外伝16‐8話 姫神子、炎泥に消えゆ
ラソン「でりゃあっ」
アルマ「ふんっ」
フランネル「どぅりあぁぁっ!」
リズリット「グ、アァァ……」
岩場の周囲では溶岩から火花が弾けている。
少しずつ崩れているようにも見える足場。長期戦は避けたほうがいいい。一行は力を合わせてフランネルを援護した。
真正面から拳を突き出す漢の炎が徐々に効くようになっている。青い炎の力が徐々に増している気がした。敵のマナを散らし、強化を無力化しているようだ。
リジェネ「敵の力が弱まってきているような……」
リーヴェ「浄化の力が発揮され始めてるんだ」
少しずつだが確かに効果が表れている。
敵も本能的に桜色の炎を用い傷を癒しているが、減少したマナの力=MP最大値まではどうにもできない。それ所か技や魔法を行使するのに影響が出始めていた。
この土壇場でフランネルの技が新たな力を得たという事か。いや、この状況だからこそ身についた力かもしれない。
フランネル「絶対助ける! 魂の覚醒拳っ」
アナ「アサルトアロー」
何度も放ち続け、ついにものにした技。青炎の拳を敵に叩きつける派生スキルだ。
アナと息の合った連撃を繰り出す。一行も加勢しているが、今回ばかりは2人の気迫が凄まじい。おかげで奥義を使えるまでに気力が高まった。
対する敵の様子も限界が近い。……というか痛々しさが増している。
フランネル「これ以上は限界だ。これで決める!」
アナ「うん、まずは僕から行くね」
アナが集中力を極限まで高めて奥義を放つ。
アナ「ホロスコープ!」
奥義発動と同時に周囲が暗転。戦場一帯が特殊な天体空間と化す。
ホログラムかの如く透けた星々が辺り一面で煌めく。その流れや配置、光の強さなどを即座に確かめここに啓示が下される。
アナ「今日の運勢は暁星。暗闇の中にあっても光の道が見えるでしょう」
ひと際強く光り輝いた星。暁の如きその輝きが敵全体を容赦なく貫く。
彼の奥義は特殊で、4つある効果の内ランダムで1つが発動するものだ。暁星は敵全体に光耐性無視のダメージを与える。むろん光属性だ。
フランネル「俺様も行くぜ。 爆熱・鳳凰滅殺撃!!」
敵に急接近し鳳凰の如く舞う。拳や蹴りから放たれる炎が周囲にも広がる。
怒涛の勢いで5連撃を繰り出し、炎で鮮やか且つ派手な軌跡を描いて敵を塵へと返す。
いや、今回は塵に帰したりはしないが下手な手加減はしない。確実に力を削がねばこちらが危ないのだ。だから心を鬼にして最後の一撃にも全力を尽くした。
リズリット「グアァァァッ」
フランネル「はぁ、はぁ……親父っ」
強敵「狂暴に呑まれし姫神子」との戦いに勝利。
フランネルはその場に倒れ伏した男に駆け寄る。未だ獣のままの身体に恐れず触れた。その瞬間、フランネルの手から溢れんばかりの青炎が燃え上がる。
己の内に宿るマナが、炎が何かを訴えかけてくるようだ。
アナ「ラル、祈りを込めて。今の君にならできる」
フランネル「けど、俺には祈りなんてわかんねえよ」
アナは力強く首を振った。
アナ「そんな事ない。今思っている気持ち全部を乗せればいいんだから」
フランネル「今思ってる事……」
アナ「うん。リズリットさんに向けた……それが祈りさ」
フランネル「この思いが、か」
今思っている事。それは助けたいという気持ち。
傷つけたくなかった、戦いたくなかった。必ずもとに戻ってくれると信じて。いや、戻すと決めていたんだ。
いつもの優しいこの人の所に帰りたかったから――。
素直に、純粋にそう心に思った時。燃え上がった炎の質が変わった。
美しい青の中に神秘的な輝きが揺らめく。ちょっと荒々しいけど優しい温かさだ。
一口に浄化の炎と言っても個々で感じが違うらしい。優しい感じはそっくりだが、リズリットのような儚さは感じられなかった。
青い炎が獣化した身体を包み込む。此処にあった不浄をすべて取り込んだ身体を浄化していく。
フランネル「よし、これで――っ!?」
いやな気配が消え、姿が戻りつつあるのを見て安堵したのもつかの間。今度は岩場が大きく揺れ動いた。崩壊が加速したのだ。足場がみるみると崩れて溶けていく。
リーヴェ「不味い。このままでは溶岩の海に呑まれるぞ」
アルマ「フラムを呼ぶ。皆乗って!」
即座に赤龍を召喚して皆をその背に誘う。次々と仲間達が龍の背に乗りこんで行き残るは3人。
フランネルがリズリット抱え、龍のもとに向かおうとした瞬間に更に激しい揺れが起きた。揺れに応じて岩場に大きな亀裂が走る。
思わず足を止めて態勢を崩さぬよう踏ん張った。だが、抱えた人の重みで大きく身体が傾ぐ。
ラソン「フランネルッ!!」
セレーネ「ちょっと。見て岩場が……」
リーヴェ「急げ。手を伸ばすんだ」
ひと際大きな亀裂が両者の間を分断。フランネルとリズリットがいる場所が支えを失ったかの如く沈み始める。
裂け目の向こうからリーヴェが手を伸ばす。空を飛んで助けに行きたいが、先程から溶岩が逆巻き、炎が爆ぜて危険過ぎる。たどり着く前に墜落しそうだ。
この状況で飛んでいられるのは火炎に強い赤龍だけだろう。白龍もフラムの背に避難している。
フランネル「くっ、足場が揺れて進めねえ」
フランネル(不味いぜ、マジでヤベェ。さすがの俺様でも溶岩の風呂は勘弁だ)
いくらなんでも入ったら命がない。でもソレはすぐそこまで迫っていた。
今も尚揺れ続ける岩場。その下でぐつぐつと煮え滾る溶岩。今にもすべてが崩れ去りそうで一刻の猶予もない状況だ。それでも抱えた人を手放しはしない。
こうなったらともに死ぬ覚悟をするまで。見捨てられないならそれしかなかった。
リズリット「いけ、ません」
フランネル「はっ……親父!?」
微かな声を聞き振り向くと同時に、身体が離れ突き飛ばされる。
軽くて速度のある緑色の炎が彼をリーヴェ達のもとに送り届けた。これは風のマナを宿した炎だ。飛行するための翼に用いる力でもある。
リーヴェは飛んできた身体を受け止め、ともに緑炎で赤龍の背に乗せられた。
直後、岩場全体が完全に崩れる。投げ出されるリズリットの身体。
さすがに限界だと感じ上昇を始める龍。助けに行ける余裕はとてもじゃないがない。
投げ出される瞬間、リーヴェとフランネルは見た。穏やかに微笑むあの人の顔を……。
フランネル「親父――ッ!!」
空しく手を伸ばし叫ぶ。
遠のいていく彼の人の姿。溶岩に触れ、燃えて見えなくなる身体。
火斑の姫神子は炎に呑まれて消えた。浄化できても助ける事叶わず、ただただ悲痛な叫びが木霊する。
無事に火口の入り口まで生還した一行。
水の結界があるため、煙も熱もどうという事はない。
だが、心に受けた傷は癒える所を知らなかった。そこに立ち尽くしたまま動けない者達。フランネルは四つん這いになり火口の下を覗いたまま涙を流していた。
アナ「こんな事って……」
アナ(僕があんな言葉を口にしたから)
己の言霊を呪いたい気持ちだ。
こんな悲しい勘なんて当たって欲しくなかった。
悲痛に叫ぶ友を前にして胸が痛む。なんと声をかけたらいいかわからない。思いつかないのである。
???「――ッ!!」
悲しみに暮れる彼らの耳に鳥の鳴き声が届く。
突然の事に顔を上げる面々は次の瞬間に揃って目を見開いた。火口から火の手とともに何かが飛翔してきたからだ。
斑模様を描いて燃ゆる翼を広げ、七色に輝く長い尾をたなびかせて飛ぶその姿。
それはまさしく鳳凰だった。巨鳥という程ではないが、それでも十分大きな体躯。現れた鳥の瞳は紅色と橙色のオッドアイである。
フランネル「ま、さか……親父なのか?」
鳳凰「…………」
鳥は頷くように長い首を動かし、そっと頭をフランネルの顔にすり寄せた。頬を優しく撫でてからまっすぐと瞳を見つめる。
漢の脳裏にはこの時、とても懐かしい声が響いていた。間違いない。この鳥は――。
そう感じた時にまた涙が溢れる。もう一度鳴いて飛び去っていくその姿を、涙で歪む視界の中で静かに見送った。
そうしている内に一行の身体もゆっくりと引き戻されていく。
もう彼らの姿はこの世界の住人には見えない。ただ今度のは少しだけ感覚が違った。空中に浮遊した感覚のまま戻る気配がなかったのだ。
怪訝に思っている内に眼下の時間が流れる。ボルキア火山の上空に滞在したままソレを目の当たりにしていた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
あれから数年後。フランネルは1人ボルキア火山を訪れる。
あの心苦しい一件で彼は親友であり戦友を得た。そして今凛々しく立つその姿。服装はかつての一張羅ではなく、一行が知るものとそう変わりない衣装だ。
フランネル「来たぜ、親父」
誰もいない火口が覗ける岩場。それでも変わらず声を投じた。
脳裏に、胸の内に様々な事が過っていく。あの後もいろいろとあったのだ。
喧嘩は止めて、散々逃げ回っていた指導を受けた。大事なもんを守れる男になりたくて。フランネルの中でそれは身近にいた精霊王だ。そして大切な人に誇れる男となるために……。
おかげでランパードにはちょっとしたトラウマができてしまったけど。
フランネル「親父……俺、精霊王になったんだぜ。やっとな」
当然ながら返事が返ってくる筈がない。
でも何処かで聞いていると信じて話し続ける。とても穏やかで、切なげな顔で。
いつもは元気で激しい彼も、この時だけは静かだった。それにも理由がある。
フランネル「先日、叔母ちゃんが逝ったよ」
フランネルが精霊王となった数日後に彼女は旅立った。
何度も試練を受けてギリギリの所で王の座を見事もぎ取ったのだ。満足げにこの世を去った叔母に思いを馳せる。最近までいろいろとごたついていたなぁ、と思う。
ランパードから「今後も抜き打ちで様子を見にくる」と言われた時は正直寒気を覚えたが……。その時は「マジ冗談じゃないぞ」と思ったものだ。
問題児と呼んだ事はずっと前に謝ってくれてたけど、やっぱりあの人は苦手だ。
フランネル(けど。まあ、なんとかやってみるさ)
フランネル「んっ!?」
唐突に羽音が聞こえた気がして上を見上げる。
すると、空より1羽の鳳凰が飛来した。斑に燃え光る翼を広げて岩場の上に降り立つ姿は美しい。七色に輝く長い尾羽を優雅に垂らし、溶岩や火花に触れても一切焦げる事のないその身体を綺麗に整える。
乱れを正した鳥の長い首がすっと伸びた。オッドアイの瞳がフランネルを見据える。
リズリット「…………」
フランネル「親父、俺……」
静かにこちらを見つめる火斑の鳳凰。
堪らなくなって声を上げるがうまく言葉に出せない。いざ本人を前にすると、感極まって思うように伝えられなくなってしまった。
何度も伝えようと試みるが、声が震えるばかりでまともな言葉にならない。俺、俺と同じ言葉を繰り返す。
リズリット「――ッ」
ふっと鳳凰が高く鳴いた。ばさりと翼を広げ、不思議な光が立ち昇る。
それは光にも似た不思議な炎だった。翼を彩る虹色の炎。それがフランネルのもとまで飛んでいき、全身を優しく包み込む。
ほんの僅かな間の出来事だ。全身を包んだ炎はすぅーっと体内に吸い込まれ、代わりに服で隠れた右の腕が光り出す。
まくってみると鳳凰をイメージした模様が刻まれていた。
肩から手首の辺りまである大きなものだ。そして光を放つ模様もまた肌に溶け込んで見えなくなる。でも、不思議と力を感じた。
この瞬間、フランネルの奥義に新たな力が備わったのである。
一部始終を見届けた鳥が飛び立つ。旋回するように上昇していき、チラッと下を覗いてから飛び去っていく。
飛び去る鳥の背に、天に向けて右の拳を力強く突き出して誓う。
フランネル「ありがとう。この力、大事にするぜ」
フランネル(そして誓う。俺様は大切なもんを守れる立派な男になってみせる!)
まだまだ精霊王になったばかり。始まったばかりだ。
漢ではなく、男の花道はこの後も色鮮やかに続いていく。
どうか見ていてくれ。漢改め、男・フランネルの大胆且つ華やかな生きざまを!!
また新たな物語を見終わった。
これにより具現化リストにフランネルとアナが追加された。
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