#6 卒業
矯正塔の話題は、やがて日常に溶けた。
新しい噂が生まれ、
新しい標的ができ、
世界は何事もなかったように回る。
カズトはそれを、少し離れた場所から見ていた。
立ち位置は、変わっていない。
でも。
自分の中の重心は、変わった。
最後の一年
手帳は分厚くなった。
走った距離。
魔力効率の改善率。
クリスタル通信の安定化データ。
収支の推移。
ページをめくるたび、
「耐えた日」が刻まれている。
学校では空気。
家では研究者。
夜は境界の観測者。
誰にも気づかれないまま、
カズトは自分を積み上げていた。
卒業式当日
空は澄んでいた。
王都式の卒業式は、
魔法光で彩られる。
空中に浮かぶ紋章。
光の花弁がゆっくり舞う。
4
名前が呼ばれる。
「カズト」
壇上へ歩く。
遠くの保護者席が見える。
母がいる。
手元の証書も、はっきり見える。
遠近両用の視界。
あの手術がなければ、
今この景色はなかった。
証書を受け取る。
拍手は、平等に鳴る。
人気者にも、
地味な生徒にも。
その音の中で、カズトは思う。
――俺は、生き延びた。
それだけで、十分だ。
式の後
クラスメイトは進学の話をしている。
魔法士高等学院。
騎士団訓練校。
商業ギルド研修。
カズトは進学しない。
義務教育で終わり。
それは敗北ではない。
“選択”だ。
校門を出る。
振り返らない。
未練も、怒りもない。
ただ一つ、胸にあるのは。
探したい。
魅せられるものを。
夜
自室。
手帳の最後のページに書く。
【義務教育終了。
今日から本当の準備期間。】
その瞬間。
クリスタルが、静かに光る。
以前のような暴走ではない。
安定した、深い光。
裂け目が開く。
向こうの少年が笑う。
「卒業おめでとう。」
カズトは驚く。
「なんで分かった?」
「そっちのSNSに式の写真流れてる。
魔法の光、派手だな。」
世界は、つながっている。
でも。
越えるには、覚悟がいる。
カズトは裂け目の縁に立つ。
足を踏み出すか。
それとも、この世界で何かを起こすか。
卒業証書が机に置かれている。
それは終わりの証ではない。
“選択の自由”の証だ。




