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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
9.チェインドライヴ

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第45話 帰還

 琉稀は自分が、これまでとは異なる存在に昇華されかかっていることに気づいていた。

 だけれど、おかげで人間だったら分からない、様々なものが見えつつある。


 ネーレイスは鮫人に倒されることで、寿命を持たない自ららの存在を循環させたがる。鮫人はきっと、それを為すために生まれた装置なのだ。

 真水狩人は原典の特質に加え、ネーレイスとしての形質も混ざっている。

 鮫人と出会えば、どのみち自身は征伐されると知っている。

 水子級のように、循環を逸脱して存在を肥大させ、自らを腐らせてしまうネーレイスもいる。自分がそうなる前に、鮫人の心臓を奪い、鮫人を使役するものたちへ遠回しになり、人形たちの覚醒を促そうとすらしていた。

 人ならざるモノの領域へ、触れさせることでしか、それは為しえない。

 彼らは唄はあっても、人に伝える言葉など、ろくに持ち合わせないのが殆どで、アーウィヅォウトもその一類だ。

 シトラと語らうのさえ、私たちはいつも四苦八苦させられる。

 だけど――、


「私が枸櫞くんを誰より理解するのには、きっとこの力が必要だった。

 シトラちゃん、ありがとうね」

「るき……まだだよ、ここからが始まりなの」

「そう。それもそうか」


 そうしてふたりは、枸櫞に促されるまま、その手を重ねて――


*


(四号機の、思念武器……初めて見たな)


 枸櫞は振り返り、四号機の手に戦槌が握られるのを見る。

 あれだけでよく、今日まで戦ってこれたモノだと想う。

 伏馬の背を必死に追いかけてきたろう、あのひとの懸命さがうかがえて、どうにも複雑な気分になってしまう。


「覚醒、紫の鮫人か――?」


 そして、四号機は覚醒を迎える。

 戦槌を掲げ、四号機の形状が変化していく。

 腰から下にスカート状のものが生えて、大小の鱗とも花びらともとれる形容をとる。

 戦槌を杖のように振るうと、降ってきた真水狩人へ向かっていく。


『はぁっ!!!』


 戦槌の先が捉えた途端、接触した部位からテルミンでも弾くかのような音響がした。

 真水狩人の身体が音とともに細分化され、気泡のように上空へ消失していく。


『っ、いくら人形の頭数を増やしたところで!』

『戻った』『はぁ?』


 四号機の欠けていた胸のウロが、すでに埋まっていた。

 十三号機は空中でも制動をとって、四号機の続く攻撃を回避しようとするが、遅い。

 戦槌は今度、触れるまでもなく本体を震わせ、十三号機に干渉していた。それまで枸櫞たちを難儀させた、ミサイルポッドがあっさりと倒壊する。さも魔法の杖か何かのようにして――、


『私たちはとっくに決めてるの!

 誰の足手まといにもならない、この力を育てていくんだって!』

『ぐっ、ネーレイスの唄と同じ、ならば!』


 十三号機は三叉槍を震わせ、四号機からの干渉を防ごうとする。


「いいや、ここまで。

 俺が上、お前が下だ」


 そこへ八号機から首輪が飛んで、十三号機の首を捕らえる。

 洋上へ引き摺り落とした。

 それから――暴走していたネ―レイスたちの動きが止まり。

 やつらは正気を取り戻したらしく、しばらくそこらをくよくよ見渡している。


「……まさかこいつら全部倒さなきゃ帰れないとか?

 いいや、よかった」


 空間が揺らぐ。いつもネーレイスを倒していた時と、同じ反応だ。

 十三号機の共鳴者は、衝撃で気絶してしまったらしい。


*


 遺跡へ戻り発令所へと至るまで、シトラは琉稀の傍らにずっとついていた。


「シトラちゃん、ありがとう」

「枸櫞が琉稀のこと、待ってる」

「……一緒に行こうか」


 琉稀はシトラを腰のところに抱き上げる。


「枸櫞くん、よく持ち運べるんだなぁ」


 まぁ言うほど重くもないけれど、前にはいつの間にか肩車できる位置に跳躍されてたとも聞く。私だったら急にそんなことになれば、普通に転倒すると想う。

 発令所の扉が開き、美岬達がすでに集まっている。



「……生け捕りにしたと。

 また無茶苦茶するよね、枸櫞くん」

「こいつは泉客の手元に残した方がいいです。

 その代わり、中破した十三号機の断片と、海軍の潜水艇の破壊された映像はくっきり残っていますから。これらは陸軍に提供して、そうすれば彼らとの交渉の材料になるでしょう」

「いずれかというと、威嚇じゃない?

 海軍はろくに自分たちの舟や兵器を制御しえないのか、ということで」

「これはあなたのお父様の思惑を、半分くらい叶えてやることにほかならないんでしょうね、美岬嬢。

 どうなさいますか、みんな、あなたの指示なら従うと想いますよ」

「枸櫞くん、わざとそういうこと言うの、やめてくれる?

 そうしなければ、泉客の共鳴者は軍に取り込まれるか排斥されるかの二択しかなくなる……それぐらい。私だってわかってる、だったら。

 貴方の言うほかに、手立てなんてないじゃない」


 そこへ笑いながら口を挟むのは、藍堂だった。


「そう悪いことでもないと想いますよ。

 両軍との適切な距離感は必要ですし、海軍の出鼻をこうして挫いておけば、我々のための時間は稼げる。東京に行ったかと想えば、どえらい土産を担いできましたねぇ。これは理事長とて、予想していなかったはずだ」

「笑いごとではないですよ。

 ゲノム編集が法規上禁止されているにも関わらず、十三号機の彼は明らかに先天的にそうしたものを仕込まれた形跡がある。軍事機密という性質を抜きにしても、彼を存命で捕らえておくのが、海軍に対する抑止としてそれなりに働くはずですけど、なんというか、ここまでやっていたとは……」


 美岬が嘆息する。

 枸櫞にはその感覚が、正直よくわかってこない。

 鮫人という道具を動かせる適性者を自前で調達するなら、人間としてより兵器として調度するほうが合理的だろうという考えも、わからなくなかったから。

 まぁ、鮫人なんてオカルト人形にかける費用対効果に見合っているかは、微妙なところだが。実際、裏切られて舟を沈められたわけだし。


「そんなことより、枸櫞くん。

 来たわよ」

「おぅ……琉稀さん、シトラ。おかえり。

 ふたりとも、怪我はない?」


 怒涛の如く展開される、軍との暗闘話に圧倒されかかっていたが、そこでようやく琉稀は我に返る。自分は、枸櫞のもとに戻ってこれたんだと。


「ただいま、枸櫞くん」


 琉稀はうれしく、涙ぐんでいた。

第二部まだまだ続きます。

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