第6話 「不法侵入も、定時内で強制終了します」
続き読んで貰えそうなら書き足しますね!(傲慢)
数万規模のエラーが過去最高の営業利益を叩き出した翌日。
すべてを失った老害たちが最後に指してくる悪手は、俺の頭の中の“スプシ”が弾き出した予測シミュレーションの通りだった。
「──おい黒野ぉおお!」
「 よくも、よくも俺のサウザンド・レイズを潰しやがったなァ!」
十六時五十分。
定時退勤まであと十分という、最もシステムが安定しているはずの時間帯。
最高経営責任者《CEO》オフィスの強固なセキュリティドアが、凄まじい爆発音と共に吹き飛んだ。
立ち込める煙の向こうから現れたのは、ボロボロの防具を身に纏い、血走った眼で巨大な戦斧を構えた神宮寺剛だった。
業務停止命令と資産差し押さえを喰らい、法的に完全アカBANされた“元”総帥。
その背後には、同じく破滅したブラックギルドの元幹部たちが、十数名ほど武器を抜いて殺気立っている。
「……何かご用でしょうか、神宮寺元総帥」
「我が法人の備品を損壊した不法侵入ログは、すでにリアルタイムで記録されていますが」
俺はデスクのノートPCから視線を上げず、淡々とキーボードを叩き続ける。
「うるせえ! 法律だのデータだの、ガタガタぬかすな!」
「 すべてを失った俺たちにはな、もう失うもん何もねえんだよ!」
神宮寺が唾を飛ばして狂ったように笑う。
「こうなったら物理的にお前をブチ殺して、この中野ダンジョンの全権を力ずくで強奪してやる! 国営だの何だの知るか! 最後はなぁ、純粋な『暴力』の塊が勝つんだよ!」
なるほど。法的な防壁が通用しない、文字通りの『物理的な不正アクセス』か。
だが、非論理的なバグの襲来を前にしても、俺の心拍数は一拍たりとも乱れない。
「レイジCEO、お下がりに!」
オフィスに直行してきた保安部チーフの笑歌が、即座に大剣を引き抜き、俺のデスクの前に立ちはだかった。
赤髪をポニーテールに結んだ彼女の瞳は、かつてのトラウマを完全に排除し、侵入者への純粋な迎撃ログだけを湛えている。
「エミカ! この不良品め、お前もだ!」
「 今すぐ俺の足元に跪いて泥をすすり、俺のために死線を超えるロマンに戻れ!」
神宮寺が戦斧を振り上げ、威圧スキルを発動する。オフィス内の空気が重く軋んだ。
「お断りします、神宮寺元総帥」
「私の最大出力は、レイジCEOが提供してくれた『完全週休二日』と『高品質な社食』によって、あなたたちの想像の及ばない領域に達しています」
エミカは大剣を構え、一切のブレなく言い放った。
「素晴らしいスタミナ管理です、轟さん」
俺は静かにノートPCをパタンと閉じ、立ち上がって腕時計の針を確認した。
──十六時五十五分。
「定時まであと五分です。不審者データの強制終了──今日の大ラスのタスクを開始します」
「な、ナメやがって……! ブチ殺せェエエエ!」
神宮寺の号令と共に、元S級幹部たちの残党が一斉に俺たちへ向かって突撃してきた。
正面から斬り合う? 泥臭い白兵戦?
非効率極まりない。
ここはダンジョンの内部ではなく、俺がすべての魔力構造をコードとして書き換えた『CEOオフィス』だぞ。
「【魔力構造可視化】──関数:一括セル削除」
俺がデスクの上のマクロスイッチをパチンと押し下げた、その瞬間だった。
神宮寺たちが踏み込んだオフィスの床、“タイルのグリッド線”がパッと青く発光したかと思うと、次の瞬間、彼らの足元の床の『質量データ』が文字通り消滅した。
「ぶ、ぶわあああああ!? 床がねえええええ!?」
突撃してきた幹部たちが、慣性の法則に従って、そのまま床に開いた巨大な暗黒の『エラーピット』へと次々に直滑降で吸い込まれていく。
それは、俺が事前にオフィス下層へ直通するように再配置しておいた、全自動素材回収ラインへと繋がる「廃棄用シュート」だった。
「ひ、ひえええ! 助け──」
かつてのS級冒険者たちが、ただの粗大ゴミのように一瞬で一括削除されていく。
「お、おのれ黒野ぉおおお!」
ただ一人、気合いだけで穴の縁に踏みとどまり、戦斧を振り下ろそうとする神宮寺。
「轟さん、トドメを。定時退勤の邪魔は許しません」
「──了解! 残業時間、〇分でシャットダウンします!」
エミカが駆ける。
十分な休息と適切な栄養を摂取した彼女の肉体は、文字通り神速。
神宮寺が戦斧を振り下ろすよりも早く、エミカの大剣の腹が、神宮寺の分厚い腹筋へとジャストミートした。
ドウゥゥゥン!!
「がっ、はぁあああ!?」
凄まじい衝撃波と共に、神宮寺の巨体がオフィスの壁を突き破る。
そのまま外のベルトコンベアへと、綺麗な放物線を描いて転がり落ちていった。
不正アクセスに対する、完璧な“ファイヤーウォール”(物理)の作動だ。
ジィイイイン……。
今日も中野の街に、十七時を告げる定時退勤のチャイムが美しく響き渡る。
「轟さん、お疲れ様でした。定時です」
俺はデスクに戻り、書類カバンを手に取った。
“保安チーフ”は今日も嬉しそうに、
「はい、レイジCEO! 今日も残業時間、〇分ですね!」
俺たちは二人並んで、美しくカチャリとタイムカードを押した。
ブラックギルドの完全なる崩壊と、中野ダンジョンの完全なホワイト化というログを頭の中の“スプシ”に刻みながら、俺は“今日も”スマートに私服へと着替えるのだった。
──第一部・完。
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【中野ダンジョン・本日の業務報告】
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・防衛実績:オフィスへの物理的不正アクセスを強制終了
・本日の営業利益:7,890,000ゴールド
※元総帥の戦斧(S級武器)を素材として回収・売却した利益を含む
・CEOレイジの残業時間:0分(定時退勤)
・保安チーフエミカの残業時間:0分(定時退勤)
・人身事故・死亡者:0名(25日連続完全無災害)
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