第125話 避難所での出来事
一時自由行動をする一行。
リーヴェは仲間達と離れて1人隅のほうで身体を休めていた。
リーヴェ「ふぅ……」
リーヴェ(さすがに体力の限界だ)
ずっと気を這っていて想像以上に疲れている。本当なら避難して来た人の手伝いをしたい所だが、さすがにそんな余裕はなかった。
休むのも大事だ、と開き直って手足を伸ばす。緊張続きで強張っていた身体を解しながら考え事に耽る。
リーヴェ(話を聞いた限りでは、今まで得た情報に間違いはなかったな)
若干新しい情報も聞けたのも嬉しい。
うっかり寝落ちしてしまいそうな頭を必死に引き戻して考えを巡らせる。
リーヴェ「暗黒人達の目的は力を得る事。しかし、当の彼らの様子が気になる」
何ていうか、負の活力に先導された人々に似ているように見えた。謎の毒素の影響があるにしても力に溺れてしまっているようにしか思えない。魔王の動向も気になる所だ。
リーヴェ「まさか王族が出入りする場所に毒素が蔓延してるのか?」
さすがに無理が過ぎる考えだ。仮にそうだったとしても、毒素が検出された場所に入ろうとすれば止める筈だろう。最悪封鎖してしまえばいいのだから。
だとすれば魔王の乱心には別の原因がある?
リーヴェ「うーん。その辺りはもう少し聞いてみるしかないな」
そんな事を考えているとリーヴェの脳裏にある情報が過った。
――負の活力は一定以上……を越えると脅威になる。それは……を持つからだ。
リーヴェ「っ!? なんだ今のは」
咄嗟に額を手で押さえ、記憶を手繰り寄せる。今のは何だ。どこで知った情報だったか。いや、こんな情報……知っている筈は。ダメだ、わからない。
誰から聞いた? それとも何か、何か。
リーヴェ「ぐっ……いったいどうなっているんだ、私の記憶は!!」
自分自身に向けて思わず叫ぶ。自分でもわからない事が多すぎる。本当に自分の記憶なのか、疑ってしまいそうだ。何度も何度も自身を惑わす記憶に嫌気がさす。
これが忘れているのか、勘違いなのかすらわからなかった。だから余計に質が悪い。
リジェネ「姉さん? 大丈夫ですかっ」
リーヴェ「リジェネ……どうしてここに」
リジェネ「どうしてじゃないですよ。急に大声が聞こえたから」
リーヴェ「ああ悪い。ちょっとイライラしてな」
リジェネ「……あまり1人抱え込まないで下さい。それでなくても姉さんは自ら重荷を背負いに行っちゃうんですから」
また悲しそうな顔をさせてしまった。御子の力に不調を感じるようになってからずっとだな。私が神樹の前で息を荒げると、すぐにすっ飛んでくる姿が目に浮かぶ。
リーヴェ「その言葉、そっくりそのまま返すよ」
リジェネにも同じような部分がある。これは血筋なのかな。
リジェネ「姉さんはあの時の事……気にしてるんですよね?」
リーヴェ「あの時の事って」
リジェネ「だって記憶が戻ったんでしょ。だったら」
リジェネ(全部思い出したから、だからイライラしてるんじゃないの)
ずっと聞けなかった事。今もはっきり言えない。
でも、今の様子を見てると不安になる。だってあの時と、ああなる直前と様子が似てるから。イライラしてて、苦しそうで、疲れ切った顔してた。何かとずっと、戦ってたみたいな――。
リジェネの中で、それらの思いが木霊している。何度も何度も内側をノックしていた。聞きたい、でも聞きたくない。確かめたくないのにと。
だって、確かめちゃったら。それで間違っていなかったら……やらないといけなくなるから。
口ごもるリジェネ。その不安に反して、リーヴェの様子はキョトンとしていた。あの時とは明らかに違う顔だ。
リーヴェ「何を言っているのかよくわからないが。私はこの後もう少し情報を整理して、戦争を止めないとなって思っていただけだぞ」
リジェネ「えっ、それって。つまり思い出してないって事?」
リーヴェ「何を思い出すっていうんだよ」
リジェネ「いえ、いいんです。気にしないでください!」
慌てて誤魔化し、リジェネは話を切り上げて逃げるように走り去って行った。
変な奴だなぁ、と心中でぼやきながら少しだけ仮眠を取ることにする。
一方でセレーネは、民衆の中を縫うように進み落ち着きなく視線を動かしていた。探しているのはもちろん、彼女の育ての親であるおばさんだ。
無事ならこの中にいる筈、と望みを捨てずに探し続ける。周囲は不安や救援活動で騒然としており呼び声は届かない。地道に足と目で探すしかなかった。
セレーネ(お願いおばさん。早く見つかって!!)
エルピス『ガルッ、ガルル……』
セレーネ「そう。見つからなかったのね」
もう、どこに行っちゃったのよ。まさか、まさかそんな事ないよね。
一緒に探すエルピスの報告を聞いて落胆しながら、まだ探していない場所に向かう。リーヴェ達には頼れない。今はちゃんと休まないといけない時だ。
この先何が控えているのかを慮り、「手伝って」とは言えなかった。
少し距離のある別の避難区画にやってくる。
こちらも人で溢れかえっていた。怪我人も多く、集まって暖をとる人もいる。現在は夜だし、簡易テントが以外に大した風よけのない一帯は冷える。
セレーネはそんな人々の様子を注視しながら目的の人物を探した。
セレーネ「う~ん、もしかして他国に避難したのかな」
セレーネ(そんな事はできなかったって聞いてるけど……)
もしかしたら、があるかもしれない。もしそうでければ、最悪は……。
嫌な想像が脳裏を過るのを振り払い、尚も探し続けた。すると――。
おばさん「セレーネ! あんた、セレーネじゃないかい?」
セレーネ「おばさんっ。ああ、間違いない!」
炊き出しや給仕の手伝いをしていたおばさんを発見する。
駆け寄って全身をよく確認した。幸いにも大きな怪我もなく元気そうだ。頬の辺りに小さな怪我をしたようだけど、ちゃんと手当されている。
再会の抱擁をする2人。エルピスもおばさんの傍にすり寄って喉を鳴らしていた。
おばさん「本当に無事でよかったよ。怪我はしてないかい」
セレーネ「見ての通り大丈夫。おばさんのほうこそ、心配したんだから」
互いの無事をひとしきり確認し合った後、2人は一度別れる。両者ともに、生きていてくれた事を感謝するのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【サブエピソード61 不安と一歩】
自由行動の最中、ニクスは人々から離れ1人で木陰に腰を下ろしていた。
武器をメンテしたり、ティータイムをしたりと好きなように過ごす。片手間に小物なんかも作っている。気持ちを落ち着かせるにはちょうどいい。気も紛れる。
ニクス(……見られてるな)
人の気配が1、2……4人か。物影からコソコソとこちらを伺っている視線がある。足音の感じから子供のようだった。
ニクス「はぁ、困ったな……」
よりにもよって子供か。
子供は厄介だ。大人以上に気持ちがストレートですぐ行動に出る。加減なんて知らず言葉を投じてくる。大人の読めない態度もきついが、子供のまっすぐすぎる言動も時と場によっては避けたい所だ。
ましてや相手は地上人で、向こう側の子供らとは扱いも違ってくるのではなかろうか。だとしたらますます面倒だぞ。
ニクス(移動するか)
下手に怖がらせる前にさっさと移動しよう。親が来て更に面倒になるのも嫌だしな。
ニクスは素早く荷物を整理して立ち上がる。
子供達「あっ……」
移動していく彼の姿を覗き見て、子供達は示し合わせて後をつけた。
ニクス「はぁ……」
不味い、ついて来る。隠れて尾行してるがバレバレだ。少し歩くペースを上げて巻けないかと試みる。しかし子供達は思いのほか手ごわかった。
おかげでほんの少し本気で逃げしまう。それでも彼らを引き離す事はできなかった。
ニクス「こっちの子供も侮れないな」
子供A「あ、あの、お兄ちゃんっ」
息を切らせて背後に立つ子供達。ずっと影で見ているだけだった彼らが、とうとう話しかけてきた。無意識に精神をピンと張り内心で身構える。石像にでもなったかの如く動きを止めた。
子供達がゆっくり近づいてくる。確かめるようにそっと、慎重に歩みを近づけてきた。
ニクス「何か用か?」
子供B「うん。兄ちゃん、さっき作ってたよね」
ニクス「ん?」
子供C「お、お兄ちゃん。え、えっと……」
ニクス(ああ、やはり怯えてる)
話しかけるべきではなかった、か?
無視するのもどうかとは思うが、怯えられるよりはずっといいのでは。怯えさせるのも怯えられるのも、相当に精神を疲弊させる。どっちも勘弁して欲しい。
今になって逃げたくなったニクス。けれど何とか堪えて子供達と目線を合わせる。少しでも怖くないように、そっと最新の注意を払って口を開く。
ニクス「俺が怖いか?」
子供C「う、ううん」
ニクス「無理しなくていいんだぞ」
子供C「こ、怖くないよ。そうじゃなくて……」
ニクス「…………」
子供はたどたどしく、怯えているようにも聞こえる。
それでも震える声ではっきりと伝えた。果たしてその声音が恐怖からくるものなのか、ニクスにはわからない。だが今は、子供の言葉を信じて先を促す。
子供C「お兄ちゃんは兵士さん達とお友達なんだよね」
ニクス(兵士……ああ、あいつらの事か)
青年兵らの事を思い浮かべ頷く。友達とは少し違うが、知り合いではあるな。
子供は返答を聞いてやや興奮したように言う。
子供C「へへ、僕ね。兵士さんのお薬で助かったんだ」
ニクス「ん?」
どういう事だ。意味がわからない。首を傾げて見せるニクスに子供は続ける。
子供C「お薬の作り方を教えたのお兄ちゃんなんだよね」
ニクス「あ、ああ」
子供C「兵士さんにも言ったけど、お兄ちゃんもありがとう」
ニクス「あ……どういたしまして」
1人が話し始めると、続々に言葉を投げかけてきた。
子供D「ねぇ、お兄ちゃん。お人形なおせる?」
ニクス「人形? 見せてみろ」
子供D「うん。これ」
ニクス「どれどれ……ああ、この程度なら」
人形を受け取ってササッと直す。ここまでくる道中で壊れたらしい人形は元通りに治った。子供に返すと、嬉しそうに微笑でお礼を言われる。
その後、見ていた子供らに小物の作り方を教えてくれと頼まれたり、一緒にお茶したりと楽しく過ごす。最初は戸惑っていた子供達も、別れる頃にはすっかり名残惜しそうにしていた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
投稿が遅くなってすみません。




