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終章 まだ、お義父さんにはならないから!いや、まだっていうか…とにかくちがうから

 森から戻って数日。屋敷はすっかり日常を取り戻していた。まだ原因が全てなくなった訳ではないけれど、平和そのものだった。



 夕食の支度。

 棚の上の壺に手を伸ばした瞬間、後ろから声がした。


「届かないだろう?」

「……っ!」


振り返ると、セドリックが腕を伸ばし、私の頭越しに器を取っていた。

近すぎる距離に、思わず頬が熱を帯びる。


「わ、私だって届くわよ!」

「……それくらい、頼ってほしい。私は君より背が高いからね」

「……っ」


器を受け取る指が一瞬触れ、心臓が高鳴った。



 食卓は騒がしく、静かな隠居とは程遠いが、やっぱりみんながいると楽しい。


「母上、このスープ絶品です」

「母さん、この肉売れるよ!」

「お母様、お代わりは?」


子供たちが口々に賑やかに食べる中、セドリックが何気なくフォークで一口分をすくい、こちらに差し出した。


「アウラ、はい。あーん」

「っ!?え!?ちょ、ちょっと!」

「体調崩したばかりだろう。君が食べるまで安心できない」

「……自分で食べれるわよ!」

「でも、体調管理の一環だよ。それは、王命に入ってるよ?」

「……もう!」


それでも、皆の前で突き返すこともできず、仕方なく口を開けて受け入れる。


――途端、子供たちの視線が一斉に光った。


「は、母上!」

「……殿下って破廉恥ですわ!」

「ママはわたしのものだもん!」

「はあ……もう!」



皿を重ねて運んでいる途中。足元に布巾が落ちていた。

あっ、と、つまずきかけた瞬間――セドリックがアウラを抱え込んでいた。


「…間に合ったね?」

「……っ、ありがと」


見上げた視線に、胸がどきりと揺れる。

そのまま皿を受け取られ、指先がまた触れた。


「……!」

「君の指、冷たいね」

「っ、いいいから早く持っていって!」



私は寝室でひとり布団の中で顔を覆った。


(……大したことない、はずなのに。どうしてこんなに意識してしまうの)


「……呪いなんか、問題ないのに、これじゃあなんか…」


恋したみたい、と言う言葉は頭の中で取り敢えずかき消した。



 リビングで子供たちが家族会議をしている。

「母上…殿下をとうとう意識して…」

「あーあ、ついにお義父さんに…」

「いやだ!母さまが王城に取られる!」

「でも……お母様が笑っているなら、それでも」

「王妃とか、ママが苦労したらどーするの!」


 賑やかな声ばかりの騒がしい毎日。でも――アウラの心の奥は、温かい静けさで満ちていた。

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