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傾ぐ世界(均衡の彼方)  作者: 斎王暁圭
第一部 兆し

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第一部 第六章 報告

2026.09.29

一部修正。


 五日目。

 外の景色が一変した。

 岩山は遠ざかり、辺り一面緑の畑が広がっている。

 水を含んだ土の匂いが風に乗って飛んでくる。

 馬車に揺られながら、リオンは深く空気を吸い込んだ。

 気持ちいい。

 不思議と体の末端まで、全身が歓喜しているのがわかる。

「神殿の近くは魔力が豊富だから、とても気持ちいいわよね」

 リオンと一緒に揺られていたエリシアが声をかけてきた。

「こんなに気持ちのいい空気は初めてです。ちょっと村から離れただけなのに、こんなにも違うなんて、驚きだなぁ」

 遠くで男の声が聞こえた。

 見ると、緑の間に点々と人の姿があった。

「畑仕事してる人たち、ラーソン村より小柄だね」

 そばでユルトが吹きだした。

「比べる基準が規格外だろ。ラーソン村の連中は、かなり厳ついからな」

「え…『規格外』ってどういうこと?」

 リオンは混乱した。

 今までの常識が、根底からひっくり返されるような、あるいは、もっと大きな変化が起こりそうな予感がした。

「おれは細っこくて、ラーソン村じゃできる仕事が見つからないと思ってたんだけど。…もしかして、ラーソン村が変なの?」

「もしかしなくても、中々に珍しい村だぞ。国中の力自慢を集めたんじゃないかってくらいにな」

 リオンは目をしばたたいた。

 口には出さなかったが、「村を出たのは良い判断だったかも」としみじみ思った。

 そのまま揺られること少し。

 リオンは緑の風景に見入っていた。

「神殿が見えてきたぞ」

 御者台にいたガレスが声をかけてきた。

 西の神殿はコリトナーの町の奥、岩山を背にした高台にあった。遠目でもそれと分かる、他の家並みからは外れた場所だった。

「神殿って村長の家よりずっと大きな建物なんだね」

「神官が暮らしているから、中はそれなりに広いのよ。昔の名残で役場としての役割もいくらかあるからね」

「じゃあ、神官様もここに住んでるんですか?」

 リオンの問いかけに、エリシアは困ったように笑った。

「神殿には神官が大勢いるから、私の事は名前で呼んでほしいわ。皆混乱するしね。『エリシア』でいいの」

「んー…」

 リオンは、一瞬悩んだが、静かに頷いた。

「エリシア…さんやユルトさんが住んでるの?」

 躊躇いながらリオンは尋ねた。

「ははははは!さん付けで呼ばれることはないなぁ。大神殿はお堅いんだろうが、こんな地方の神殿はもっと、こう、砕けてる」

 さん付けで呼ばれたユルトは、豪快に笑い飛ばした。

「後でみんなと顔合わせはするけれど、神官長だけよ、特別な呼び方はね。みんな家族みたいなものだから」

「ふーん」

 母ニーナしか家族のいないリオンにとって、『家族みたいな』集団がどんなものなのか、ぴんとこない。

「あ、ガレスに『さん』は付けてないや。そういうことか」

 なんとなく、ずっとガレスは名前呼びをしてきたな、と思うと、もっと若いエリシアを名前で呼ぶのも平気な気がしてきた。

「そうだぞ」

 ユルトが手を伸ばして、リオンの頭をぐわしっと撫でた。

 髪に触られて、リオンは咄嗟にユルトの腕を掴む。

 両手でしっかりと握りしめた腕を見、腕の主を見て、リオンはどきりとした。

 髪に気づかれては困る。

「ごめん。びっくりして。」

 慌ててリオンは失礼な態度を詫びた。

 過剰に反応したリオンの様子に、ユルトが思い出したように尋ねた。

「…そうか、染めてるのか」

「髪を?」

 エリシアの言にユルトは頷いた。

「あの時の赤ん坊、色の薄~い金髪だった。成長して色がしっかりしてきても、髪の色が薄いんだろう?」

 ユルトの言葉に、リオンの心臓が跳ねた。

「あ、あの…」

 しどろもどろになって、御者台にいるガレスに救いを求めようか悩んだ、刹那――。

「リオンは染めている。ニーナが隠しているがな。」

 リオンは激しく動揺した。

 髪の事は内緒だと、神殿に知られてはいけないと母ニーナに言い聞かされている。

 村の誰よりもリオンたち母子と親しくしているガレスなら、そのあたりの事情は知っているはずだ。

 子どものリオンでも、ニーナが村長とガレスを特別信頼しているのはわかっていた。

 それなのに――。

「…どうして言っちゃうの?」

 ガレスはきっぱりと言い切った

「神官長が寄越した人間だからだ」

 そのやり取りを聞いていたエリシアが助け舟を出す。

「神殿では、髪を染めている人はいるわ。わざわざ『染めてる』とは言わないけれど、目立ちたくないのよ。でも、先に知れてよかった。染料を用意するわね。今は…まだ大丈夫」

 リオンの頭髪を確認して、エリシアが染料の手配を引き受けてくれた。

「ありがとう、ございます。染料は母さんに持たされてたけど、なくなったらどうするか、考えてなかった」

「リオン、もっと頼ってちょうだい。あなたが特別なのは、神官長から聞いているから、秘密は守るわ」

「そんなふうに言われると…おれ、自分の事わかってないかも」

 改めて『特別』と言われても、神官になれるというのがどれくらい『特別』なのか、リオンには見当がつかない。それ以上の『特別』はなおのことだ。

 体格の事といい、今までは『ラーソン村』が全ての基準だったと気付かされたリオンだった。

「ユルト、代わってくれ」

 御者台からガレスが声をかけてきた。

 ユルトは「おう」と短く返して、馬を走らせたまま御者を交代すると、ガレスが馬車に入ってきた。

「神殿に着く前に、話を合わせておこう」

 そして、ガレスはリオン、エリシアと打ち合わせをした。

 決めたのは、リオンはラーソン村出身の行商人の子どもで、ラーソン村育ちという事。これは、母ニーナを隠すためにも必要な嘘だと理解した。

 次に、リオンの外見的特徴をまとめた。

 今のリオンは濃い茶髪をしている。本来は薄い金髪なのだが、それは隠さなくてはいけないらしい。目の色は誤魔化せないので、正直に『青味のある灰色』とした。肌は日に焼けているのだが、色白なので殆ど黒くならない。見たままの色の『薄い』になった。

「魔力の高い人は、色の薄い人が多いの。だから、神殿は『色』に拘るのよ」

 リオンはなるほど、と思った。

 昔、ラーソン村から神殿に入った子どもがいた。他の子どもたちより色が薄く、よく体調が悪いのかと間違われていた。

「そうだ。カイラ…には会えるのかな?」

 古い記憶を引っ張り出していて、つい口から言葉が出て驚く。

「あ、もう、あんまり覚えていなくて。会えなくても…」

「ふふ、ちゃんと紹介するわよ。カイラも、村の事を覚えているかどうか。すっかり『神殿の子』よ」

 少し、心配そうにエリシアが笑った。

「最後に、リオンの能力はどう報告する?」

 ガレスが確認する。

「そこは神官長と相談します。でも、『魔力が高い』と報告することになると思います。変に『確認中』と記載して注目されるのは避けたいと思うので」

「そうだな。ついでに、魔術は全く使えないでいいか?」

「そこは、はい。僅か数日でなんて、早すぎて不自然ですから」

 リオンは胸が痛んだ。

 せっかく人とは違うことができるようになったのに、誰かに聞いてほしいのに、それができない。

 苦しい。

 しかし、ガレスはリオンに目の高さを合わせて、念押しする。

「リオン、お前はこれから魔術を学ぶ。『今は』何もできない。いいな?」

 ガレスの目を見つめる。

 強い視線だ。

 リオンは、憧れていたガレスに近づけるのだろうか。

 剣ではなく、魔術だとしても。

 師の言葉に自分の未来を委ねる。

 リオンは、決意を込めて力強く返事した。

「はい!」

 だが、緊張するのは止められない。

 今ここで、自分の大事な事が決まっていく――

 掌に嫌な汗が溜まる。

 ガレスが固くなったリオンを気遣う。

「演じる必要はない。お前は『魔術が使えない』のが当たり前だったろう」

 言われてはたと気づく。

「あ…」

 今までと変わらない。『行商人の子』というオマケが付いたくらいだ。

「村を出たのも神殿に行くのも、初めての事ばかりで緊張しちゃって…」

 掌の汗をズボンで拭いながら笑おうとして、一気に顔が赤くなる。

 なんで、当たり前だったことにこんなに緊張しているのか。ひとりで舞い上がっていたみたいで恥ずかしい。

 ガレスがリオンの背中をひとつ叩いた。

「難しいことはない。もっと気楽にしていろ」

 リオンは、ガレスが付いてきてくれたことに心の中で感謝した。


 昼をいくらか過ぎた頃、コリトナーの町に入った。

 視線を上げれば、神殿と思わしき建物の一部が見える。

 馬車に乗ったまま、町の中を進む。

 生成色の服ばかりだったラーソン村とは違い、染めた服を着た人たちが多いのに驚く。

「いろんな色があるね」

 建物は石造りが多い。しかし、家々の間には、木と布で作られた家もあった。

「家を布で作って、大丈夫なの?」

「家、というより露店だな。行商のようにその日その日で店を出すから、簡単に移動できるようになっている」

「ね、あれは何?」

 初めて目にする物に興奮するリオンに、ガレスは説明してくれた。

「着いたぞー」

 御者台からユルトが声をかけた。

 山影になった開けた場所で馬車が止まる。

 馬車から降り、リオンはぽかん、とした。

 そこにあるのは、他の家より大きなだけの、木の扉のついた石造りの建物だった。

「くっくっく!」

 ユルトが笑っている。

 後ろで、エリシアのため息が聞こえた。

「揶揄うな。リオン、こっちだ」

 荷物を持ったガレスが、リオンを促した。

「どういうこと?あれが神殿じゃないの?」

 前を行くガレスに声をかける。

「あっちは役所の方なのよ。神殿はこの上…」

 そう言って、エリシアは建物の上を指さした。

 遠くから見えていた建物が、そこにあった。

「役所の裏から繋がってる。階段だが登れるか?」

 ちょっとうんざりしながら、リオンは応えた。

「いつもなら登れるよ。でも、ずっと馬車に乗ってたから、身体が鈍ってると思う」

「馬車でも行ける道はあるの。神殿はこの山に沿って建ってるから、建物によっては下の方にもあるのよ」

 三人は無言で階段に足をかけた。

 少し上がると屋根のある場所に出た。

「ここはまだ一般人が出入りできる階。私たちが行くのはもっと上よ…」

 エリシアが再びため息交じりに言った。

「中の階段を使おう」

 言うが早いか、ガレスが先に進んでいく。

 リオンは、ひとつため息を吐いて後について行った。

 もう一つ上の階層は、石造りの部分と木を組み合わせた部分が交じっていた。

「木でも建物って作れるんだね。聞いたことはあったけど、初めて見たよ」

「上まで石を運ぶのが大変だったんだろう。この辺りも昔は石切りをしていたと聞くから、切り出した後に建てたのかもな」

 遅れてエリシアが到着した。

「この上は、神官の居住区なの。先に神官長に報告してこないと」

 今度はエリシアが先を進んだ。

 迷路のような回廊をいくつか通り、がっしりとした木製の扉の前で止まった。

 コンコンコンコン、とエリシアが扉を叩くと、すぐに中から返事があった。

「エリシアです。戻りました」

 エリシアに促され、リオンは部屋に入る。後ろからガレスも入ってきて扉を閉めた。

「お久しぶりです」

「お?おお、ガレスか!元気そうだな」

 部屋にいたのは、白髪の老人――にリオンには見える――ひとりだけだった。

「エリシアも。疲れたろうに、大儀だった」

 エリシアは、無言で頭を下げた。

 神官の白い衣装を纏った老人は、ゆっくりと席を立つと三人の方に歩いてきた。

「君がリオンだね」

 やや腰をかがめて、老人がリオンに声をかけた。

「はい」

 再び緊張して、リオンの声が上ずる。

 老人は、リオンをじっと見つめてから、目を細めて微笑んだ。

「緊張しなくてもいいんだよ。私たちは君に沢山のことを教えられる。でも、君にしかできないことがあるんだ。それは、君自身で選んで欲しい」

 そこまで言うと、エリシアの方を向いて言った。

「エリシア、休ませてあげなさい。部屋はもう準備ができているからね」

 エリシアは「はい」と返事をして、リオンを連れて退室しようとした。

 踵を返した二人を、神官長は呼び止めた。

「君とは後日ゆっくり話をしたい。今日はゆっくり休みなさい」

 リオンは「はい」と返事をすると、頭を下げて退室した。

 再び回廊を進む。今度は二人で。

「マレク神官長は、私がここに来る前から神官長をなさってるの。みんなから敬愛されているわ」

「神官長様は、ここで一番偉い人?」

「そうよ。神官長の下に副神官長がいるわ。他に、神官が十五人ほどと見習いの子どもたちが数人ね。」

 歩きながら会話する。

「子どもっていくつくらい?」

「リオンは十五歳だったかしら?カイラが一番上の十四歳。で、一番下が十歳ね」

 リオンは、頷いてから見えてないことに気付いて「はい」と返事した。

 何度か階段を上り、等間隔に小さな扉が並ぶ通路に出た。

「ここは神官たちの部屋。小さな子どもは複数人で一部屋になるけれど、今はいないから、みんな一人部屋ね」

 ある扉の前で止まった。

 そこには「リオン」と書かれた木の札がかかっている。

「一応、ここが用意した部屋だけど、空き部屋は沢山あるから、変更したかったら言ってちょうだい」

 エリシアが取っ手を回した。

 そのまま扉を開け、リオンに入室を促す。

「机の上に鍵があるから使ってね」

 一歩二歩と部屋に入る。

 自分の部屋と言われて、変な感じがした。

「これ、ひとりでいいの?」

「ここではこれが普通よ。気に入らないかしら?」

 リオンは激しく首を振った。

「気に入らないとかじゃなくて…慣れなくて。なんていうか、ちゃんと仕切られてるの、初めてだから」

 エリシアは、少し首を傾げている。

「よく…わからないけど、これがここでの『普通』なの。慣れてもらうしかないのだけど。中の案内は後でするわね。私も荷物を置いてくるから」

 そう言って、エリシアは鞄を揺らした。

 言われてリオンも荷物の重みに気づいた。足元に荷袋を下す。

「はい。では後で、よろしくお願いします」

 リオンの返答に満足そうに微笑んで、エリシアは扉を閉めた。

 ひとり、改めて部屋の中を見回す。

 机と椅子、しっかりした寝台。荷物を仕舞う棚と荷箱。

 ここで暮らすのか、と実感が湧いてきた。

 同時に少し、心細い。

 机に寄って鍵を手に取った。

 小さな金属製の鍵だ。

 しかし、リオンの家はつっかえ棒をするだけで、鍵なんて立派なものは付いていなかった。

 何の変哲もない、ただの小さな鍵が、とても大切な宝物に思える。

 ラーソン村では感じたことのない高揚感とこれからの不安を胸に、リオンは鍵を胸に抱きしめた。


 その夜。

 リオンは中空を漂っていた。

 既知のその感覚に、そっと目を開ける。

 もう見慣れた、真っ白い世界だ。

 しかし、何やら落ち着かない感覚がある。

 暫く観察し、それが魔力の流れだと気付く。

 酷く疎らで、消えそうなほどに薄い所があちこちにある。

 その希薄な部分に、直感で恐怖を感じた。

 無意識に魔力の濃い部分を探す。

 遠くに一点、とても強い魔力を感じた。

 その魔力に懐かしさと安心感を覚える。

 近づこうとして、でも、手足は上手く動かない。

 四苦八苦して藻掻いてみるが、変化した様子はない。

 そこで漸く魔術を使うときの感覚を思いだした。

 この空間で、自由に動き回る様を想像する。

 と、少しだけ近づいた気がした。

 安堵した、刹那――

 視界いっぱいに魔力の希薄な空間が現れ、リオンを包み込んだ。

「!!!!!!」

 声にならない悲鳴を上げる。

 全身に強い圧力を感じて、息が詰まった。

 目を開ける。

「はぁ、はぁ、はあ…」

 肩で息をしながら、身体を確かめた。

 全身汗でびっしょりだった。額に張り付いた髪が気持ち悪い。

 水を飲もうと寝台から降りようとして――落ちた。

 体に力が入らない。

 服の襟元を寛げる。

 と、首にかけた銀の指輪が飛び出てきた。

 慌てて服の中に隠す。誰も見ていないのにだ。

 服の上から指輪を押さえ、ゆっくりと呼吸を繰り返す。

 何度か繰り返すと、だいぶ楽になった。

「ふぅ…、良かった」

 手の中の固い感触を確かめる。

 母ニーナに持たされている『父さんの形見』という指輪。

 物心つく前から持っているので、リオンにとっては『お守り』だった。

 なにか困ると、無意識に指輪を握りしめてお祈りするのは、癖になっていた。

 今日も、助けてくれた――そう思った。


 切り立った崖の上、風に乗るようにふうわりと浮かんで、彼女はいた。

「あの歪を止めたか」

 遠くに意識を向ける――が、主は沈黙したままだ。

 風に揺れる髪を指に絡め、少し、考える。

「共鳴するか?面白い」

 ぽつりと呟く。

「リリ、排除しますか?」

 独り言に質問が返ってきた。

 弄んでいた銀の髪を払い、『リリ』と呼ばれた彼女はゆっくりと振り返った。

「否。放置せよ」

 音もなく現れたのは、明け方の空のような紺青の髪をした女性だった。

「御意」

 ひと言残し、紺青の髪の女性は姿を消した。

 誰もいなくなると、今度は意識を中央神殿に向ける。

 そこには、長らく観察している少女がいる。

 突然現れた少年が、少女にどのように影響するか興味深い。

 主の思惑がわからない以上、リリは今ある駒を観察することにした。


 同じ頃、中央神殿。

 血色の悪い神官が一人、巨大な装置の前で唸っていた。

「おかしいな…歪が消えた?あの規模の魔力の歪なら、地震になって現われてるはず…」

 装置の横に積み上げられた書類の山を漁る。

 数日前に、突然高値を上げたミリヤの魔力。

 今回の異常。

 関連はあるのか――

 部屋の外を覗くが、誰もいない。

 無理もない、深夜だ。

 仕方なく、書類を手に急ぎミリヤのいる部屋へと向かった。

 奥神殿最奥では、深夜にも関わらず護衛が立っていた。

 中では、女神官が二人、寝台の横でミリヤの様子を確認している。

「大きな魔力の歪があったが、こっちに異常はないか?」

 端的に問う。

「痙攣を起こしたと思ったら、すぐに落ち着きました。私達も確認中です」

 ひとりがすぐに応じた。

 もう一人が付け加えた。

「なにか、別の魔力を感じた気がしたのですが、すぐにわからなくなりました」

「それは確かなのか?」

「はっきりとは…」

「いえ、私も感じました。誰とも知らない魔力です。一瞬でしたけど」

 三人は沈黙した。

 誰も答えを持ち合わせていない。

「今結論を出すのは早計だな。些細なことでいい、気づいたことがあったら報告してほしい」

 神官は、持っていた書類にメモを取ると、すぐに部屋を出た。

 考えることは山積みで、時間が惜しかった。

 この神官に、西の神殿からの報告書は届かなかった。

 そこにはこう、記されていた。

『ラーソン村にて有望な若者を保護する。魔力量高値。育成対象として観察予定』と。



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