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外伝15‐3話 3精の師匠

守護者「さて、そろそろ本題に移っていいかな?」

フランジュ「あ、はい。すみません」


 それまで静観していた奥の人物が進み出る。

 おそらくだが、目の前にきた彼がこの時代の守護者だろう。髪や瞳の色、感じるマナの気配から炎精人種(フィアネリス)だと思われる。

 此処にいる当事者達の中では一番小柄で体格も華奢に見えた。

 纏う雰囲気も優しく、外見からはとても強そうに感じない。この場所を守っているのだからある程度は強い筈だが……。


守護者「人数もいる事だし、実戦も兼ねて課外授業と行こうか」

アネルセリア「実践! よっしゃぁぁぁっ!!」


 少し幼い容姿とは裏腹に、守護者の声音は心地いい低音。

 戦いができると聞いたアネルセリアが力強く拳を握る。興奮した叫びを上げる彼女に隣のフランジュがキッと表情を険しくした。


フランジュ「こらアリーッ。勉強に行くんだからね」

アネルセリア「固い事言わなくたっていいだろう。ああ、楽しみ」

フランジュ「はぁ、まったく……」

守護者「ははっ。いつも元気でなによりだね」

フランジュ「師匠(せんせい)、笑ってないで諫めて下さい」


 騒がしいやり取りを聞きながら一行は声を潜めて話す。


ラソン「あの人ってアルマさんの先代ですか?」

アルマ「いいえ。おそらく先々代だと思うわ」


 まず会った事がないし、年代的にも先代ではないとアルマは言う。彼女の話だと先代は風精人種(ウィンディアナ)だったらしい。ならば違うかと一行は納得した。

 この時知ったのだが、アルマの先代の守護者はかつての英雄が旅をしていた時に就任したという。その後、彼らの旅が終わってしばらくしてからアルマが引き継いだのだとも。


アルマ(私が旅をしていた時は、守護者の空席期間が続いていて困ってたのよね)


 歴代を見ても長らく続いた空席期間だったと聞き及んでいる。

 その間は彼の地にいる姫神子が代行を務めていたとか。その当時の詳しい事情はアルマですら知り得ていない。だが、なかなか大変な時代だったのだろう。

 そんな事を考えながら目の前の話を聞く。目的地が決まったようだ。


フランジュ「そういえば……大事な事を聞き忘れてたけど、この子達戦えるの?」

アネルセリア「ああ~。大丈夫、あたしの勘だと結構やると思う」

フランジュ「本当に? なんか不安ね」

アネルセリア「大丈夫だって。あたしの勘を信じなよ」


 何処まで信じていいものか。フランジュは不安げな顔を崩さない。

 微妙な空気が流れる中で「パンッ」と守護者が手を叩く。おかげで全員の意識が切り替わる。


守護者「では、現地に行きましょう。場所は『ムゥの森』ですよ」

リーヴェ「ムゥの森……行った事のない場所だな」

アネルセリア「場所はわかるかい?」

リーヴェ「それは、なんとか」


 一行はフランジュとランパード、そして守護者を同行者に加えて歩き出した。



 ムゥの森は水の精域の東側、風の精域と隔てた川沿いにある。

 道中は想像以上に安全で快適だった。アネルセリアもそうだが、他の2人も十分過ぎるくらいに強かったからだ。さすがは精霊王になるだけの人達である。

 それよりも驚いたのはその戦いぶりだった。


魔物「ギャシャアァァッ」

アネルセリア「遅いぜ。そらっ」

魔物「ガアァァッ」

アネルセリア「こっちもか。ウェーイッ」


 アネルセリアの通常攻撃は2種類あった。移動速度も速いほうだ。

 状況に応じて使い分けている様子で、敵の近くにいる時は蹴りを、離れていれば音波で攻撃している。

 そして戦闘になった途端に雰囲気が一変。興奮のあまりかなりハイになっているようだ。楽しそうにガンガン楽器を掻き鳴らす。


リーヴェ「激しいな」

セレーネ「お祖母ちゃんの時とイメージが違う!」

アネルセリア「ほらほら、かかってこいやー!!」

魔物「グルルル……」


 警戒して近づいてこない魔物。怯えているようにも見える。


アネルセリア「なんだい。歯応えのない連中だねぇ」

魔物「グルルルッ」

アネルセリア「そっちが来ないならこっちから行くよ。奏乱(そうらん)のカルテット」

魔物「――ッ!?」


 アネルセリアが「ジャーンッ」と楽器を鳴らした。

 直後、彼女の周囲に音符や譜線らしきものが舞う。アレが魔法陣の代わりみたいだ。それが周囲のマナに干渉して現象を起こしていた。

 いや、逆か。マナが音符や記号の形をとっている。ひと際大きな3つの音符からまったく異なる楽器の音色が響く。

 敵に炎、地、光、闇のいずれかの属性攻撃がランダムで降りかかる。


ラソン「怖ぇ~」

アネルセリア「はははっ。どうしたどうした!」


 容赦のない攻撃の嵐。成す術もなく一掃されていく魔物の群れ。

 他にも目を向ければ、器用に炎を操るフランジュと手堅く大槌を振るうランパードの姿もあった。そこまで派手ではないがおっかないのは同じだ。

 そして、最後の敵を倒した時――。


アネルセリア「イエッ、フゥゥ――ッ!!」


 と、完全勝利の勝鬨を上げていた。

 観客がいようといまいと、汗を滲ませキレッキレの決めポーズをとる。今回は綺麗にハマったと嬉しそうに笑うアネルセリア。

 おかげで戦闘は楽をさせて貰っているが、とんでもない人達と行動をともにしている事を改めて痛感する瞬間だった。


 ムゥの森に着いてからは3組に分かれるという話になる。

 組分けはどうするかと話し合う一同。一行と4人を交え計15人。だが守護者は基本的に戦わないみたいだ。もう1人戦える仲間がいれば、ちょうど5人ずつで分けられるのに……。


フェラーノ「はいはい。オレ、美女と一緒がいい」

セレーネ「誰を指して言ってんのよ」

クローデリア「わたくしはアネルセリア様と一緒がいいです!」


 真っ先に手を上げて要望を声高々に告げる男。下心を隠しもせず言い放ったぞ。

 また冷たい視線を向けられ、一瞬だけビクッと肩を震わせていた。すると今度は大きな笑い声が響く。


アネルセリア「ド直球な奴だねぇ。気に入った、2人とも一緒においで」

フェラーノ「おっしゃぁー!」

クローデリア「よろしくお願いしますわ」


 歓声を上げるのを見ながら「いいの」とセレーネが確認する。

 聞かれた本人は「素直で可愛いじゃないか」と答えた。その言葉を聞き、フェラーノは照れたようにニヤつく。

 さて、残りのメンバーも決めてしまおう。一同は意見を交わし合う。


 話し合いの結果、ともに行動するメンバーが決まった。

 まずアネルセリアと一緒になったのは、立候補した2人とセレーネに守護者の5人。フランジュとは、リジェネとアルマ、ニクスにルシフェルスだ。そしてランパードには残る4人となる。

 そして、各々に組み分けされた仲間とともに森の中へと分け入っていく。



 バランスよく組み分けした結果、アネルセリアと行動をともにする事になった面々。

 此処からは魔物が出ても4人で戦わねばならない。戦力が減ったので多少は心配も浮かぶ。道中はいろいろと言葉を交わしながら進んだ。

 互いにできる事を確認し合い、時にこの場所の知識や観察での話を語る。


アネルセリア「この森にはムゥが住んでいるのさ」

セレーネ「ムゥって?」

アネルセリア「この森の主さ。基本的には大人しい精霊だよ」

セレーネ「精霊って……貴女達も似たようなものなんじゃ」

アネルセリア「言われてみればそうさね。何が違うんだろ?」

フェラーノ「おいおい」


 本気で考え込んでいる様子に頭を抱えた。本当に知らないようだ。

 想像を膨らませる彼らに対し、守護者は基本的に沈黙を貫いていた。静かに4人を見守っている。今回は日頃の復習も兼ねての課外授業だ。なので生徒達の思うままにさせるつもりなのだろう。

 深い森の中を進む道中、彼らの前にこの辺りを根城とする魔物が現れた。此処の魔物は獣っぽいのが多いようだ。


魔物「ガアァァッ」

アネルセリア「来たね」

フェラーノ「さっさと片づけちまおうぜ」

クローデリア「はい」

セレーネ「うん」


 襲いくる魔物は大した事のない敵だった。

 この程度の敵だった襲れるに及ばない。あっという間に決着がつき、再び探索を続ける。


クローデリア「あら? これは……」


 クローデリアが何かを見つけた。膝を折り、茂みの中に生えている草に目を向ける。それに習って他の皆も茂みの中を覗き込んだ。


アネルセリア「薬草だね。えっと確か、なんて言ったっけか」


 必死に思い出そうとするアネルセリア。その様子を見てくすりと笑う守護者。

 いくら頭を悩ませても名前を思えだせない。だけど、効能はうっすらと思い出してきた。なので何かの役に立つ筈だと少し摘んでいく。

 薬草を持ち歩けるよう容器に入れた時、ふと周囲に意識を向けた守護者が怪訝な顔を浮かべる。


守護者「おかしい。何か奇妙な気配を感じる」

フェラーノ「えっ……気配ってどんな」

守護者「あまり良い感じはしない。この気配の感じは……まさかっ」


 何かを察した守護者は森の奥を睨む。

 唐突に感じた気配。この先だ、と彼は血相を変えて走り出す。

 ただならぬモノを感じた4人も後を追う。森の中を慎重に走り抜け、開けた場所に出た瞬間に気配が更に強さを増した。ドタバタと鳥や獣が逃げていく。

 肌を刺す感覚に身構え、気配のする方向を凝視した。何か、来る――!


謎の獣「ウオォォォッ」


 ドスッ、ドスッ、と重量感のある足音を響かせ大きな影が飛び出す。

 雄たけびを上げれば周囲の大気が震えた。全身にビリビリと凄まじい圧力がかかる。コイツはかなりの強者だ。気配からは尋常ではない脅威を感じた。


 眼前の存在を注意深く観察する。これは何という獣だろうか。

 苔生したような模様のある白い毛並み。ふっくらとした2股の尾と丸みのある耳。程よく華奢で、程よくふくよかな体躯をしている。大体の外見は所々違うが狸っぽい感じだろうか。


 しかし、守護者は怪訝に眉をひそめた。

 尾や四肢などが部分的に黒く、禍々しい気配を放っている。相貌も血走り殺気立っていた。明らかに普通じゃない。


守護者「なんて事だ」

フェラーノ「こいつはいったい……魔物なのか?」

アネルセリア「またとんでもないのが出たね」


 威圧感を放つ謎の生物がこちらに気づく。

 魔物なのかもわからない存在。だが、守護者だけはこの存在が何者なのかを知っていた。


守護者「ムゥですね。暴走しているようです」

セレーネ「へぇ、アレが。精霊って感じじゃないのね」

クローデリア「暴走? なんでそんな事に……」


 守護者の言葉に各々の感想を口にする。

 あれがムゥ。どうも話の感じだともとの気性は大人しそうだな。正体を見抜いた彼の表情がソレを物語っていた。アレが本来の姿ではない、と。


謎の獣「ヴオォォォッ」


 再び雄たけびをあげ、こちらに僅かな警戒を向けていた獣が向かってくる。

 どす黒い気配を立ち昇らせて迫る獣。もはや戦う他はない。4人は武器を構え、迫りくる存在を迎え撃った。

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