第7話 捜査の歩み
坂上祭のアパートを訪れた後、僕はSNSを開いた。今朝、ここに来るまでの電車の中で坂上祭の元カレと思われるアカウントを見つけた。そして話を聞けないかと連絡を入れたのだ。その返信が来ていた。この後、3時からS大学の近くでなら会えるとのことだった。そのため、S大学のある四ツ谷駅へ向かった。
四ツ谷駅のアトレ前を待ち合わせの場所にしており、無事集合できるか少し不安であったが事前に服装を聞いていたためすぐに会うことができた。
中野学と名乗る男はやせ形で、身長が高くマッシュルームのような髪型をしていて(どうも最近の流行りらしい)どこにでもいるような顔立ちであった。
アトレ内の大人気チェーンカフェに入り、ようやく話を聞くことになった。
「祭が行方不明になったというのは本当なんですか?」
「残念ながら事実です」
「そんな・・・。それでどうして俺に話を聞こうと?俺はとうに別れた関係ですよ?」
そう中野は質問してきた。
「中野さん、あなたは坂上さんと付き合っていた際、ストーカーのように付きまとっていたと聞きます」
「ええ、それは間違いないです」
中野はそこをあっさりと認めるようだった。
「でも、それは寂しかっただけなんです。正直S大学に入学して群馬から東京に出てきて何もわからないときに祭は優しく声をかけてくれて。初めは田舎者仲間みたいな関係だったんすよ。
でもそこから講義がかぶったりで話していくうちに意気投合して付き合うことになって。そこまでは良かったんですけど、告白をオッケーしてくれたことを俺のすべてを受け入れてくれたように勘違いしちゃって。
そこからはストーカーって言われても仕方ない執着をしていたと思います。でも、祭のマブにきつく言われて、別れる時にしっかりと気づいてやめたんすよ。俺が間違えてるってはっきり言われて目が覚めたんです。
それ以降はただの友達の関係です。2人で遊びに行くこともなかったっす」
中野は必死に語っていた。話を聞く限り嘘はついていなさそうだった。一応つい先ほど聞いたことについても質問してみる。
「坂上さんと連絡が取れなくなる直前に男性と言い争いになっていたという証言がありました。何か心当たりがあったりしませんか?」
「いや、無いです。でももし彼氏なら祭が俺に言わないわけないっす。いい相手が見つかるように応援するって言ってたし、なんだかんだ大学で恋愛相談受けてたんすよ。ほら、俺相手だと恋愛相談をすることで変に気を持たれることがないだろうからって。話しやすかったんだと思います」
「ふむ、なるほど。ありがとうございます」
結局、言い争いをしていた相手について痕跡を辿ることは無理そうだった。
「探偵さん。祭を助けてやってください!俺が言うのはどうかと思いますが、あいつがダチからの連絡を無視する奴じゃないことは誰よりも知ってます。どうかお願いします」
中野は席から立ち上がり僕に頭を下げた。あまりの迫力にあっけにとられてしまった。
「困ったな。何というかそうだな。可能な限りは手はつくします」
中野は自分とそう年の変わらない見た目の、その実年下の変な風貌をした男に頭を下げてお願いしてきたのだ。その気持ちをうまく受け止めることはできなかった。
依頼人と中野の話から坂上祭の周辺の人物から言い合いになった男の影は見られなかった。そのため僕は翌日の朝一から千葉に向かう列車に乗っていた。坂上祭の両親に話を聞くことを目的にだ。
坂上祭の両親が住む家の住所は事前に依頼人である清水明日香から聞いていた。必要な情報は何でも事前にまとめている良き依頼人である。ここまで調査を行う中での彼女に対して抱いた感想である。大学生であるという彼女よりも大雑把な依頼人のなんと多いことか。
探偵事務所に来た際に彼女はスマホでメモを見ていた。やはりデジタルが身近にあるのが理由だろうか。いや、きっと彼女の気質なのだろう。彼女の発していた言葉の節々を思い出しながらそう考えているうちに流山駅に着き僕は電車を降りた。
流山駅からバスに乗り15分ほどの停留所で降りる。ここからそう遠くないはずだ。少し歩き、伝えられた住所まで後右折を一回という時、十字路に赤い回転灯の光が点滅しているのが見えた。
嫌な予感がする。
光はまさに僕が曲がろうとしている角から発されているように見えた。
坂上祭の両親の暮らしている、いや正しくは暮らしていた、なのだろう。その家の周りにはたくさんのパトカーと救急車が停まっている。家の周り全体にブルーシートがかけられており中を見ることができない。これは異常なことである。何か事件があったとしてもここまで隠ぺいする必要はないはずだ。
あまりの厳戒態勢に地域住民も集まり不安を隠せないようだった。僕は聞き耳を立ててみる。
「あんなひどい状態じゃあねえ、実際見たわけじゃないけど凄惨なことになってるに違いないわ」
警察が来る前に現場を見たであろう女性が言っているのが聞こえた。
ブルーシートがめくれ玄関前がちらりと見える。そこには2つの足跡が残っていた。足跡は本来コンクリートに埋め尽くされた現代社会にはほとんど残ることがない。しかしそこにははっきりと足跡が残されているのを見た。血で残された足跡が。
大きさからして足跡を残した2人の間には体格の差がありそうだ。それこそ男と女なのかもしれない。
何が起こったのか詳しく警察に聞きたかったが、あいにく千葉県警には知り合いがいない。それにサスペンス小説のように私立探偵は刑事事件の調査に加わることはない。なので聞いたところで無駄であろうことが明白だった。
ここで何があったのか確認を取れないとおそらく坂上祭の失踪についてこれ以上追うことはできないだろう。
僕はここで何が起きたのか知りたいと心の中で何度も唱えてから眼帯を外し左目を開けた。すると僕の視界の半分に断片的な画像とも映像ともいえない何かがあふれ出るように流れ出した。




