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第9話


朝食が終わると少年はどこかへ出かけようとしだした。



どうしよう……1人は怖いから付いて行きたいけど…トイレしたいんだよね…。



全裸の野生児少年とはいえ、年頃になった己の排泄姿を見られるのはあまりにも恥ずかしい。死ねる。



私がもじもじとしていると少年は「がーお」と一声私にかけて野生児さながらの動きで木を伝って森を駆け抜けていった。


たぶん行ってくるねって事だと思うので私は少年の留守の間、少年の城を守ろうと思う。…とはいってもただのお留守番なんだけどね。


所で少年はどこでトイレをしているのだろう?改めて洞窟を奥まで見てみたが、それらしいものは一切無かった。


しかも嫌な臭いすらしない。トイレと寝室は分けているのか。


だったら尚更ここで用を足す訳にはいかない。…だって臭かったら絶対犯人私じゃん。私以外いないじゃん。



とりあえず近場でトイレになりそうな場所を探す。間違っても前に作ったトイレの所には行かない。あそこは妖精の住処だ。



―という事で洞窟を出て30歩ほどの所で用を足す事にした。ギリギリ匂いは飛んでこないだろう。









「はぁ…スッキリと鬱…」



体は喜んでいるが心はどよんと沈む…本当にトイレを作った人って偉大だなぁ…。



私はそれに砂をかけて証拠を隠滅した。南無。


さて帰ろうと後ろを振り返るとそれは私を見ていた。



「………」


「きゅるる?」



ウサギだ。ウサギが居る。



長毛の真っ白な毛に青い瞳、額には宝石のような赤い塊が付いている。


うさぎは私を見て可愛い声で鳴いた。なんだ?ここはもしかして君のトイレだったのかな?ちょっと使わせてもらいましたよ。



ウサギにそう言い、そろそろ少年の洞窟が心配だな…と思った私はウサギを放置して洞窟に帰る事にした。


しかし何という事だろう。ウサギはけなげにもジャンプするたびに可愛い声を上げ私を一生懸命追いかけてくるではないか!これを無視できる女子高生が果たしているだろうか?いや、いない!



「どうしたの~?お菓子が欲しいのかな~?」



あいにくお菓子は結菜に貰った呪いのクッキーしかないのであげられないけれど、可愛いものには声をかけたくなる性分の私はそう言ってウサギの前に屈んだ。



すると一瞬、ウサギの額の宝石が不穏に煌めいた。





メリッ……メリメリメリ…



「グギュアアアアアアッッ」


「ぎいやあああぁぁぁっ!!化け物おおおおおおぉぉぉ!!??」



ウサギの皮が破け中から真っ赤でツルツルした皮膚の化け物が姿を現した。



歯がヤバい!!デカい口の中の歯がノコギリみたいな形で8個ぐらい連なって並んで食う事以外考えていない造りの歯をしている!!つまり歯の奥に歯がある!!!



私は足から火が出る勢いで走った。

そうだよ!ここ異世界じゃん!!何で少しでも普通のウサギだと思ったの私っっ!!



私は通り過ぎた洞窟を横目で見た。…ダメだ!少年帰って来てない!!


でも少年が居た所でこの化け物に勝てるだろうか?最悪私より先に少年が食べられたら私、廃人になる確信がある。いや絶対なる。てか生きていけない。



どうしよう!少年に助けも呼べない!!私より年下の命を散らせないよ!!




私は考えながら走った。もう妖精の巣に行くしかないんじゃないかと思った時、さらに大きな絶望が私を襲った。



「はぁっ!はぁっ……っえ!?きゃっ!!何これぇぇ!?」



急に私の前の木が燃えた。


そしてそれは私を囲むように地面の草に広がり、完全に私は退路を断たれた。


前に進めぬ事を悟った私は後ろの化け物を振り返った。化け物が額の宝石をキラリと輝かせると周りに火の粉が散った。




お前魔法使えんのか!!?




畜生!神様はこんな化け物に二物を与えるのか!?私には胸も運動神経も美貌も何も与えないくせにこの化け物には運動神経と生き残るための絶対的な武器となる牙、果ては魔法まで与えやがって!!世の中狂ってる!!!


おまけにつるつるの脱毛要らずときた!こんな神に愛されているであろう化け物に私はきっと供物として神に連れてこられたのだ!!なんという不運!!



何度目かの命の危機で悟ったが、私はどうやら命の危機に瀕すると饒舌になるようだ。

知らなくて良かった事実!



そんな暴言を心で吐きながら火のギリギリまで後ろに下がる。ふくらはぎが炙られているけれど私には恐怖で逆に冷たく感じた。


先程の勢いはどこへやら…化け物は私の捕食を確信したのかじりじりと距離を詰めてくる。なんて悪質!!


来るなら一息で来いや!!と心で悪態をつくと、相手に伝わったのかいきなり私めがけて突進してきた!



「いいやあああぁぁ!!嘘です嘘ですっ、ごめんなさい!!!せめて首噛みちぎって完全に死んでから食べてえええぇぇ!!!!」



私はせめて相手が間違えて動脈を噛めずギリギリ生きている状態で食べられるという最悪の事態を防ぐため、棒立ちで目を瞑った。




……その時



「がああっっ!!ぐぎゃおおおおっっ!!」


「ギャオッ!!」



見知った声が森に鳴り響き、私は驚いて目を開いた。


その瞬間目に飛び込んできた少年は、私にあと数センチという化け物の背後から奴の首めがけて蹴りを繰り出した!


威力が高いのか少年の蹴りで首が半周回り、化け物は背中の方に顔が付いたまま距離を取るように少年から飛び退いた。



「がるる…」


「しょ、しょ、少年……っ!」



少年はそのまま私を背後にして化け物と向き合っている。どうやら私を守ってくれる気のようだ。


非常に嬉しいし泣けるほどの安心感があるが、少年に守ってもらうのは別の意味で怖い。


……やだよ、私少年が殺されたら生きていけないよ!!



なんとかこの化け物を追い払う手筈を考える。……あっ、そうだ!結菜のクッキー!あれで弱った所を……だ、ダメだ……あれは洞窟の中だ……



しかし無情にも私が考えを巡らせている間に化け物は再度私を狙って飛び掛かってきた!!

作戦練ってる時ぐらいは待ってよ!!



「がうっ!!」


「っえ?き、きゃああ!!高あぁぁい!怖い!!」



少年は不意に私の脇腹に腕を回すと、横抱きにして近くの木の枝に飛び乗った!


自分の世界の高さと全く違う高さの木の枝に私は下ろされ、枝につかまり震えた。


そして少年は何か私に言うと再び化け物の元に降りて行った。…え!?行くのっ!?少年もここでほとぼり冷めるの待とうよ!!


―と言おうと口を開いたが、度重なる恐怖で声が出る事を拒否したため空気しか出ず、私は吐息を漏らしただけだった。



その間に少年は化け物の間合いに入り込んでいた!ああもうこれ以上見れない!!


閉じようとした私の瞳だったが、予想外の少年の動きに私の瞼は停止した。






「え……少年…や、やばくない……?」



接戦だ。ギリギリのところで少年は化け物の牙をかわし、化け物が噛む為に伸ばした首を元の場所に戻す動作の時に隙が出来るのか、その時に力の限り少年は拳を化け物に打ち付けた。


神は二物をと私は言ったが、この化け物には顔以外にも学習しないという欠点がちゃんとあったらしく、少年に殴られた後も懲りずに同じ動作をする化け物は5回ほど少年の拳を食らうと、とうとう地面に倒れこんだ。



「があああああああっっ!!」



少年は腕を空に大きく振り上げて、会ってから1番大きな声を上げた。きっと勝利の咆哮だ。



「凄いっ!!凄いよ少年!!私はやれば出来ると思ってた!!」



観客の私は鳴り止まぬ拍手を少年に送った。虫のいい言葉を投げかけたのはテンションが上がっての事なので気にしないで欲しい。



少年はその後化け物の額の石を何故か抉り取ると私の居る木を駆け上ってきた。



「がぁ」


「凄いよ少年!!強いじゃない!!あの化け物に勝つなんて!!」



興奮冷めやらぬ私は少年に拍手をしながら褒め続けた。少年は意味も分からないだろうに、私の様子を見て嬉しそうに笑っていた。


そんな私を再び小脇に抱えると、少年は遊園地のアトラクションのように一息で木から飛び降りた。



「ぐぅえ!?」



私の体重と重力がかかり、決して緩まない少年の腕に支えられた私の体は少年の腕に乗った腹に前体重が集結し胃液を押し出した。



…しかしこれも生きているから感じる苦しみ…誰が少年を責められようか。



きっと少年は1人でしか木を降りた事がないから抱えられた私の苦しみが分からないだけだ。悪意を持ってじゃないはず…。



苦しみから目をそらす為にあえて濁った目で周囲を見渡す。


すると気付いたが、魔法を使った主が死んだからなのか、野原を焼いていた先程の炎は鎮火され焦げが残っているだけになっていた。

森に燃え広がらなそうで安心だ。



だが少年は倒した化け物を見せたいのか私の胃を完全無視し、手を引っ張って化け物の所へ連れて行こうとする。



「いいい良いって!分かってるから!!凄いってばっ!だから見せなくていいのっ!!」


「がう!ぐがぁ!」



聞く耳持たず。少年は早く!とでも言うように上機嫌で私を化け物に近付ける。


……ひやぁ!!まだ息してるじゃん少年!!


気絶はしているようだがまだ予断を許さない状況の化け物を私に見せ満足したのか、少年は化け物を肩に乗せ歩き始めた。



……え。…え!?まさか食べないよね!?ていうか私を先に洞窟に帰して!!何度も助けてもらってて悪いけどさ!



しかし少年はすたこら先へと行ってしまう。


私は化け物から逃げるのに夢中で走ってきた道など欠片も覚えていないので、化け物付きではあるが唯一この世界で信用できる少年について行くしか道は無かった…





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