61 地下通路③
バスを地下通路の開閉部近くまで移動させると、中央から左右に分かれて扉が開いた。
確かに入り口はぽっかり開いた穴だけど、なだらかな道が遠くまで続いているのがよく見える。
地下なのに、めっちゃ明るい!
領民たちもおっかなびっくりした様子で、それでも興味津々といった感じで覗き込んでいる。
「お、お嬢……いったい……いや、そうでした……いや、でも……穴の中があんなに明るいなんて‼︎ えぇぇ‼︎」
ふっふっふっ。
アルフレッドですらまともに言葉にできないくらい驚いている。
気分がいいね。
みんな煌々と照らされている通路に夢中になっているけれど、私たちはそこを走らなきゃいけないんだから。
運転席から顔を出して注意する。
「みんな! どいてなさいよ!」
ブッブーとクラクションを鳴らすと、領民たちが蜘蛛の子を散らすようにら離れて行った。
あ。ちょっと音が大きかった?
「じゃあね!」
バスがトンネルに入って行くと、またぞろ領民たちが覗き込んでいる。
え? いったん扉を閉めるって言ったよね? 挟まれたりしないでよ?
なだらかなスロープを降りて進んで行くと、扉が閉じていく。
近づき過ぎていた数人が、あたふたとよろけるように退けている。
ま。これで分かったよね。
時速を六十キロに上げて走行する――直線なのでいつの間にか八十キロまで上がっていたけど。
「メイスン。今回のミッションをおさらいしましょう」
「みっしょ? え?」
「あー。ええと、あなたがゲルツ伯爵領でやることのおさらいよ」
「あ、はい」
大丈夫か?
「ねえ。別に難しいことじゃないんだから、普通にしていてよ?」
「あ、はい」
「……まあいいわ。馴染みの場所に行けば緊張も解けるだろうから。あなたは、行商をしていてどうも今年は不作になりそうで、既に野菜が不足していることを知った。たまたま立ち寄った辺境の開拓村で野菜を入手したので、故郷に戻ってきた、という筋書きね」
「はい」
うなずいているけど、大丈夫かなぁ?
「ゲルツ伯爵領近くの出口付近には地下に部屋を作ってあるの。まずはそこで幌馬車に変形させるから、今日売る分だけの野菜を積んで、領内に潜入するわよ。領内に入ったら、二、三日商売ができそうな場所を探してね。場所が決まったら、あなたは野菜を売りながら、領内の様子を探ってちょうだい。私は私の仕事をやるから」
「え? あの……シャーロッテ様は通行証をお持ちじゃないですよね? というか、領主様が他の領主様を尋ねる時は、事前にそれなりのやり取りをなさるのでは?」
普通はね。
「そんなのやるつもりはないわ。だから私は荷物に紛れて入り込むつもりよ」
「えぇっ! みっ、みっ」
「そう。密行。不審がられないよう、あなたは普通にしていなさいよ」
「ひっ。あ、はい」
大丈夫か?
◇◇◇ ◇◇◇
ゲルツ伯爵領側の出入り口はすぐに分かった。
ずーっと同じ無機質な景色だったのが、管理人室を作ったお陰でデザインが変わっているのだ。
これはものすごく分かりやすい。
……あ。うちの領地側もトンネル内部の色だけでも変えてもらおう。
「メイスン。着いたわ。バスを横付けするから、あなたは荷物を下ろしてね」
「は、はい」
最初にスクーターをおろしてもらう。
バスは変形させて今日明日明後日はゲルツ伯爵領に停めることになるから、これが私の帰りの足になる。
「まずは半分をこの部屋に移して。明日売る分ね」
「はい」
メイスンが作業している横で、私は部屋の中のデスクに設置されたモニターを確認する。
おぉぉぉ!
コンビニのバックヤードにあったようなやつだ。
四分割になっているのは、東西南北が映っているのかな? どれも似たような殺風景だ。
相変わらず人通りはないね。
これならいつ出ても大丈夫そう。
「ひぃぃぃ!」
うん?
あー、メイスン、今気がついたんだ。ずっと反対側の棚とバスを往復していたもんね。
モニターってこの世界にはないから理解が追いつかないよね。
材質もそうだし、薄い板に風景が映っていること自体、お口あんぐりになるのも分かる。
「メイスン。これは私のとっておきの魔法だから、怖かったら見ないでいいのよ」
「あっ、はっ、はっ」
「もう返事はいいから作業を続けてちょうだい」
「はっ、はっ、はっ」
シッシッと手で追い払うとメイスンは背を向けてビュンと外に出た。
そんなに怖いか、これ?
「はい」って言えないほど?
メイスンが明日の在庫を移動している間暇なので、ゲルツ伯爵領に侵入する際の服装を考えることにした。
今の私は腐っても領主様。
木綿のシンプルなワンピースを着ているとはいえ、行商人の連れにしては少々綺麗過ぎる。
「どうしよっかな」
さすがに眼鏡とマスクで変装する訳にはいかない。
シャーロッテ自慢の赤髪は目立つからなぁ。
長い髪をキャップで隠して少年を装うとか?
……あー、ヘアマニキュアできないかなぁ。
二、三週間で元に戻っていいから。
マンションに美容院併設ってあったりする?
コンビニはあるけどね……え? コンビニ関連も私の魔法の範囲内……?
いやいや。待て待て。思考がとっちらかってるよ。
とりあえず目の前のことに集中。
平民に偽装するために、よくある茶髪になったところを想像してみよう。
それから交渉だな。
ほら出番だぞっ。目を瞑らなくても出て来れるんだよね!
ぽすっ。
「あっ。お前、なんか簡略化して出て来てない? 慣れた感じが腹立つ……」
無言で私を見上げている小人は、外面だけは無垢で可愛らしい子ども――に見える。
はぁ。
「私のこの真っ赤な髪だけど、一時的に茶色にしてほしいの。そういうのもできる?」
「……さぁ?」
「さぁ? さぁ? 『さぁ』って何?」
「……」
「え? だんまりなの? 困ったらだんまりなの?!」
マンションに絡めてないから駄目なの?
だいたい、なんでマンションに関連する縛りがあるの?
「最初にそう望まれたからです」
……ん?
どゆこと?
私が望んだから? 私のせい?
いや、違ぁーーうっ‼︎
女神のせいじゃん‼︎
私は、『建築』とか限定していないし。聞いただけだし。マンション縛りなんて提案していないし‼︎
『マンション』って言ったのも女神の方だったはず!
ちっきしょー‼︎
「ちょっと、アンタ! 女神からなんて言われてるの?」
「……」
「まただんまり? こっ、このっ――」
「望まれるのならば、できるかもしれません」
は? どういう意味?
私が、限定条件をなくして、望めばなんでもできるようにしてって女神に依頼したら、できるようになるの?
私が『この世界を白とピンクで塗りつぶせ!』って言ったらそうなるの?
絶対に言わないけれど。
オッケー。オッケー。
いったん落ち着こうか。
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