01
「あんたさんも何か人の役に立つ特技や好きなことがあれば良かったんにね」
もしくは。
――悪いことしなかったらね。
キャスリーンには前世があった。
女子大学生だった彼女は、就職するかそれとももう少し遊ぶかと考えている時期。
夜に駅のホームから落ちた。
スマホでゲームをしていて白線を越えてしまったのだ。
「……きっと迷惑かけちゃったわよね」
自殺とか、勘違いされたらどうしよう。電車での事故は賠償金もかなりかかるとか噂が。飲み会帰りの夜中のひとの少ない時間帯だったけれど、きっとかなりの額が鉄道会社さんに必要になるわけだ。
日々、人々の移動のために頑張ってくださる方々には本当に申しわけない。
親にも賠償金など、きっと……申しわけない。
そしてそんな死に方で、本当に……。
「自殺とか、誤解されるのやだわぁ……」
進路で悩んでいると友人たちに話してはいたが、キャスリーンの前世――有梨花は、実はそれほど悩んでなかった。
なんせ就職したくなったら親がほどほどの会社の社長であり、その会社のどこかの部所にいれてもらえば良かったので。最悪は見合いでもして結婚ルートだ。
残業あるような仕事はしたくないし、汗をかくような肉体労働は絶対無理。それだったら結婚でいい。料理くらいはするし、そういう教室とかは通っても良いかも。親に家政婦さんをよこしてもらうかもだけど。
彼女は生まれながらにしてなかなかに勝ち組の人生をおくっていた。
「なのに死に方がかわいそう過ぎない?」
課金アイテムがようやくコンプできたところだったのに。
これから幸せになるところだったのに、ゲームも――人生も。
「やってみたらおもしろかったのよね」
中学の頃はゲームとか興味なくて、クラスメイトがやっているのを馬鹿にしていたくらいだったのだが。
大学の受験の合間に、スマホの広告で気になったゲーム。
やってみたらハマってしまった。
それからはスマホだけじゃなくて据え置きゲームも。
その頃にはゲーム好きと周りに言っても引かれなかった。皆が大人になったからだ。中学の頃には自分もガキだったのよねと、反省だ。
「あんたゲームなんてやってるのー?」
かつての自分のような視野の狭いままの友人もいたが、そこは線引してゲーム以外の遊びで付き合った。
意外と棲み分けは楽しい。
今では謝りたい。
あのクラスメイトに同窓会ででも再会できたら、きっと仲良くなれるだろう。
中学生の頃はゲームやアニメの話をしている同級生を「ダッサっ」と笑ったし、もっていたペンとかを隠したり勝手に借りてインク使い切ったりして「ごっめーん」とプークスクスしていたけど、今ならひどいことをしたとわかる。反省している。会えたら弁償しようと考えていた。
彼女はそれで許してもらえるとばかり。見えないもの――相手の心の傷など想像すら。
そんなところだったのに。
「……なんで私がっ」
口惜しい。
最近前世の記憶が戻った。
前世も染めていたから明るい茶色の髪色は違和感を感じないが、どうせなら金髪とかのきれいな色が良かったと、鏡をみるたび思う。ムカムカして八つ当たりに枕を叩いた。
部屋の家具には当たらないのは今世の親御さんの育て方が良かったからだ。そして壊したら買い替えに怒られる。
鏡を壊したことで知ったのだ。
もっとも、八つ当たりで壊したのだけど、そのときは「うっかり」ということで許された。いままでのキャスリーンはそういう「良い子」だったから。
鏡もなかなか高価だと、キャスリーンはこの世界にまた驚いた。
「前の世界ならこんな手鏡、百均にも売ってたのに……」
それくらいに技術がまだ、な世界でもあるようだ。
「誰かもっと便利にしてよ」
――そう言いながら、自分からは。
そしてキャスリーンが鏡に当たったのは。
だって――主人公は金髪なのだ。
この世界。
異世界転生ならば、絶対にゲームの世界だろう。自分がやったゲームにもそうしたのがあったし、ネットに転がっていた小説にもそうしたのがあったはす。
さあ、自分はどんなゲームの主人公、もしくは悪役令嬢なのかしら!
そう意気込んだキャスリーンは――自分がただのモブキャラであることに、また部屋の枕を叩いた。
「まぁ、男爵家なだけでも……ぎりぎり貴族で良かったのよね……」
平民は嫌だ。
キャスリーンは男爵家の末娘。
上に兄と姉の三人兄妹で、少し歳の離れたキャスリーンは兄姉にも可愛がられていたのだろう。
自分の中にある今世の記憶は、そうだ。
兄は家を継ぐために父の仕事を引き継ぎ領地にいるし、姉は先ごろ学園で伯爵家の跡取りに見初められて嫁いでいった。
男爵家ではあるが、なかなか領地も潤っていて。領地の特産品を使って上手いこと商売をしているそうだ。
前世のようにお手伝いさん――メイドたちもいてよかった。
そういうように周りをみることができた。
かつての自分の家も、よくよく考えたら男爵家なランクくらいだったのかも。よくて子爵。平民じゃないってのはそれくらい差がある。
社長とはいえ、そこそこだったし、お手伝いさんも通いだった。住み込みで5人もいるこっちの方がそこら辺はすごいのかも。
このエムリタ男爵家が他の男爵家より裕福なのもあるが。
お手伝いさんは母の侍女と、料理人専属、掃除や他の諸々をする三人。三人のうちの若いの二人がキャスリーンの侍女みたいなことを交代で。
庭師は通いで他の家と兼ねて。
これがこの国では男爵家のうちでも裕福なやつだったと、学園に入って他の令嬢と話してわかったことだ。
少し前まではもう二人ほどいたらしいのだが、姉が結婚したときに伯爵家について行ったそうなのだ。
「こうして平民を雇ってあげるのも貴族の役目なのね」
仕事を与えるのは、なるほどだ。
そしてエムリタ男爵家は裕福だったから、キャスリーンは他の男爵令嬢が選ぶような、さらに高位貴族の侍女となる科目は選ばなかった。
自分も姉のように高位貴族、もしくは自分の家と同じくらい裕福な子爵や男爵家に嫁ぐ。そう思っていた。
だから礼儀作法や女主人としての家政を学ぶ科目を選んでいた。姉もそうであったと親たちからのアドバイスもあり。
今度は自分が「使用人」となる仕事につく必要がなかったのは幸運だったと、キャスリーンはまたこの人生も勝ち組であると、ほっとしたのだ。
だって。
その侍女科に――主人公がいたから。
「何それ」
ゲームとちがくない?
ちょっともやもやする主人公さん(?)かもですが、どうぞ最後まで見守ってあげてください。




