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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
11.復讐の鮫人

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第54話 再びの龍宮塔、空飛ぶネーレイス

 テルクの黄昏る空に、またしても龍宮塔が浮いている。

 そしてその上に、竜の翼を生やした胎児が座していた。

 今度呼び出されたのは、


(一番組みたくないやつが……)


 八号機と、壱号機。

 相対するは、形状のオカシイ水子級。


「データにあった、妖竜メリュジーヌ級の翼?

 水子級に、捕食されたのか」


 壱号機、伏馬の方からため息がする。

 美岬が交信機越しに捕捉した。


『そもそも、ネーレイスはなにかを食べるということのなかったから。

 水子級は、異常なのよ』

「口はあるのに?」

『唄を奏でる器官であって、食べるためのものではない。

 彼らは発生した時点で寿命というものが存在しないとされる、劣化することもないなら、代謝だって必要がない、或いは生命に必要な最小限の活動効率で済むということ』


 シトラを膝に乗せながら、枸櫞は思案する。

 水子級は翼と美岬の怨敵だ、ふたりが詳しいのは当然か。


『手を出すな、こいつは俺がやる!』

「お好きにどうぞ、邪魔をするつもりもないですから」


 壱号機には、勝手にやらせよう。


「ですが、向こうは龍宮です。

 高所を取られている以上、そも触れられませんよ」


 まえに龍宮塔で八岐級を屠ったときは、八号機の鎖で足場を造った。だが伏馬のやつに、手を貸してやるつもりもない。


「美岬嬢、僕は壱号機に手を貸さない」

『――、水子級を討伐する間だけ、何とかならない?

 きみたちの安全も、脅かされるだけだと想うけど』

「泉客那戯の仇を、どうしても討ちたいからか?」

『……違う。

 きみたちを死なせないって、約束してるから。

 現場の判断を優先するけど、埒が明かないようなら――』

「それを聞いて、すこし安心した。きみはいつも通りのきみだ。

 ところで伏馬のやつは、問題ないようだぞ」

『なに?』


 人形の覚醒もしないうちから、手甲鉤の刃を分離して、水子級へと投擲した。刀身はまっすぐに飛び、勢いもなかなかだったが――到達する直前、妖竜の翼の制動と風圧で、掠らせても貰えない。

 伏馬は舌を打つが、すでに次の鉤爪を生やして、移動している。


「やはり、ある程度は飛べるようだな。

 図体のわり、滞空時間も長い。

 空を飛べる人魚って――このままだと、決定打にかける。

 僕が首輪を投げても、風圧で逸らされるかもしれないな」


(そうなると結局、壱号機の覚醒に伏馬は賭けるしかない。

 先輩のお手並み、拝見といきましょうか)



 ふと、弐号機の暴走したときのことを、枸櫞は今更また思い返していた。


「僕がテルクの王になる――ねぇ。

 テルクの王様って、なんなんだい。

 なあ、シトラ」

「おーさまは、くえんだよ」

「よせやい、こっぱずかしい……味方がまた、あんな風になるのはごめんなんだが」


 そも伏馬翼が、僕の味方であったことなんてあるんだろうか?

 水子級が口を開こうとするのが見える、なぜか途中でやめて、口を閉じる。すぐに背中から、苦悶する女の顔が持ち上がる。

 《《自分では唄えない》》から、喰らった妖竜に無理やり唄わせるのだ。


「何をする気だ?」


*


「ねぇ枸櫞、おかしいと思わない?

 従兄弟なら結婚できるのに、父親が違っても、同じはらから生まれた私たちが結ばれない世界なんて」


 ……どこかで、身の憶えのある会話だった。

 なぜだ?

 僕はこの前東京に行くまで、僕の出自など知らなかったはずなのに――


 場面が切り替わる。

 ぐしゃぐしゃになった『安産祈願』のお守り、交叉神社のものだ。

 こっちは、僕の記憶じゃない。

 伏馬の?

 ならこの唄の正体は――


 波が覆いかぶさるように、次の記憶が巻き戻される。


「どうして俺ではダメなんだ、檸檬さん」

「わたし、好きな人がいるんです。その人はいつも、自分は大したことないって顔しているけど、腹が決まってからは凄いんです。

 きっと翼くんなら、もっと自分に相応しいひと、見つけられると思います。私なんかと違って」

「――」


 体よく断られた告白。うまいこと言ったものだが、翼にも、自身が檸檬の眼中にない自覚はあったようだ。

 どのみち、一時帰省した彼女にダメもとで伝えてみたけれど、幼少期の思い出や繋がりなんて、あてになるものじゃない。


 そして次は、いつかの僕に主観が舞い戻る。

 出かけの姉さんを見送ろうとしたら、玄関で振り返ったあのひとが、名残惜しそうに僕へ接吻して――


「姉さん……?」

「しばらく忙しくなりそうだから、クエン酸補給しないとね」

「言い方」「うんうん、枸櫞はかっこいいよ。この私が太鼓判を押してあげる」

「まったくもう、調子いいんだから、お姉は」


 それが、二度と目覚めた姿では帰ってこなかった、あの日。


*


 いけない。

 この唄は、この場にいるものらの自他の境界をあやふやにしてしまう。伏馬も、僕とおおよそ同じものを見せられているはずだ。


『そうか。天充檸檬は、そういうふしだらな女だったんだな』

「……っ」


 あんたがなにを見せられたか、全部はわからないけど、その言い方は、姉さんに対して、あんまりだろうが。ヒトの性向は、育った環境がどうであれ、結局は当人の選択に由来してしまう。

 あんたを択べなかったあのひとに、だからって罪はない。

 どこまで僕を失望させるんだ、伏馬翼、あんたは?

 なんならいっそ、衝動に従って、ここで殺してやろうか。


 元凶となった、水子級を見上げる。

 退屈そうに欠伸までしていたが、こちらが唄の作用に惑ったと気づいて、悪辣な笑みを浮かべている。

 壱号機がやらないなら、僕が――いや。


『哀れだな、弟』

「は?」

『力を貸せ。

 お前の首輪で、妖竜の首を捕らえるだけでいい』


 ふてぶてしいやつだ。


「手を出すなってんじゃ?」

『水子級には触れるな。

 妖竜までが邪魔をするのは、やっていられん』

「ほぉ、はぁん……」


 その提案には、載ってやろう。この場でもっとも不快極まりない存在は、あれらのネーレイスには、間違いないのだ。

 互いの気質に、見切りはついている。

 僕らの間に、それ以上の言葉は要らなかった。



『――掴んだ』

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