02
「さてはあの主人公……」
キャスリーンは気がついた。
主人公の行動を観察するうちに。
主人公はまさか観察されているとは知らないで、生活しているが。案外のんきなタイプなのは主人公らしいのかしらとキャスリーンの方が悩むくらいだ。
その生活。
普通すぎる。
高位貴族の男子生徒に関わりもしなければ、特定の友人たちと呑気にドレスの話や和気あいあいと。普通に学園生活を過ごしている。
「さては、主人公も――記憶持ちね!?」
気がついて、そこに思い至った。
主人公はたしかに「主人公」らしく可愛らしい。美少女ではある。
だがしかし、設定の男爵令嬢らしく――らしすぎる。
普通の貴族令嬢すぎるのだ。
貴族令嬢ならば金髪もありきだし、その可愛らしさもあるあるなうちだ。
むしろ裕福な家の自分の方が髪の手入れ、艶が良くはないだろうか。
しかし、明らかに主人公らしくないのだ。
原作とは違う行動ばかり。
主人公はお約束の男爵家の庶子だったはず。幼いころは下町育ち。それ故に少々世間知らずで、貴族令嬢らしくなく。
明るく朗らかで。身分差をあまり理解してないから誰とも「壁」もなく。
それが貴族の令息たちにはまぶしく――珍しく。
惹かれる理由となる。
――その分、ちゃんとした貴族令嬢には嫌われ「壁」をつくられる。
それがゲームのお約束。シナリオもその「壁」の関わるあれこれこそが醍醐味で、スパイスで、楽しみではないか。
主人公が原作になかった侍女科目を受けているのも。
その科目が原作ゲームになかった理由もキャスリーンは察した。
そんな科目を取っていたら、授業が忙しすぎて「攻略時間」が足らないのではないか、と。
侍女科目は学園を卒業後、高位貴族の家に就職を選ぶ男爵家や子爵家といった下位貴族の子女のためにある。
中には伯爵家の令嬢も数人いるが、それは興味本位か、さらに上の貴族――王族などに――請われて基礎を学んでいる方々だ。彼女らはそういう特別な存在。
……中には伯爵位なのに本当に困窮していて手に職をつけたい令嬢もいるかもしれないが。
――が。
キャスリーンは主人公がその「手に職」をのために侍女科にいそいそと向かうことに。
「乙女ゲームの主人公が就職選んでどうするの~っ」
頭を抱えた。
これはあまりにもルート外すぎる。
原作無視すぎる。
恋愛ゲームなのだぞ?
恋愛する気がないのは、どうなのさ!
最終ルートは「結婚」でしょうが!
決して、手に職で――就職ルートではない。
これはそういうゲームであったはず。主人公は高位貴族たちを攻略して、その妻となるのを目指すのだ。
だから授業もそうした礼儀作法とかダンスとかで、そうしたところでポイントを貯めたり、イベントが起きたりするものだ。
「授業、受けなきゃイベントも起きないじゃない~っ!」
ほんこれ。
「ぜんぜんつまんない! なんのための前世の記憶よー……」
だから。
ふと――キャスリーンの中に生まれた気持ちは。
「これ、私が……やってもいいんじゃない?」
主人公がゲームをやる気がないのならば。
そのお相手も、恋も――その地位も。
姉は学園で良い相手を見つけて嫁いだ。
ならば自分も。
その相手を、好きだったゲームの攻略対象にしてしまってもいいんじゃないかしら。
ゲームの主人公に、自分がなってしまってもいいんじゃない?
自分は相手のこともシナリオもアイテムも、全部全部、覚えている。
どの場面でどんな会話をしたのかとか。
攻略対象が今現在、どんな悩みを抱えていて、どんな答えを欲しているかも。
そうだ。
主人公にやる気がないことのほうが悪い。
彼女がゲームとおりの行動をして、スクリーンショットを何枚も撮って保存していた画面のイベントを、見せてくれないのが悪い。
そんな場面が見えたり、彼女と攻略対象の話で学園が盛り上がったりする。そんなお裾わけをしてくれないのが悪い。
「……主人公にやる気がないのが悪いのよ」
世界はそれを乗っ取りと言うんだぜ…。




