本当に怖い怪談話
俺は、長野県北部のとある民泊施設にいた。ここには俺のほかに9人の男女が集まっていた。俺たちは社会人オカルトサークルだった。今日はお盆期間でサークルの大人数が集まれそうということでこうして怪談を持ち合う会として集まったのだ。ここはのどかな村の古民家ですでに時間が8時も回っていることがあり、とても雰囲気が出ていた。
「じゃあ次は俺が話すか」
サークルのリーダー的な存在のタダノと名乗る男が切り出した。このサークルでは基本みんな偽名を使っている。恰好つけているとかではなくこのサークルの始まりが古いSNSだったことからユーザーネームで呼び合う文化があり、それが継承されていったという。
タダノが今夜怪談を話すのは3人目だった。タダノは話し始めた。
これは池袋で友人の身に起きた話だ。確か10年だか15年くらい前だったかな。
その友人は先月に離婚したとかで、離婚調停に負けて娘さんが元奥さんの方に行っちゃって。凄く落ち込んでいたんだ。とても仲の良い家族だったんだけど友人がガールズバーに行っちゃってな。そこを興信所の人に写真を撮られやれ、浮気だの言われたそうだ。
本人はでっち上げられたって言ってたが本当はどうかわからない。
まあそこはさして大事じゃないからな。まあ、そんな感じでひどくやさぐれて、休日は昼から酒を飲んで街中をふらついてたらしい。
そういう時に、怪しいバーだか、パブだか分からない店を見つけて、酔いも覚めてきたことだし追加で飲もうと入ったそうだ。
でそこはなんか怪しげな場所で飲み屋ではなかったと。なんか受付があってその先にカーテンで仕切られた空間があったって言ってた。急いで出ようとするとカーテンの奥から声をかけられたと。
「お兄さん、困っていることあるでしょう。私がチャンスをあげてもいいわよ」
女の声だったそうだ。でまあ、自暴自棄だったもんでもう話だけ聞くだけ聞いてみるかと思い、カーテンの奥に行くと真ん中に机がありその先にベールで顔を隠した女がいたそうだ。
あっ、ここは占い屋だったのかという事で、椅子に座ると女はこう言ったそうだ。
「あなたが私の出すお題に答えられたら、あなたの願いなんでも叶えてあげますよ」
友人は酔ってたもんでまあ口は軽い方だから話に乗ってみたんだとか。
「嫁さんと最愛の娘に逃げられちゃって、復縁とか出来るのかって?」
確か、そんなことを聞いたらしい。
「はい、お題を達成出来たらね」
凄い美人だったとは友人は言ってた。ベールをつけていたんだろとか野暮な突っ込みはやめろよな? んで、こうも聞いたそうだ。
「もしあんたの願いを叶えられなかったら?」
女は不敵な笑みを浮かべてこう答える。
「あなたの一番大切なものをいただきます」
友人はもう失うものなんかないし、どうせ嘘だろうから話しに乗ってみるかと思ったそうだ。
それで出されたお題は確か日本のすべての鉄道駅に行くことだったらしい。
まあ、さっき言った様に昼から酒を飲むような生活をしていたぐらいだから、新しい趣味として始めるかと始めたんだ。俺も何か所か付き合ったよ。
確か5年くらいかかったかな?途中で友人は転職とかもしてさ。いい経験にもなったって言ってた。
それで、全部の駅に行った翌日に元嫁さんから連絡が来たと。興信所が証拠をでっち上げてたって掴んだらしいんだ。それで泣きながら謝ってきて。良ければ復縁しないかって言われたと。
友人は喜んでオッケーと伝えたらしい。
それで、ここからが本題だ。その話を友人はAという人物に話したんだ。そいつはT芸大を卒業したもののなかなか上手くいかずに困っていたから冗談半分に例の店に行ったそうだ。
でもそこで、出されたお題が地球で一番高いとこの石を家に持って帰れだったもので笑いながら無理だろうと友人と話していたんだとか。
そしてその翌日にAは交通事故に遭い両腕を切断することになったんだ。
「これが、俺が最近思い出したマジの怪談だよ」
タダノはそう話す。
本当にありそうな話しで俺は感心する。
「ふーん、面白かったわ。でも、離婚周りの話しの中で矛盾があるのはいただけないわね。それに、どこか都市伝説の文京区の魔女みたいじゃない」
長い黒い髪をした女が言う。確か山本五郎左衛門とサークルでは名乗っていたはずだ。このサークルでは最古参の1人でどこかの大学の教授だとか聞いたことがある。
文京区の魔女は昔から知られる都市伝説だ。文京区には本物の魔女がいる。そういった話の集合体だ。
「山本さん、じゃあもっと面白い話聞かせてくれよ」
タダノが期待したように声をかける。
「ええいいわ。これは私が四国のとある寺院の書物から読み解いた話よ」
山本は話し始めた。
これは、安土桃山時代のある村で起きた話よ。
村人が夜集まって今の私たちみたいに妖怪とか妖の怖い話をしていたそうなの。当時は今と違って娯楽もないし外は出歩けないから色々考えた末の文化だったのでしょうね。
ある意味では『デカメロン』みたいなものだったのじゃないかしら?
それでその時偶然村に来ていた商人の男が4番目に話し始めたの。津の国のある山には話の4番目にその名前を呼ぶと怒り狂って現れる怪物がいるって。
その話をし始めたとき語り部の男は怖くなって逃げ出したそうよ。
夜の闇の中、村から出たことのない男は森の中迷いながら明かりを見つけて、そこに駆けこむとお寺だったみたい。
それで何かの縁だと思って出家した。そういう話しよ。
これでおしまい。
「4っていうのは漢字文化圏だと忌み数だしその辺と関係あるのでしょうね」
山本は言う。
「それだけ?オチはないのか?その呼んではいけない名前は?」
タダノが捲し立てるように聞く。俺も同じ気持ちだった。
「こういうのって何でオチがないか考えると色々と見えてこない?」
山本は言う。
「それはないっすよ。山本さん、ここまで期待度あげておいて!」
サークルのメンバーが言った。
「本当はね、その名前知ってるのよ」
山本は言った。
「マジっすか聞かせてください」
俺は間髪入れず発言する。その場の皆が同意の姿勢を見せた。
その様子を見て山本は不気味な笑みを浮かべた。
「■■■■■■っていうのよ」
ガタン
どこかで物音がした。
建物の入り口だ。
ピンポーン
インターホンが鳴らされる。
「おいおい、何の冗談だ?」
タダノが笑いながらビール缶を開けて言う。
ピンポーン ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン
何度も何度もインターホンが鳴らされる。
そのあと金属が悲鳴をあげながらひしゃげる音がした。
「おい、これやばいんじゃないか?」
誰かが青ざめた顔をして言う。
ダバダバダバダバ!
不規則な足音が駆け寄ってくる。
人間のものではない!
それどころかまともな生き物の足音には聞こえなかった。
「ああ、やっぱりこういう事なのね」
山本五郎左衛門の恍惚する表情を俺は最期に見た。
いつもお読みいただきありがとうございます。
作者のカーネルシトラスです。
3章は9/25から毎週月曜、水曜、金曜日に更新していく予定です。
どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。
カーネルシトラス




