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魔性狩り  作者: カーネルシトラス
狂言/般若

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第6話 転換点

 デカデンティア探偵事務所を訪れた後、私はどこにも寄り道をせず家に帰った。慣れないことをして疲れていたことと、その日の夕方にアルバイトのシフトがあったからだ。


 家に帰り少し休んでから、バイト先の新宿駅前のレストランへ向かう。


「あれ明日香、なにかあった?普段に増して疲れているように見えるよ?」


 バイト仲間でK大学経済学部2年の酒巻知恵さかまきちえが声をかけてくる。


「ちょっとね。最近色々あって」

「明後日、渋谷に行こうと思うけど、良ければ一緒に行かない?ほら気晴らしも必要だよ?」


 祭の安否が気になる中遊びに行くことに少し気が引けたが、調査は浜野と名乗る探偵に依頼したのだ。これ以上私がひっかきまわすより一度落ち着いたほうがいいのかもしれない。そう考え了承することにした。


「わかった。ハチ公前に集合でいい?」

「りょー。じゃあ10時に集合で、今日もバリバリ働きましょうか!スーパーウェイター明日香様にはご期待してます」

「ちょっと。それ褒め言葉じゃないよね?」


 このレストランは社員アルバイト含めて女性が多い。そのため少し力持ちである私は頼られるのと同時に剛力として過度に茶化されがちであった。


 幼馴染が行方不明になったというのに私は何事もなくバイトをこなせてしまった。思っていたよりも私は薄情なようだ。4時間のシフトを終え、いつも通り帰路に就く。


 知恵からは、また明後日と言われた。


 電車に揺られる途中南から13日の予定を聞かれた。いつもバンド練習に使っているスタジオを取れそうだというのだ。私はオッケーと連絡を入れ、明日サークルでの練習も行けそうだと連絡を入れた。葉山と南も来れるようであった。


 祭のことを気にしなくてはいけないはずなのに私の予定はどんどんと埋まっていった。祭のことに集中したいのであれば断ればいいだけの事なのにこれらの予定は私を構築する大切な日常であった。


 翌日、私はT大の軽音サークルで借りた下北沢のスタジオに集まって練習をしていた。途中で先輩とロック論を語ることもあった。


 夏休みということでなかなか会えていなかった人たちにも会うことができて楽しい時間を過ごすことができた。ストーリーズの演奏の上達という意味でもためになる時間であった。


 私の大学生活。


 祭がいなくても成立する楽しい時間だ。ふと、私にとってあまり祭と過ごしている時間は多くないのだと感じた。いや、それは私が会ってきたすべての大切な人も実際に過ごしている時間はわずかなものなのだろう。そのわずかな時間で相手に価値を見出して大切な記憶にする。それが大切な人なのだろう。もし祭と今後会うことができなくなったら?これまで過ごした時間が私にとっての祭のすべてになってしまう。もしそうなったら寂しいな。そう私は思った。


 サークルの活動が終わり、御茶ノ水駅でいつも通り夕食を買いながら、祭にメッセージを送った。当然既読が付かなかった。


 「ただいま」と父に挨拶をして帰宅する。父の様子から祭の両親から何か連絡が来た様子はなかった。


 両親には私から連絡をしたほうがいいのだろうか?しかし何もまだわからないのだ。もしかしたら私が避けられているだけかもしれない。いったん浜野からの報告を待つことにした。


 これがただの逃げであることは私にもわかっていた。でも翌日の集合が早いことから今日はすぐに寝ることにした。


 翌朝、私は自室で渋谷巡りということでどんな予定なのかしっかり聞いていなかったなと思い反省していた。どんな服装で行くか悩み無難な格好で行こうと決めるまで20分ほどかかってしまった。


 家を出て御茶ノ水駅に歩いて向かった。JR中央線に乗り新宿駅で乗り換えるつもりが疲れからか、あるいは普段一人で渋谷に行かないため勘違いにより上下線を乗り間違えてしまった。そのため終点東京駅で山手線へ乗り換えるため下車した。


 東京駅のJR改札内乗り換えは多くの路線が通っているため私はいまだに迷ってしまう。周りを見渡し山手線の案内を探していると、私に衝撃が走った。


 見知った顔があった。


 祭がいたのだ。


 私は祭を追う。約束の時間には間に合わなくなってしまうがそんなことはどうでもよかった。祭は人込みに遮られた先にいて改札からまさに出ようとしていた。


「祭!」


 思わず私は声を出した。


 祭は一瞬振り返ったように見えた。しかし隣にいる男に声をかけられて前を向きなおした。そう見えた。祭は誰かと一緒にいる。何度も声を出した。しかし、振り返ることはなかった。


 祭を走るように追いかけたが通勤の人込みが邪魔をして追いつくことができない。


 どうしてだかわからないが咄嗟にスマホで祭と同行者の写真を撮った。シャッター音を鳴らしたことで何人かに目を向けられたが気にしている場合じゃない。


 祭はそのまま東海道新幹線の改札を越えて見えなくなってしまった。改札を通ったのち祭と隣にいた男は早歩きでホームへ向かった。


 入場券を買って追いかけようかとも思った。切符売り場に走ったときに丁度祭が向かったホームから発車していくのが電光表示と放送から分かった。


 もう追っても無駄だろう。祭は生きていた。まずそれを知れたことだけでよかったと思う。


 このことを浜野に報告しないといけない。


 すぐに雑音が入らないように人込みから離れてスマホを開き、電話帳を開く。探偵事務所で渡された名刺に電話番号とメールアドレスが載っていたので登録しておいたのだ。電話をかけて何コールかの後つながる。


「浜野さん。清水です。清水明日香です。」

「清水さん丁度よかった。伝えておかないといけないことが起きまして。ただ心の準備が必要なことなんです。」

「そんなことより、祭。祭に会いました。東京駅で新幹線に乗って。誰か男と一緒にいました。」

「なるほどそうでしたか。それで、その。こちらの調査のほうなんですが。」


 何か言いにくそうな口調で浜野は話す。


「何があったんですか?祭は生きていたんですよ。」

「衝撃の強い話です。心の準備はできていますか?」


 何を言っているのだろうか。祭がさっきまで目の前にいたのだこれ以上の何があるのだろうか。


「浜野さん続けてください。」

急かすように私は言った。


「坂上夫妻が自宅で何者かに殺害されました。」


 私の頭は真っ白になった。



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