それもきっと恋だから・エピローグ
「そこ! 指先までしっかり優雅に」
「はいっ!」
……現在、ステファン様によるリンディさんの淑女教室中です。
立ち合い人は、わたしレベッカとアーノルド様でお送りします。
いや、一応未婚の男女を二人きりにするわけにはいかないので、誰か一緒にいないといけないのよ。
部屋の隅で並んで座って、スパルタ淑女教室を眺めてるだけなんだけど。
アーノルド様の折り合いは、こういうことだった。
「イーサン殿下か『その周りの殿方』にコネがつけばいいんだろう? ステファンでいいじゃないか」
淑女教室の先生ですけど。
「リンディさんのお父様はこれでいいんでしょうか……」
「学園の中で何してるかまでわからないだろうから、大丈夫じゃないか?」
ほんとかなあ。
「リンディ嬢がヒロインだって気が付いて、エリス嬢は本能で警戒していたんだろうかね。彼女が近づかなくなったら落ち着いたみたいだけど」
「エリス様は転生者じゃありませんよね……?」
「違うと思うよ。まったく表に出さずに欺き切られてる可能性もないとは言わないけど」
「わたしも違うと思います。やっぱり本能でしょうか」
「そういうことにしておこう」
「……リンディさんは乙女ゲームの恋には未練はないんでしょうか」
「彼女は身分違いの恋より母親を選んだんだろうし、上流階級の生活は面倒なこともたくさんあるからね。彼女がゲームと違って面倒臭いと思っただろう気持ちもわからなくはないかな」
「ああ……」
それはわかる。
「……何考えてる?」
「いえ、別に」
ぶんぶん首を振る。
わたしもアーノルド様に嫁いで、更に上流階級に足を踏み入れてしまって、正直面倒臭いとか、考えてません。
表情から思考を読まれて、頭いい攻略対象ヤバいとかも考えてません。
「それにしても、ステファン様、面倒見いいですね」
「ゲームのステファンより苦労性だからね」
「アーノルド様、何したんです?」
「……秘密」
ずるい。
わたしにはこの腹黒笑いから考えてることなんてわからない。
「ステファンは面倒見がいいから、乙女ゲームのルートには沿わなくても、結局同じような結果になるんじゃないかと僕は思うよ。ステファンは目を離したら何するかわからない女の子が、自分の目の届かないところに行くのに耐えられる気がしないから」
……それは……
「それって、恋なんですか……?」
「うん。それもきっと恋だから」
そしてアーノルド様はわたしを見て。
「僕も目を離したらどうなるかわからない女の子が、自分の目の届かないところに行くのに耐えられなかったからね」
そう言った。




