白い女①
俺、角田幹彦は古い廃墟へ来ていた。右手には20万ちょっとのビデオカメラを持っている。
「いやあ、かなりの雰囲気ありますねここ」
俺は話す。別に話し相手がいるわけではない。カメラに向かって話しているのであった。
それは俺が動画投稿者だからだ。とはいっても中堅といったところか。俺の運営する『角くんのオカルトチャンネル』は登録者が1000人ほどのチャンネルだった。いや、定職についておらず彼女もいない、趣味も動画投稿一本という生活していることを考えると総合的には底辺なのかもしれないとか考える時も少なくない。
俺のチャンネルは、やらせなしのホンモノの怪奇現象が見れるということでコアなファンはついていた。これはうれしい限りだった。とはいえこれは当たり前のことである。
だって、本当にやらせなどはしていないのだから。
俺は昔から何かぼやけた霧のようなものが見える体質だった。初めは目の病気を疑われて親に連れられ病院に行った。最終的に脳の検査まで行ったが異常は見られなかった。
ある時に気づいた。この霧のようなものは幽霊なんだって。その霧の周りでは不可思議なことが起きることが多かった。人の周りにまとわりついているときはその人が不幸なことに遭ったりした。
これがとても面白かったのだ。
ほかの人には見えないものが見える。ただそれだけでも優越感があった。冷静に自分を振り返るとただ、他に得意なこともないから愉悦感をそこにしか得られなかっただけかもしれない。
でも、この力は確かに本当だった。
この能力に目覚める前からオカルトというものに興味があった俺は本当にこの能力を得られて幸せだ。
そして、この力を利用出来るのがこの動画投稿という趣味だった。
俺は生配信はしない主義だった。なんせホンモノなのである。何が起こるか俺にもわからなかった。だからこうして動画を取りに来ているのである。
「なんか、寒気がしますね。いや、これまではなかったわけじゃなくて、なんだろう体の芯から震えてるみたいな?」
廃墟の階段を昇りながらリポートする。俺は正直話が下手だった。もし、話が上手かったらまあ今頃は大手投稿者になっていただろう。
しかし、階段を上るたびに寒気は増してきた。
まるで冷凍庫が先にあるような感覚だ。いや、実際に寒いわけではない。ひどいインフルエンザにかかった時のような感覚に襲われていた。こんなことは今までなかった。
ガチャン
何かが落ちる音がした。足音や何かがぶつかった音はしなかった。
経験上分かる。
幽霊がいるのだ。
「今の音聞きました?多分います。呪文の用意しますね。にしてもすごく怖い正直すぐに帰りたいくらいだ。でもまあ、視聴者さんのためです。俺は勇気だしますよ」
階段を昇り切るとそこには廊下があった。ドアもないコンクリート一面の建物。部屋がいくつか見える。
その中の一つでまたガタンという音がした。
「あそこだ。じゃあ行きます」
覚悟を決めて俺は部屋に入る。
部屋の中には真っ黒な何かがいた。霧というよりも油性ペンで描きなぐった落書きのような何かが。それは6本足だった。
「え?」
これまで鮮明なのは初めてだった。
何かが確かにそこにいた。
それは音を出さずに静かに叫んだ。
飛びかかってくる!
俺はすぐさま手で印を結ぶ。
「マントラ、ポマード、エロイムエッサム!マントラ、ポマード、エロイムエッサム!」
俺は呪文を唱える。別に由来があるわけではない。いつの間にか頭の中でこの呪文は出来ていた。
化け物は俺に飛びかかろうとしたものの逆に吹き飛ばされる。
呪文が効いてるのだ!
だがそれが逆鱗に触れたようだ。何度も、何度も俺に飛びかかってくる。
「マントラ、ポマード、エロイムエッサム!」
俺はものすごい睡魔と疲労感に襲われる。
トン
このままだと呪文を唱えられなくなってしまう。そうなると、まあきっと死ぬんだろう。ホンモノの幽霊で死ぬってどんなことになるのだろうか?そんな最後は嫌だ。
トン
「マントラ、ポマード、エロイムエッサム!マントラ、ポマード、エロイムエッサム!」
必死に呪文を唱える。
トン
後ろで足音がした。
思わず振り返る。
そこには白髪の巫女服を着た女性が立っていた。その右肩には大きな西洋剣が掲げられている。
確か、あれはツヴァイヘンダーというドイツの両手剣だ。刀身には文字が刻まれている。あれはルーン文字か?俺はオカルトやらに詳しい自信が有るので多分、間違えてないと思う。
「どいた、どいた~」
女は明るい口調で語る。
その瞬間、轟音と共に女の姿が消えた。次の瞬間、黒い化け物の一部が切り離されて宙を舞う。
すごい光景だった。白い女と黒い幽霊はまるでスーパーサイヤ人のような戦闘を目の前で繰り広げていた。
何が起こっているのかは分からなかった。
でも、多分白い女の方が優勢だ。幽霊の一部が少しずつ切り離されていく。
そして最後は動かなくなり、霧のように消えていった。
俺は慌ててカメラを見る。今のは!今のは撮れていたのか!
「あちゃーカメラ持ちか。配信者?投稿者?」
白い女が聞いてくる。
「えっと、投稿者です」
「そう。それは良かった」
そう言い終わる前に俺のカメラは握りつぶされていた。ああ!俺の20万!
「君、見えたりなんかできる人でしょ?でもまあ、そんなに力強そうじゃないし今回のでこういうところに来るのは最後にしな。そういう力ってただでさえ引き寄せるんだから」
白い女は言う。
「もし、その力をうまく使いたいなら近くの大きな神社かお寺の偉い人に相談すればいいけど、うーんその程度ならお勧めしないな。なんにしろやめなよね」
白い女はそう言いながら去っていった。
世界にはあんなものがいるのか。驚きを隠せなかった。
もう金輪際関わりたくなんかあるものか。




