外伝16‐4話 小さな亀裂
向かい来る敵をなぎ倒し、残り1体まで追い詰めると第2陣が増援として現れる。倒し切れない状況での敵の補充。否応なしに戦闘は継続だ。
追加された敵数は7体。もとからいた1体を含め数が増えた。今度はアーススピリッツが5体と比率が逆だ。
しかし、今回のように敵が途切れない戦いはフランネルにとって有利である。次の波が来るまでの間隔が開かないので付与されたバフが継続するからだ。
フランネル「フハハハッ! 上がってきたぜ」
気分がどんどん高揚していく。興奮が収まらない。
敵を倒せば倒す程、攻撃を受ければ受ける程に調子があがる。超絶に楽しい。最初は物足りないとさえ感じていたがやっぱり喧嘩は大好きだ。
とりあえずスキル「クロスレイズ」で仲間にチェインを付与しておく。そうする事で、パッシブスキルの「クロッシング」が発動し追撃を行える。
射程の制限はあるが連携状態になれない彼らには貴重な戦力だ。追撃によって敵を倒す時もある。敵を倒せればフランネルの能力が上がった。
そして、リンクを付与された彼が強化されていけばアナも調子を上げていく。リンク先の仲間が多ければ、それだけ強化のペースも早い。
2人の能力や技は、初めからそう作られたようによく噛み合っていた。敵を倒し強化する、仲間が強くなり引っ張られる。連鎖的な強化の流れ。
みるみるうちに能力差が開いていき無双状態となった。
アルマ「末恐ろしい子達だ」
フランネル「爆炎弾! おらおら次だ。次ッ」
中距離から得意技を連発する。必ず正面から打ち合う。
アナ「ラルはバカ正直だね……っと」
フランネル「てっめぇ、また死角からなんて卑怯だぞ」
アナ「卑怯じゃない。これも戦術だよ」
それに弓使いのアナには狙い撃ちは必要な技術だ。
テキトーな軽口も体よく流し、2人は互いに息の合った動きを存分に見せつけた。ただ弱点があるとすれば……。
フランネル「ヤベェ、そろそろ体力が……」
リーヴェ「ヒール!」
フランネル「うおっ。急に身体の怪我が治ったぞ」
リーヴェ「大丈夫か?」
フランネル「お前のおかげか。助かったぜ、あんがとな」
リーヴェ(2人とも乱闘に強い。だが、目が離せないな)
2人とも治癒系の力をまったく持っていない事だろうか。彼らの様子には注意しないと。
気力を漲らせ、MPを回復させる術は持っているのに受けた傷を癒せない。それなのにガンガン前へ突っ込んでいく。特にフランネルのほうは自分が怪我するのも一興くらいに思っていた。
だが、別に彼とてただ突撃するだけではない。背後を狙うのは嫌だが、普通に遠距離攻撃や範囲攻撃は利用する。得意技だって中距離に対応できるものだ。
アナ「こっちもヤバいかも……」
リーヴェ「詠唱が間に合わない。アルマさん!」
アルマ「任された。サモン・カーバンクル」
魔法陣の中から小さな獣が出現。召喚魔法である。
アルマ「頼むぞ、ニケ」
ニケ「キュキュイッ」
元気よく戦場を駆け抜け、素早い動きで敵の隙間を掻い潜っていく。最優先されるのは体力の低い味方。すなわち傷を多く受けている者達だ。
現状で中傷以上のダメージを負っているのはアナだけ。ニケはまっすぐ彼のもとに向かう。迅速に駆けつけHPを中回復。独自の判断で動く召喚獣らも心強い仲間だ。
フランネル(ふーん……コイツら思ったよりも強ぇ。珍しい力を使う奴もいる)
自分達によく似た生物を連れている2人。
特殊な獣を呼び出す魔法と、毛色の違う感じを受ける魔法。龍を操って戦う奴もいる。あの動きの感じだと普段はもっと違う戦いをしそうだ。どうも町中なのを気にしてるみたいだな。
自身も拳を振るいながら的確に味方戦力の分析を行う。足を引っ張るようならとも思ったが心配いらなそうだ。
フランネル「よし、思いっきりやるか。アナ援護しろ!」
アナ「OK任せて」
多少放置しても問題ないと判断し、フランネルは一気に敵陣へ突っ込む。
その後を弓を構えたアナも追う。両者は一定の距離を測りつつ敵陣営を内部から破壊にかかった。敵のど真ん中で派手に暴れて陣形を崩す。
喧嘩番長お得意の戦法である。一番気に入っている派手で痛快な一手。
敵がわんさかいる中に単身で乗りこむのは実に楽しい。今回はアナも一緒だが、それはコイツならついてこられるからだと知っているからだ。並みの奴ならこうはいかねえ。
フランネル(これでもちったぁ信頼してんだぜ)
フランネル「アナッ」
アナ「うん。鏡跳光線」
光のマナを結集させ生み出した鏡。それを周囲に散りばめ、放った細い光線を無数に跳弾させて範囲内の敵を攻撃。
光属性のひし形の中範囲であり、基本的には中距離で放つ技だ。
フランネル(くぅ~。相変わらず超かっちょいいぜ!)
コイツのネーミングセンスには大いに刺激を受ける。凄く参考になるぜ。
そして弓矢の攻撃で包囲され動きが鈍った敵。今、この瞬間が狙い目だ。現在もてる全火力をこの一撃に叩きこむ。
フランネル「蒼空焔撃破!!」
魔物「――――ッ!?」
清浄なる青き炎を全身に纏い、中距離から一気に加速して敵を焼き貫く。
威力が高く、アンデットに対して特攻をもつ破邪の力。浄化の炎。親父から指導を受けて練習を続けている技だ。
フランネル「……しゃあっ、上手くいったぜ」
一行「えっ?」
上手い事技が発動し、命中までしたのに対してガッツポーズをとる漢。
まるで初めて成功したと言わんばかりの反応に周囲が唖然とした。そんなまさかな……。冗談だと思いたい。
一瞬硬直した場の空気にアナの緊迫した声が飛ぶ。敵はまだいるのだ。皆がハッと我に返って意識を切り替える。
それにしてもあの青い炎。何処かで見たな、と一行は思う。
ラソン(まさかアイツまで使えたなんてな)
セレーネ(意外だわ。でも、だとしたらあの時……)
珍しい炎じゃないのかよとラソンは感じた。一番縁遠そうな奴が使えるなんてとも。
セレーネは戦いながら思う。確か、彼が触った後だったようなと。こんな偶然があるのか、それとも偶然ではなかったのか。
ともに戦う機会は幾らかあった。だけど彼が青い炎を扱うのを見たのは初めてだ。今までまったく知らなかったのである。
魔物「グルルルッ」
ラソン「くそっ、また増えた」
セレーネ「ウゲェー最悪」
順調に敵を倒していたが、またしても残る1体で増援が現れた。
今度のはかなり多い。増援だけで軽く10体はいるか。一度に増え過ぎだろう。見た所では連中が最後っぽいがこれはかなり苦しいぞ。
フランネル「おぉ、スッゲェ数。燃えてきたぜ!」
セレーネ「うっわまだ元気……っていうか熱すぎっ」
アナ「さすがにちょっと多いかな」
フランネル「なら数増やすか。鎧の姉ちゃんの魔法でなんとかならん?」
アルマ「マナを使い過ぎた。できて後2体が限界だ」
マナもそうだろうが、精神力や集中力のほうも限界か。フランネルは相手の言葉と様子から見て判断する。やはりこの場は「俺様が頑張るしかねえ」と彼は思う。
なかなかの苦境にフランネルの全身は、魂は熱く燃え盛った。この疲労感と興奮が混ざり合った感覚は悪くない。
フランネル「クロスアウト」
ふぅーと息を吐くように味方に付与した特殊バフを解除する。アナ以外のチェインを解いた恩恵で僅かにMPが回復。分散させていたマナが返ってきた感じだ。
これでまだ戦える。そう確信して敵に向かっていく。
アナ「僕も。‐光のマナよ。我が心を写し取り……」
一歩引いた所で詠唱体勢に入ったアナ。
彼の呪文に応じて周囲を漂う光のマナが反応し合う。
アナ「……移りゆく奇跡をここにもたらせ‐ ルーメン・スピリチュア」
綿毛羊たち「メェ~。メ~ルメルメェ~」
アルマ「あらヤダ、可愛い」
ラソン「アルマさん……」
光のマナが小さな生物の姿を形どる。
綿毛のようなまん丸い羊が5頭、仲良く隊列を組んでいた。この子達は5体で1組の存在だ。愛らしく特徴的な鳴き声で鳴き、個々の大きさは手の平に乗るくらいしかない。
浮遊できそうなくらい軽そうに見えるのに地上を跳ねて移動している。つかず離れずに5頭仲良く駆け回っていた。
アナ「あっちゃ~、そう来たか。なかなか都合よくはいかないなぁ」
本当はあっちがよかったのにな、とアナは思う。
実はこの「ルーメン・スピリチュア」という魔法。
これには他に2つの姿に変わる特性があった。発動時にランダムで選出され、それぞれ違った効果を発揮するのだ。むろん効果は表れた存在がいる間だけ。
そして、この綿毛羊のもつ効果は光属性の攻撃の威力がアップする。
アナ(うん。いい感じに光のマナが活性化してるね)
肌に触れる感覚で直感的に感じた。
周囲を漂っている光のマナが力を増してある種の特殊空間を形成している。通常よりも強い力を引き出せる光の領域といった具合に――。
アナ「まあいっか。皆、今なら光の力がパワーアップするよ!」
リーヴェ「この感覚、やっぱりそうか」
リジェネ「それなら……」
光属性の攻撃を中心に繰り出し、少しでも短縮して倒す。
ひとつひとつの威力が上がっているなら魔法や技をある程度節約できそうだ。連発し過ぎるとあっという間にマナが尽きるからな。
幸い今回の魔物は光属性に対して特別強くも弱くもない。イケるぞ、これは。リーヴェは疲れてきた仲間達を先導して魔法を放つ。
リーヴェ「エルメキア・ランス」
リジェネ「光翼槍」
ラソン「へんっ、オレ達も負けてらんねーぜ」
セレーネ「うん」
アルマ「同感だ。行くぞ!」
一番やり辛そうなアルマでさえ果敢に攻める。そこは歴戦の猛者といった所だ。
意外とサポート能力のある助っ人に助けられながら戦う。個々の強さは大した事がない魔物だったので、時間さえかければ問題のない敵だった。
程なくして無事に勝利を収める一行。改めて話そうと対面した時だ。
フランネル「おっしゃぁ! 大勝利だぜ」
アナ「大勝利だ、じゃないよ。さっきのアレは何っ」
一気に詰め寄り、声を荒げて激しく責め立てる。
突然何を言い出すのだろうと腑に落ちない顔をするフランネル。せっかくの気分が台無しだと言わんばかりに口を尖らせた。
フランネル「んだよ。何の話だ?」
アナ「決まってるじゃん。蒼空焔撃破の時さ、あそこは普通に考えて極滅炎天衝のほうでしょ」
フランネル「別にどっちでもいいだろ」
アナ「よくない! もし失敗したらどうする気だったんだよ」
フランネル「ああ……そっちの話。いやぁ、上手くとはな。結果オーライって感じ?」
アナ「だ・か・らっ」
唐突に始まった口喧嘩。どうも内容は先程のスキル=技選択についてみたいだ。選択をミスったのではと訴えている。
一方で当の本人は、気持ちいい具合に技が成功して機嫌がいいようだった。
微妙に噛み合っていない言葉。今の所は片方が熱くなっているだけだが……。
アナ「一度も成功した事がない技を使うなんて信じられない!」
フランネル「だから援護を頼んだだろ。敵の足を止めてくれって」
アナ「だけど不発する可能性だってあった。僕はてっきり……」
フランネル「てっきりなんだよ。結局お前も俺様の意図を読み間違えたんだろ」
売り言葉に買い言葉でどんどんエスカレートしていく。
段々と引けなくなってしまい、やがてフランネルが胸倉を掴んで、抵抗したアナの手が彼の頬に当たった。それをきっかけに小競合いを始めてしまう。




