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第136話 仇討ち

 本能のままにメイスを振るう敵。単調な攻撃は避けやすく、背後に回り込んでも気づかれない時がある。薬瓶を闇雲に投げてくる事もあったがバフは使ってこない。

 特に標的を狙っている風にも感じられなかった。


リーヴェ「これなら攻められる」


 味方の被弾が減って余裕ができる。リーヴェも少しだが攻撃に参加した。

 素早いセレーネとニクスが背面から猛攻。ラソンは囮を演じて回避行動をとる。リジェネがそれを援護し、クローデリアとアルラートが魔法を放つ。


コボル郷「グガガッ、ハハハッハハ……」

ラソン「まだ混乱してるみてーだな。チャンスだぜ」

セレーネ「今の内にっ。火月閃」


 攻防を繰り返す。やがて敵の混乱が解け、再び厄介な技を使うようになった。

 長期化する戦闘だったが、地道に攻撃を続けてようやくHPを半分以下まで追いやる。ギリギリの所を何とか切り抜けて戦う。

 かなり厳しい状況に追いやられながらも、奴は背後の兵器を使ってはこなかった。単純に距離が近すぎる所為なのか、他に理由が存在するのか定かではない。それはこちらとしては有難かった。


 あくまでも己の身一つで戦う敵。これで生粋の戦士ではないのが惜しいくらいだ。

 対策を考え、防ぎ、躱し、攻撃していく。そして、後一歩の所まで敵を追い詰め――。


コボル郷「まだだ。まだ、終わらぬっ」


 最後の足掻きとばかりに自己バフと猛攻を繰り広げた。演奏中のクローデリアへと突進。ラソンらが必死に妨害を試みるが止まらない。速度を緩めず突き進む。


リーヴェ「させるかっ」

リジェネ「絶対に止めます!」


 2人が両サイドから同時に迫る。武器を構え、敵目前で攻撃に移った。


コボル郷「邪魔をするなぁ――ッ!!」

2人「がはっ」


 強靭な腕が2人を襲い払い飛ばす。

 吹き飛ばされ、地面や柱に身体を強打。一瞬の間意識が飛ぶ。動けない。空中にいたアルラートの瞳に、傷つき倒れる2人の姿が映った。


アルラート「貴様ぁ!!」


 激怒した彼が「エクサルシス」を発動。そのままの勢いで魔法陣を展開させた。


アルラート「コズミック・メテオォーッ」

コボル郷「ギャアァァァァッ」


 鬼の形相で発動させた魔法が容赦なく降り注ぐ。これが最後の一撃となった。絶叫してコボル郷が倒れ伏す。

 こうして、コボル郷・モアクコフを撃破したのである。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 【タルシス辞典 コボル郷・モアクコフ】

 種族 人型・獣 属性 ‐ 身長 158.0cm 体重 45.5㎏ 弱点 ‐

 暗黒人の幹部貴族で、クラスは発明医師(メディインヴェイカー)獣人種(フルビースト)

 種族特性は「潤活力」で、バフ効果の恩恵を強く受けら、同じスキル効果も重複して得られる。ただし、重複数の合計が10回を超えると混乱状態になる。武器はメイスで、通常攻撃は近接。

 薬剤で元から高めの身体能力を強化し、更に状態異常もかけてくるぞ。範囲技+デバフ攻撃も豊富。

 見た目に反して戦士タイプのステータスを持っており、スキルも物理攻撃に特化している。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 意識を取り戻したリーヴェとリジェネは周囲の状況に唖然とした。

 降り注いだ隕石は巨大な兵器をも粉砕していたからだ。至る所からシュゥシュゥと煙が上がっている。強化された魔法は恐るべき威力だった。石舞台のあちらこちらが崩れてしまっている。

 状況を察した2人は上へ視線を向けた。視線の先には息を荒げたアルラートの姿がある。


リーヴェ(また、やってしまったのだな)

リジェネ「兄さん」


 身体を起こした2人の様子に気づいたアルラートが降りてきた。血相を変えて駆け寄り無事を確認。念入りに聞いて来るのに困惑しつつ、対峙していたコボル郷へと意識を向けた。

 酷い火傷だ。全身に煙を纏い、痛みを堪えつつ身体を動かしている。


リーヴェ「もう動くな」


 思わず目を背けたくなるのを必死に堪えた。自分達が仕出かした事とはいえ、直視し難い惨状だ。命がけであるのは承知で気が退けてしまう自分がいる。

 相変わらず甘いな、とつくづく思ってしまう。こう感じるのは、敵に対して失礼かもしれないが思わずにはいられない。


コボル郷「まだ、終わら……ぬ。我らは生き、延びるのだ。かなら……ぐっ」

全員「っ!?」


 尚も立ち向かわんとする彼の動きが止まった。

 胸に何か鋭利なモノが刺さっている。これは背後から? いったい誰が。

 声もなく、うつ伏せに倒れるコボル郷。彼の背後に1人の女性の姿があった。少し前に対峙した、よく知る相手。


ニクス「デリス郷」

デリス郷「…………」


 無言で爪についた血を振り払う。それでも、拭いきれない返り血が彼女を禍々しく彩っていた。冷たい瞳が倒れる男を見下ろす。恐ろしい程に静かな殺気だった。


 マナの爪を引っ込めても彼女の爪は血で濡れている。気持ち悪かったのか、表面上は何の感情も移さぬままつけ爪を外して捨てた。何事もなかったように予備を装着する。

 その様が実に怖い。見ているだけで鳥肌が立ち、肝が冷えた。


 こんなに恐ろしい顔をする人だったか?

 以前対峙した時でさえ、これほどの殺気は放っていなかったぞ。表情も明らかに違う。全身から感じる気配さえも。

 十数秒見下ろし、ふいっと視線を逸らす。もう見たくないようだ。身を翻し立ち去ろうとする彼女をリーヴェは引き留めた。何故、と問いかけようとして言葉に詰まる。思わず言葉を飲みこんでしまう。


デリス郷「構わないで」

リーヴェ「だ、だが……」

リーヴェ(これはっ)


 チラリとリーヴェを顧みる。


デリス郷「関係ない。私情よ」


 平坦な声音。彼女はそれだけを言って歩き去って行く。

 再度呼びかけても、もう立ち止まる事はなかった。彼女の鮮やかな髪が風に揺れる。寂しそうなその後ろ姿が、異様な程目の奥に焼きついた。



 呆然とデリス郷をも送り、しばらくしてから我に返る一行。

 さて、これからどうするか。改めて破壊された兵器を確認する。見事に粉々だ。元の形がどうだったか思い出せない程に細かい破片と化していた。

 二次爆発が起きないかと慎重になりながら近づく。最初は散っていた火花もすっかり収まり、完全に沈黙している機械。


ラソン「派手に壊したなぁ」

セレーネ「いいじゃない。手間が省けたと思えば」

クローデリア「そうですが。……これ、どうするんです?」


 このまま放置していいものだろうか。若干不安を覚える。


リーヴェ「どの道、私達だけでは片づけられないだろう。報告も兼ねて一度戻るぞ」


 目的地はとりあえず帝国か王国に行けばいいかな。情報を共有できる場所に行けさえすればどうにでもなる。今後の事も気になるし、状況を報告をしなければならない。

 まだアルラートが戦闘メンバーに加入した状態のまま、一行はこの場を後にするのだった。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 【サブエピソード64  コボル郷の最後】

 アートルム神殿跡を後にする一行。その道中、先程目の当たりにした出来事を振り返る。辛くも戦いに勝利し、とどめを刺す事を躊躇う中で起きた事件。

 まさか、あそこで彼女の介入があるとは思いもしていなかった。


リーヴェ「…………」

セレーネ「なんか、気持ちが落ち着かないわ」

クローデリア「わたくしもですぅ」


 仲間達の顔色が優れない。リーヴェ自身も表情を曇らせて黙り込む。

 どうする事もできなかった。ただ、見ている事しかできなかったのだ。彼女が何故あのような行動に走ったのかはわからない。

 自分自身、人を殺しているし言えた義理ではないが……。


リーヴェ「あの時の彼女は、様子が違っているように見えた」

リジェネ「はい」

ラソン「ニクス、デリス郷って人はああいう人格なのか?」

ニクス「いや。普段はもっと……」


 言葉に詰まる。何と言ったらいいのだろう。

 つき合いはそれなりにあるが、ニクスは彼女の事をそれ程よく知っている訳ではない。年頃も違い過ぎるし、しょっちゅう絡んでいるホッヴォ郷ならばあるは――。いや、それはないか。


 ニクスが答えられないでいると、唐突に謝罪の言葉が返ってきた。あまりにも言い辛そうにしていたから遠慮したようだ。ラソンも別に困らせたい訳ではない。

 それにしても、とんでもない最後に立ち会ってしまった。尋常ではないデリス郷の様子を思い出して寒気を覚える。


リジェネ「怖かったです、よね」

セレーネ「うん。本気で殺されるかと思った」


 視線で人を殺せるってあんな感じを言うのだろうか。本当に射殺せそうな鋭さだった。恐ろしさのあまり、意味もなく視線を彷徨わせてしまう。口封じとかされないよな?

 妙な脅迫観念に捕らわれそうになる思考をどうにか押し込める。


リーヴェ「彼のしたことは許せない。だが、ああなってしまうと……」

ラソン「言いたい気持ちはわかるぜ。オレもなんか後味悪りーもん」

ニクス「…………」


 ぼそぼそと言葉を交わす皆を、視界に収めながらニクスは思案した。

 確かに詳しい事情は知らない。けれど彼女の行動はあまりにも極端だ。普段の様子からはかけ離れているくらい自分でもわかる。そういえば――。


ニクス(皇帝が言ってたな。ベリーニ郷に何かあったのか?)


 考えられるのはそれくらいだ。

 ベリーニ郷がデリス郷に恋心を抱いているのは貴族間でも知られている話だ。彼女のほうがどう思っているにせよ、親しい間柄なのは間違いない。長いつき間というのも聞いた事がある。

 へーリオス皇帝が言っていた情報もふまえれば、彼に何かがあって……。そこまで考えてニクスは思考するのを止めた。嫌な想像だ。


ニクス(だが、一番可能性が高いのも事実)


 でなければ、あれ程の殺意をむき出しにするか怪しい。彼女とて戦闘を嫌っている節は伺えた。実際はどうでも、純粋に戦いたい奴なんていったいどれだけいるだろう。

 自分達が戦う理由も、身を守るため、生きるために他ならないのだから。


リーヴェ「こんな事、これ以上あっちゃいけない」

ラソン「ああ。止めようぜ」


 ラソンの言葉にリーヴェは頷く。思い足取りの中、前を向いて自分に言い聞かせるように言う。


リーヴェ「行こう!」



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆

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