‐ 第42話 ‐ 混沌
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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。
「二発目まで撃ってくるなんて、なんて野蛮な連中なの! 早くこちらも迎撃しなさいよ! このままでは本部までヘリが持たないかもしれない! 凱は拘束しておいて!」
攻撃によってドアが吹き飛ばされてしまったため、ヘリの中は風に煽られていた。
奈須川の頭の中は凱と美生を捕獲し、教祖の元へ届けることでいっぱいだった。仮に失敗しても、どちらか一体だけでも持ち帰らなければ。
「ひっ……!」
タオが情けない悲鳴を上げた。
見ると、吹き飛ばされたドアの下から手を伸ばし、美生が攀じ登ってきている。その顔は血だらけで、頭部が欠けていた。ヘリにしがみついたまま味方の攻撃を受けたのだから、当然の損傷だろう。
虫の息にも拘わらず、足をかけようとしている。頭部は再生が始まっている。
いくら再生するとはいっても、ここまでのことができるだろうか……。
タオは美生の姿に畏怖し、感奮した。
「今その女はいらないわ! 傷が再生して中に入られると厄介なことになる! 早く突き落としさない!」
美生に魅入られ突っ立つタオに比べ、奈須川は判断こそ冷静だった。これだけの傷を負っても立ち向かう美生に敵わないと思ったのだ。このヘリの中には医師と操縦士しかいない。戦っても相手は死なない体なのだから泥仕合だ。凱一人はどうにかできても、美生は手に負えない。
この女は自分達に死ぬ気で向ってくる。
タオは奈須川の怒鳴り声で我に返り、命令通り美生の手を足で落とそうとした。
操縦士もヘリに搭載した重機関銃で地上の二人を迎撃する。
邪魔をするな! 早く落ちてしまえ! 奈須川は強くそう願っていた。
奈須川は転び、また床に手をついた。ヘリが大きく揺れたからではない。高いピンヒールを履いているせいでバランスを崩したわけでもない。
這いつくばる自分の前には、子どもが立っていた。回復した凱に突き飛ばされたのだ。
奈須川の怒りは沸点に達した。
奈須川は立ち上がり、思い切り凱を蹴り飛ばした。凱は勢いよくヘリの奥へと転がってゆく。
咳込みながらも凱は立ち上がろうとするが、既に目の前に奈須川が仁王立ちしており、鋭利なピンヒールで凱の胸を踏みつけた。凱は痛みに叫ぶ。
凱の悲鳴を聞いたタオが奈須川の方に目を向けた。
「……どうしたんですか? そんなもの持って」
「もう時間がないわ。歯だけでも先に回収する」
奈須川はヘリに常備されている工具箱を手に取っていた。
「えぇ! 無茶ですよ!」
「煩いわね! 逃げてからじゃ遅いのよ! あなたもその女をさっさと落として手伝いなさい!」
しぶとくヘリにしがみつく美生を蹴落とすことができず、タオは未だ苦戦していた。一体この女のどこから力が湧くのだろうと、未だ感心すらしていた。
血塗れでわかりにくいが、美生の欠けた頭部は完治に近付いていた。
如何してもそれを間近で見たく、タオは奈須川の命令など忘れ、欲望に従い美生に顔を近づけた。
その瞬間、まんまとタオは美生に腕を掴まれてしまった。
奈須川は凱の体の上に圧し掛かり、足で凱の両腕を抑えつけた。教祖ほどの力ではないが、奈須川もまた、肉体を強化していた。強さを求めたからではなく、老化を遠ざけんとするためであり、奈須川にとっては美容の一つに過ぎなかった。
凱は暴れるが、当然奈須川の力には敵わない。奈須川は奈須川で、子ども一人制圧できても一人で抜歯をするのは荒療治だった。
だが、奈須川はやるしかなかった。今まで何十人、ドクターアンソニーと合わせれば何百人と、凱と同じ力を持つ人間を作ろうと実験してきたが、悉く失敗に終わった。それなのに、宇智田美生は凱の歯を誤飲しただけで適合した。
奈須川には凱の歯が、自分と教祖の未来を変える希望だった。大鳳教に、教祖に貢献できる人間は、自分を置いて他にいるものか。
奈須川は工具箱からペンチを取った。




