‐ 第46話 ‐ 犠牲
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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。
俺の放ったロケットランチャーは見事ローターに命中した。
しかしもう一つのローターがなんとか稼働しており、ヘリの頭が下に大きく傾いたまま、予想外に海の方へ飛んで行ってしまった。
この付近に落ちるかと思ったのに……まずい……。なんとかしてヘリから飛び降りてくれ……。
そう願いながらヘリを追いかた。
明るくなってきたと思ったら、朝日が出始めていた。
ヘリから一人飛び降り、パラシュートを開くのが見える。それが美生だと思いたがったが、白い服を着ている。……違う。あいつは黒のスカジャンを着ている。違う……。
ヘリはもう、追いかけられないところまで行ってしまった。
旋回を繰り返しあらぬ方向へ飛ぶヘリを、眺めることしかできない。
待ってくれ。そのままでは……。
ヘリは岩場にぶつかり、爆破した。
黒煙から舞う残骸は、朝日の輝く海へと消えていった。
その場に立ち尽くすことしかできなかった。
『また再生する』『美生は死なない』
目の前の光景を見て、そんなことが云えるだろうか。そこに美生が存在しているとはとても思えない。
罪悪感と絶望感が、朝日に照らされながら体に焼き付いた。
あいつと一緒にいるようになってから、工場の夜のような思いは二度としてほしくないと、自分だけではなく、あいつに思うようになったのに。
何故こうなるのだろう。皆のために、またあいつだけがボロボロで、俺だけが無事なままだ。
「……海、に、行かないとだ」
まだ、もしかすれば、いるかもしれない。あるかもしれない。僅かでも可能性があるのなら、体が散らばって海に沈もうが鮫に食われようが、俺があいつを迎えに行かないとだ。
俺の顔を見れば少しは安心するだろう。凱もケイトも無事だと知ったら、もっと安心するだろう。そうしたらもうあいつが命を張らなくていいよう、皆で逃げ回ればいい。戦わなくていい。
「勇魚さん、戻りましょう」
「……なんで」
ケイトは遠くに見える海岸道路を指差した。黒丸の描かれた、不吉な車が走っているのが見えた。
「一旦引いて、立て直しましょう……」
「でも美生が」
「生きていると信じましょう」
「信じましょうって……」
「さぁ早く走って!」
――パンッ――
一つの銃弾が箱に当った。箱は俺たちと同じように撃たれた方向に向き直った。
尾澤が追ってきていた。こいつのことなど忘れていた。
尾澤はケイトが撃ったはずなのに、死んでいなかった。俺が適当に撃ち放った銃が尾澤にも当たっていたのか、尾澤は足を引き摺っていた。
「ラフォーレの裏に私専用の車があります。そこに向かってください!」
ケイトを抱えながら必死でカフェに向かった。
尾澤が撃ってきたら、撃ち返した。頼むからもう、追いかけてこないでくれ。
尾澤との間には距離があった。足を引き摺って追いかけてくる尾澤よりも、ケイトを担ぎながら進む俺の方が少しだけ早かった。箱は盾の役割をしつつ、しっかりと俺の後を着いてくる。
カフェに着き、シャッターを上げ、何台かある車の内、一番大きい車にケイトは向かった。起動させるため、車体に自分の手をかざす。
「――指紋認証失敗。ご乗車いただけません――」
搭載されたコンピュータが云う。何故解除できない。
「くそ。左手でしたか」
ケイトは震わせながら左手をかざす。
「――指紋認証失敗。ご乗車いただけません――」
手に穴が空いているからだ。指紋を読み込むどころじゃない。
このままでは尾澤に追いつかれる。
咄嗟に俺は箱に向かって喋った。
「おい開けろ!」
こんなことで箱は開いてくれるかと思ったが、俺の声が登録されているのか、すんなりと開いてくれた。
「頼む凱! 起きてくれ!」
箱の中から凱を抱きかかえ揺さぶった。
ぐらりと首が反ると口が開き、歯はもう再生していた。
「頼む! 頼む! ごめんな。起きてくれ!」
片足を引き摺る独特な足音が聞こえてくる。尾澤がそこまで迫ってきている。
ケイトはもう一度車体に左手をかざす。俺はその手の上に凱の手を無理やり乗せた。散々酷い仕打ちを受けてきたこの力を使わせようとして、申し訳ない。だが頼む。今だけは、今だけは目を覚まして、ケイトの手を治してくれ……。
ケイトの左手の穴が塞がり始めた。
凱は半開きの目で、全ての状況を悟ったように見えた。
「――指紋認証成功。ご乗車ください――」
扉が自動で開き、倒れ込むように乗った。箱も器用に足を延ばし乗り込む。
車はデックスの車と同じように勝手に走り出した。
後方に小さな窓があり、外の様子が見える。恐らく外からはこちらが見えない仕組みになっているものだ。
それなのに、外にいる尾澤は確実に俺を見て、銃を撃った。




