外伝・幕間 記憶の解放者
ひとつの物語を見終わった一行は扉の広間に戻ってくる。
彼らの帰りを持っていた泉の精に帰還の報告をした。そして、彼女から異界ショップと記憶の具現化についての説明をされる。
異界ショップ、それは泉の精が運営する特殊な品を扱う店だ。
支払いに用いられる物も資金ではなく交換用のアイテム。それも刻の泉の中でしか手に入らない「記憶の結晶片」だという。
そして一番の目玉は「記憶の具現化」であった。
なんとこれは、リストに解放した登場人物を記憶キャラとして具現化するというもの。もちろん具現化された記憶キャラは限定的ではあるが仲間に加わる。
泉の精「具現化ですが、初のご利用を記念して初回限定サービスをご利用できます」
リーヴェ「初回限定のサービスってどんな事してくれるんだ?」
泉の精「ふっふふ。そ・れ・は……じゃーん!」
泉の精は1人で大盛り上がりをしながら言う。
泉の精「記憶キャラをお1人だけタダで具現化しちゃいます」
セレーネ「えっ、いいの?」
泉の精「はい。必要な素材はここにありますから」
長年溜めていたという記憶の結晶片を見せてきた。どっさりと中身が詰まった大袋だ。これでギリギリ1人分はあるらしい。
実物を見てリーヴェは結構必要なんだなと思う。
自分達も記憶の世界を冒険し、いつの間にか手にしていた記憶の結晶片。
気がついたら荷物の中に入っていたのだ。ご丁寧な事に空袋の中に入っていた。意思でも持っているかのように……。
セレーネ「でもさ。それって今じゃなきゃダメ?」
泉の精「いいえ。初回ですので、最初の1人を具現化するまではいつでも有効です」
セレーネ「よかった。今でなくてもいいんだ」
泉の精「他にご質問はありますか」
リジェネ「じゃあ、記憶キャラについてもう少し詳しく教えてください」
リジェネの問いに皆も同感を示した。考えてみたらそうだ。
泉の精の話だと記憶キャラは文字通りの存在だという。集めた結晶片をもとに、記憶の世界で縁を結んだ人物を呼び出し具現化する。
戦闘もこなせる仲間として加わるのだが、それは限定的な場所の範囲が存在した。刻の泉に関わる所のみというものだ。
当然だろう。彼らは具現化しても記憶の中の存在に過ぎない。現実には存在していない者達なのだ。それともうひとつ、注意するべき事がある。
泉の精「記憶の世界へ連れて行くのはご遠慮ください」
セレーネ「えっ、ダメなの!?」
リジェネ「どうしてですかっ」
何か不味い事でもあるのかと問う。
記憶の世界は現実の過去とは少し違うと説明された。だから自由にできると。それなのに何故、記憶キャラ達を連れて行けないのか。
泉の精「強くお止めする事はしませんが、記憶に由来したモノ同士何が起こるかわかりません」
リーヴェ「つまり?」
泉の精「仮に連れて行った先で消滅してもこちらでは保障いたしません」
全員「なっ……」
皆が思わず絶句した。せっかく具現化しても消える事があるのか。それは確かに嫌だな。そう思い、連れて行くのは止めようと思った。
注意事項まで伝え終わった泉の精がまた満面の笑みを浮かべる。
泉の精「それで、いかがしますか?」
リーヴェ「うーん。どうする」
リーヴェ達は仲間達を顧みた。皆の意見を聞いておきたい。
セレーネ「別にいいんじゃない」
リジェネ「そうですね」
ラソン「具現化すれば仲間になるんだろ? いいじゃん」
クローデリア「はい。アネルセリア様にまた会いたいです!」
ニクス「初回がタダというだけで、具現化自体は何人でもできるのだろう?」
泉の精「もちろん。ただし素材は頂きますが……」
ならば構わないだろうと他の皆も同意した。全会一致だ。
反対するのがいないのを確認し、リーヴェは泉の精に向かって具現化をお願いする。
泉の精「畏まりました。では、少し下がってお待ちください」
皆を下がらせて用意してあった結晶片を袋から出す。
手前にこんもりと盛られた結晶片の山。それに精が特別な魔法をかける。この場所を管理する彼女だけが使える力だ。
それが素材と結びついて意志ある者へと形を成していく。
泉の精「はい。具現化は無事に終わりました」
アネルセリア「……………」
記憶の世界で出会ったままの人物が目の前に立っている。
具現化されたアネルセリアがそっと瞼を開けた。怪訝そうに何度か瞬きをし、首を振って周囲を見回してからもう一度こちらに顔を向ける。
アネルセリア「よう。あんた達、またまた会ったねぇ」
クローデリア「うぅ、またお会いできて嬉しいですわ~」
アネルセリア「おわっ! なんだい、また泣くのかいっ」
クローデリアは涙ぐんでガシッと抱きつく。
彼女はそれを受け止め、戸惑いつつも懸命にあやす。引き離すにしても落ち着かせる必要があると感じたからだろう。
リーヴェ「えーっと。わかるんですか?」
アネルセリア「ん、何が? ……ところで此処は何処だい?」
リーヴェ「あ、はい。実は……」
リーヴェは事情を掻い摘んで説明した。
内容を理解した彼女はひとつ頷き、楽しそうに顔を綻ばせて腰に手を当てる。
アネルセリア「なるほど。つまり今の姿がアンタ達の本当の姿なんだね」
ラソン「けど、さっき普通に挨拶してたよな」
アネルセリア「なんとなくさ。雰囲気とか気配とか」
ラソン「へぇ~」
アネルセリア「でも、不思議と違和感を感じないんだよねぇ」
具現化された影響かな、と彼女は冗談半分に言う。
でも確かにその可能性はあるな。こちらに具現化された時に認識に何らかの補正が入ったのか。
それに一行の事を知っている時点で、記憶の世界にいた彼女だという事だ。リーヴェ達は不思議なくらいにすぐ状況を把握した。
アネルセリア「じゃあ、改めて。アネルセリアだ、よろしく♪」
リーヴェ「はい」
クローデリア「よろしくお願いします!」
アネルセリア(Lv50)が仲間に加わった。
その瞬間、扉の間全体が反応を示す。光の波が脈動し広間の中心に集まって何かが出現。雫のような形の物体。触れた感触は固く、不思議な輝きが内部で揺らめいている。
リーヴェは傍まで歩み寄り恐る恐る手に取った。貴重品「時空の雫」を入手。
リーヴェ「これは何だろう」
泉の精「それは特別な空間を形成する鍵です。闘技場に持っていてください」
仲間にした英雄達と競技できるようになりますよ、と泉の精は告げた。
そういえば準備中となっていた場所があったな。もしかしたらこの品と関係があるのか。わからないが、コレを持って行けば何かが起きるのだろう。今度行ってみようと思った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【タルシス辞典 記憶キャラについて】
泉の精が対応してくれる「記憶の具現化」で仲間にできる者達。
彼らは該当する記憶世界の物語を見終わる事で具現化できるようになる。素材も一定量の「記憶の結晶片」さえあれば可能だ。全キャラLv50で固定。
時の干渉を受けるため、活躍できる場所は限られており、「遊戯の晩餐」と「激闘の迷宮」「異界競技場」の特殊な空間でのみ。
性能面も一部異なっていて、合体奥義や相棒状態にはなれずスキル数も少なめ。スキルも一部は解放条件が設定されている。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【サブエピソード135 待機中】
記憶の世界からアネルセリアを具現化した一行。
扉が並ぶ広場で1人待機している彼女は退屈そうだった。
アネルセリア「ああ、暇ぁ。暇すぎて死んじまうよ~」
クローデリア「アネルセリア様?」
アネルセリア「おおキタキタ。なあ、お願いがあるんだけどさ」
クローデリア「なんですか?」
彼女は一行の姿を見つけると表情を明るくする。
だらしなく座り込み、こちらを見上げて次の言葉を告げた。
アネルセリア「早いトコ仲間を増やしとくれよ。1人だと遊ぶのもつまらんし……」
待つのも辛くてかなわん、と言う。
もともとじっとしているのが苦手な様子だ。熱烈に懇願してくる。
暇だ暇だと言い、見る間に姿勢が崩れていく。最終的にはだら~んと地面に寝そべってしまった。お世辞にもだらしない。その内に溶けてしまうんじゃないか。本体がアレだし。
クローデリア(はわぁ~。どんどんイメージが崩れていきますぅ)
アルマ(フランジュ様が見たら、今頃叱り飛ばしてるんでしょうけど……)
アネルセリア「あぁ~、暇暇ヒマァだ~」
とうとう暇と連呼するだけになってしまった。
こんな姿を見ては、とても彼女が精霊王だったなんて信じられない。
正確にはなる前の段階から具現化した可能性もある。だが、その当時でも次期王だと噂されるくらいだったのだ。それが今は威厳もあったものじゃない姿を晒していた。
アルマ「こうなったら早くシャキッとして貰わないとね」
クローデリア「はい、他の物語も見て具現化して貰いましょう」
アネルセリア「頼むわ~」
アルマ「わかったから起きてください」
アネルセリア「んん~」
すっかりだらけきった彼女を残し、一行は新たな物語を見るべく扉に向かう。
早く仲間を連れてこないと寂しいだろう。記憶から具現化された存在でも心くらいはある。彼女でなくても1人は辛い筈だ。
そう思いながら次の物語を探しに行く。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
扉の間で次の物語を見ようかと考えていた一行。
そんな折、ふと手元にある結晶片を見る。具現化を実際に見たので、それがあまりにも少ない事だと知った。だが、さすがに仲間を具現化するには足りな過ぎる。
物語の中ではそこまで大量には手に入らないのかも。意外と持っているなと思っていたけれど……。
ラソン「他の場所のほうが採れんのかもな」
セレーネ「じゃあ人数わける?」
ルシフェルス「こちらは構わんぞ。そのほうが効率がよさそうだ」
シャムス「賛成です。それに大所帯だと目立ちますから」
アルマ「いいわね。人数的にも半分くらいで別れたほうがよさそうだわ」
4・5人くらいが適切だろうかと話す。
多過ぎても大変だし、少ないと危険が増すだろう。他の場所も下見しておきたいという意見が上がったていた。
仲間を具現化するにしても、ショップの物を交換するにも記憶の結晶片が必要だ。集められる時に集めておきたい。限られた場所だけだけど仲間が増えるのは嬉しいから。
リーヴェ「どうやって人選するんだ」
これがゲームだったら泉の精が編成を手伝ってくれる所だが……。
ラソン「んなもん、じゃんけんとかくじ引きでいいだろ」
セレーネ「なら準備も面倒だしじゃんけんで決めましょ。せーのっ!」
息を合わせて開始されたチーム分けじゃんけん。
勝ち抜けた者から好きな所を選んでいく。枠の数が決まっているから早いもの勝ちだ。その所為か、序盤から結構な白熱ぶりだった。好きなチームを選びたい一心で拳を振る。
そして、血が一切流れない激しい戦いの末――。
ラソン「よっしゃー! オレ、記憶チームだぜ」
セレーネ「ふっふふ、あたしもよ」
クローデリア「残念ですぅ」
アネルセリア「まあ、しゃーないって。一緒に他で遊ぼうぜ」
クローデリア「はい」
ニクス「まぁ、上々だな」
アルマ「貴方狙ってたわね。騒がしい連中から解放されたって顔してるわよ」
ニクス「…………」
リジェネ「そんな顔してますか?」
記憶の世界を探索するチームは5人。リーヴェ、リジェネ、ラソン、セレーネとアルマだ。
また過去の伝説を見れるとはしゃぐ3人と、それを見守る面々。リーヴェははしゃぐ連中の輪には入らず他の仲間達に目を向けた。
リーヴェ「それじゃあ、後の事は頼む」
ルシフェルス「うむ。任されよ」
シャンス「ご心配なく。しっかり下調べをしてきますから」
セレーネ「うん。どんな感じだったか後で教えてよね」
シャムス「はい、もちろんです」
メンバーも決まったので早速出発だ。
一行は各々に決めた扉をほうを目指して歩く。そして次々と潜っていくのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆




