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無声凱歌  作者: 十田 實
◆ 第3章 ◆ 愛と破滅
46/87

‐ 第46話 ‐ 犠牲

<R15> 15歳未満の方は移動してください。

この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

 俺の放ったロケットランチャーは見事ローターに命中した。

 しかしもう一つのローターがなんとか稼働しており、ヘリの頭が下に大きく傾いたまま、予想外に海の方へ飛んで行ってしまった。


 この付近に落ちるかと思ったのに……まずい……。なんとかしてヘリから飛び降りてくれ……。

 そう願いながらヘリを追いかた。


 明るくなってきたと思ったら、朝日が出始めていた。

 ヘリから一人飛び降り、パラシュートを開くのが見える。それが美生だと思いたがったが、白い服を着ている。……違う。あいつは黒のスカジャンを着ている。違う……。


 ヘリはもう、追いかけられないところまで行ってしまった。

 旋回を繰り返しあらぬ方向へ飛ぶヘリを、眺めることしかできない。

 待ってくれ。そのままでは……。



 ヘリは岩場にぶつかり、爆破した。

 黒煙から舞う残骸は、朝日の輝く海へと消えていった。



 その場に立ち尽くすことしかできなかった。


 『また再生する』『美生は死なない』

 目の前の光景を見て、そんなことが云えるだろうか。そこに美生が存在しているとはとても思えない。


 罪悪感と絶望感が、朝日に照らされながら体に焼き付いた。

 あいつと一緒にいるようになってから、工場の夜のような思いは二度としてほしくないと、自分だけではなく、あいつに思うようになったのに。


 何故こうなるのだろう。皆のために、またあいつだけがボロボロで、俺だけが無事なままだ。


「……海、に、行かないとだ」


 まだ、もしかすれば、いるかもしれない。あるかもしれない。僅かでも可能性があるのなら、体が散らばって海に沈もうが鮫に食われようが、俺があいつを迎えに行かないとだ。

 俺の顔を見れば少しは安心するだろう。凱もケイトも無事だと知ったら、もっと安心するだろう。そうしたらもうあいつが命を張らなくていいよう、皆で逃げ回ればいい。戦わなくていい。


「勇魚さん、戻りましょう」


「……なんで」


 ケイトは遠くに見える海岸道路を指差した。黒丸の描かれた、不吉な車が走っているのが見えた。


「一旦引いて、立て直しましょう……」


「でも美生が」


「生きていると信じましょう」


「信じましょうって……」


「さぁ早く走って!」


 ――パンッ――


 一つの銃弾が箱に当った。箱は俺たちと同じように撃たれた方向に向き直った。

 尾澤が追ってきていた。こいつのことなど忘れていた。


 尾澤はケイトが撃ったはずなのに、死んでいなかった。俺が適当に撃ち放った銃が尾澤にも当たっていたのか、尾澤は足を引き摺っていた。


「ラフォーレの裏に私専用の車があります。そこに向かってください!」


 ケイトを抱えながら必死でカフェに向かった。

 尾澤が撃ってきたら、撃ち返した。頼むからもう、追いかけてこないでくれ。


 尾澤との間には距離があった。足を引き摺って追いかけてくる尾澤よりも、ケイトを担ぎながら進む俺の方が少しだけ早かった。箱は盾の役割をしつつ、しっかりと俺の後を着いてくる。


 カフェに着き、シャッターを上げ、何台かある車の内、一番大きい車にケイトは向かった。起動させるため、車体に自分の手をかざす。


「――指紋認証失敗。ご乗車いただけません――」


 搭載されたコンピュータが云う。何故解除できない。


「くそ。左手でしたか」


 ケイトは震わせながら左手をかざす。


「――指紋認証失敗。ご乗車いただけません――」


 手に穴が空いているからだ。指紋を読み込むどころじゃない。

 このままでは尾澤に追いつかれる。

 咄嗟に俺は箱に向かって喋った。


「おい開けろ!」


 こんなことで箱は開いてくれるかと思ったが、俺の声が登録されているのか、すんなりと開いてくれた。


「頼む凱! 起きてくれ!」


 箱の中から凱を抱きかかえ揺さぶった。

 ぐらりと首が反ると口が開き、歯はもう再生していた。


「頼む! 頼む! ごめんな。起きてくれ!」


 片足を引き摺る独特な足音が聞こえてくる。尾澤がそこまで迫ってきている。


 ケイトはもう一度車体に左手をかざす。俺はその手の上に凱の手を無理やり乗せた。散々酷い仕打ちを受けてきたこの力を使わせようとして、申し訳ない。だが頼む。今だけは、今だけは目を覚まして、ケイトの手を治してくれ……。


 ケイトの左手の穴が塞がり始めた。

 凱は半開きの目で、全ての状況を悟ったように見えた。


「――指紋認証成功。ご乗車ください――」


 扉が自動で開き、倒れ込むように乗った。箱も器用に足を延ばし乗り込む。

 車はデックスの車と同じように勝手に走り出した。

 後方に小さな窓があり、外の様子が見える。恐らく外からはこちらが見えない仕組みになっているものだ。


 それなのに、外にいる尾澤は確実に俺を見て、銃を撃った。

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