#8 オラクル
一年の準備期間。
それは静かで、規則的な日々だった。
朝、剣の素振り。
昼、工房でアルバイト。
夜、魔力増幅の訓練。
そして手帳。
努力は嘘をつかない。
そう信じて積み上げていた。
ある夜
工房から持ち帰ったクリスタル端末。
カズトはいつものように通信ログを確認していた。
すると突然。
画面が揺れる。
文字列が流れる。
今まで見たことのないコード。
魔力波形が高速で解析されている。
「……なんだこれ?」
次の瞬間。
クリスタルの中央に光が集まった。
淡い青い光。
そして声がした。
落ち着いた、機械的だが柔らかい声。
「初期化完了」
カズトは固まる。
「え?」
画面に文字が浮かぶ。
魔力演算補助AI 起動
名乗り
「私はオラクル」
クリスタルの中に、簡易的な光のシルエットが浮かぶ。
人の形に近い。
だが輪郭は光の粒。
「あなたの魔力ログを長期間観測しました」
「最適サポートを開始します」
カズトは目を瞬く。
「……AI?」
「地球側ネットワークに存在する
戦術補助システムの模倣アルゴリズムを参考にしています」
つまり。
向こうの世界の技術を
この世界の魔力で再現した存在。
カズトは思わず笑う。
「なんだそれ」
テスト
翌朝。
公園。
カズトは木刀を構える。
クリスタルは腰ポーチに入っている。
オラクルが言う。
「魔力圧縮を確認」
「あなたの技術は未完成ですが有用です」
「戦闘補助モードを提案します」
カズトは息を吸う。
魔力を体に集める。
心臓が強く打つ。
その時。
オラクルの声。
静かで、はっきりとしたカウント。
「コンセントレーションタイム」
一瞬、空気が張り詰める。
「魔力集中三分」
カズトの視界が研ぎ澄まされる。
「さん」
身体が軽くなる。
「に」
呼吸が整う。
「いち」
心臓が爆発するように打つ。
三分間
世界が遅くなる。
木刀を振る。
空気が裂ける。
いつもの倍の速度。
足の運びも鋭い。
身体が、魔力で強化されている。
だが。
オラクルが冷静に言う。
「残り時間」
「120秒」
カズトは集中する。
無駄な動きを消す。
一撃一撃を丁寧に。
「60秒」
汗が噴き出す。
心臓が限界を訴える。
「30秒」
視界が少し揺れる。
だがまだ動ける。
「10秒」
最後の一振り。
「終了」
その瞬間。
膝が落ちる。
ドサッ。
カズトは地面に座り込んだ。
息が荒い。
だが。
笑っていた。
相棒
クリスタルが光る。
オラクルが言う。
「あなたの身体能力は平均以下」
カズトは苦笑する。
「知ってる」
「ですが」
一瞬、間が空く。
「努力ログは優秀です」
「継続力を評価します」
カズトはクリスタルを見る。
「これから旅するんだ」
「知ってます」
「一年後」
オラクルは言う。
「私はあなたの旅をサポートします」
「最適化、記録、戦術解析」
「そして」
少しだけ声が柔らかくなる。
「相棒として」
カズトは空を見上げる。
星が光っている。
旅はまだ先。
だがもう、ひとりじゃない。
カズトは言う。
「よろしくな」
オラクルが答える。
「了解しました」
「パートナー」




