスの魔法は俺以外には使わないんだろ?」

『そうじゃ。妾は我が主のためなら何でもしよう。……じゃがそれ以外のために妾の魔法は絶対に使わぬぞ。例えば、我が主がそこの女を助けろと命令したとしても』


 悪魔との契約は絶対だ。これを破るとビルドのように自分の命を引き渡すことになる。

 しかし逆に言えば、それは自分の身を削れば契約をしていないことも出来るということだ。


「五年だ」


 それだけ呟いた。だが悪魔の彼女ならこれだけで理解できるはずだ。


『……我が主。それは本気で言っておるのか?』

「あぁ。俺の命五年でこいつを救ってやってくれ」


 そう言うと、リリスは深く嘆息する。


『わからんのう。なぜ我が主はそこまでしてこの女を助けたがるのじゃ? やはり一国の王女だからか?』

「そういうわけじゃねぇよ。……ただ俺はもう人が死ぬところを見たくないだけだ」


 今さっき人を殺した奴が言うことじゃないのはわかっている。

 だが救える命、救ってもいい命はなるべく生かしてやりたい。


『……わかった。我が主の願いを叶えてやろう』


 了承すると、リリスは王女の傍まで近寄る。


『我が穢れの力を以て、愚かな王の娘に、闇の加護を与え給え――《闇癒(ダーク・ヒール)》』


 リリスが詠唱を終えると、王女の傷は見る見る回復していき、わずか数秒で全身が元に戻った。


『クソ女が』


 リリスはまだ気を失っている王女様を睨みつける。


「おいおい王女相手にそんなこと言うなよ。……でもありがとな」

『勘違いするでない。我が主は代償を支払い、妾はその分の仕事をしたまでじゃ』


 プイっとそっぽを向くリリス。

 すっかり不機嫌になってしまったな。


『妾はもう疲れたのじゃ。暫く休ませてもらうぞ』


 急にそんなことを言いだすと、リリスの身体は次第に薄くなり、数秒で消失した。


 悪魔は人間と契約をすると、その人間の深層心理に入り込み、そこに住み着くらしい。

 おそらく消えたリリスは俺のそこに移動したのだろう。


「……帰るか」


 そう呟くと俺は一人ドームを後にした。


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